第2章:戦士バルド1
砂嵐の残り香がまだ漂う中、沙耶は荒く息をつきながら、目前の光景を見ていた。
つい先ほどまで自分を襲いかかってきた獣――砂漠の魔物は、首を断たれて砂に沈んでいる。
それを斬ったのは、一人の戦士だった。
背は高く、肩幅も広く、鍛え上げられた体躯はまるで砂漠を歩く岩壁のようだ。褐色の肌には幾多の傷が刻まれ、日に焼けた髪は汗に濡れ、力強い眼光だけが鋭く光っていた。
大剣を担ぐ彼の姿に、沙耶はただ呆然と立ち尽くした。
「……あ、ありがとう……」
ようやく声を絞り出したが、それは乾いた喉のせいで掠れていた。
戦士はちらりと沙耶を見下ろすと、剣を軽く払って血を落とした。
「女一人で、こんな場所に足を踏み入れるとはな。死にたいのか?」
声は低く、響くようで、沙耶の心臓を強く打った。
「い、いえ……」
言い淀むが、胸の奥から抑えられない衝動が口を突いて出る。
「私は……考古学者です。この遺跡を、調べたくて……」
戦士は片眉を上げる。
「カコガク? なんだそれは。剣でも魔法でもねぇのか?」
「学問です。遺跡を調べ、古代の人々の暮らしや信仰を解き明かすんです」
戦士は一瞬黙り込み、次に鼻で笑った。
「そんなもんで腹が膨れるかよ」
「……武器にはなります。知識は、私の武器です」
その言葉に、戦士は少しだけ目を見開いた。
「知識が武器、か。――なるほどな」
彼は大剣を背に収めると、どこか愉快そうに笑った。
「俺はバルドだ。お前は?」
「真壁沙耶。……沙耶と呼んでください」
こうして、考古学者と戦士の名乗りが交わされた。