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2

 ――光があふれた。


 封印の扉に刻まれた太陽の紋章が、まるで命を宿したように眩い輝きを放つ。

 その光は視覚だけではなく、耳に響き、肌を震わせ、心臓の鼓動さえ同調させるような圧倒的な存在感を持っていた。


 沙耶は息を呑み、ティオの肩を抱きながら目を凝らす。

 目の前に広がるのは、現実ではなく――記憶そのものだった。





 眩い光の中に、街が浮かび上がる。

 白い石で築かれた高楼、幾何学模様を描いた広場、そして巨大な祭壇。

 人々は陽光を受け、黄金の衣をまとい、空へと手を伸ばして祈りを捧げていた。


「……これが……太陽神殿が栄えていた時代……?」

 沙耶の声は震えていた。考古学者として、求め続けた「失われた文明」が目の前に広がっている。


 フィリクスも言葉を失い、眼鏡の奥で瞳を揺らしている。

「まさか……これが記録ではなく、“映像”として残っているなんて……! 学術的価値は……いや、それ以上に……」


 バルドでさえ息を呑み、呟いた。

「……これが、人間が築いた街なのか……。神話じゃなかったんだな」





 やがて、街の中心――祭壇に、一際強い光が降り立つ。

 その光が形を取り、人の姿へと変わった。


 黄金に輝く髪と、燃えるような瞳を持つ青年。

 背には光の羽が広がり、その存在感は言葉を超えて“神”と呼ぶにふさわしい。


『我が名はウトゥ。人に光を与え、秩序を授ける太陽の守護者なり』


 その声は、直接脳に響き渡った。

 エリュシアが息を呑む。

『……やはり、彼の存在が……! この神殿は、太陽神そのものの記憶を宿している……!』





 幻視の中で、太陽神は人々に知恵を授けていた。

 農耕、天文学、建築技術。

 季節を読む暦と、砂漠に水を運ぶ水路の技術。


 人々は豊かになり、文明は黄金期を迎えた。

 彼らの文化は、この世界において突出して高度で、まるで沙耶の世界の古代文明と重なって見えた。


「……地球のシュメール文明……いや、もっと洗練されている……。

 まさか、異世界間で文明が――」

 沙耶の思考が加速していく。





 だが、映像は突如として色を変えた。

 街に影が広がる。

 黒い雲のような存在が人々を覆い、建物を蝕み、太陽の光さえ遮り始めた。


 人々が怯え、叫び、逃げ惑う。

 その影の中心から、禍々しい声が響いた。


『光が強ければ、影もまた深まる。

 人の欲望が我を呼び、人の恐れが我を育てる……』


 ――それは、災厄そのもの。


 黒い靄が形を成し、無数の獣の姿をとって街を蹂躙していった。





 太陽神ウトゥは剣を掲げ、光で影を焼き払った。

 その戦いは壮絶で、天地を揺るがすほどだった。

 大地が割れ、炎が天を焦がし、光と闇が衝突する。


 しかし影は滅びなかった。

 人々の心に恐怖と欲望がある限り、幾度も甦った。


『……ならば、封じるしかない……!』


 太陽神は最後の力を振り絞り、祭壇に“封印”を築いた。

 それが今、沙耶たちが立つこの神殿の起源だった。





 幻視はさらに続く。

 封印の儀式には「供物」が必要だった。

 それは血と声――人の生命と意志の象徴。


 太陽神自身が己の神力を削り、永劫の眠りにつくことを選んだ。

 そして人々はその眠りを守るために神殿を築き上げた。


 やがて文明は衰退し、人々は散り、神殿だけが砂漠に残された。





 光が揺らぎ、幻視はゆっくりと消えていった。

 静寂の中に戻った神殿で、沙耶たちはただ立ち尽くすしかなかった。


 ティオが小さな声で呟く。

「……太陽神様は、人を守るために……自分を犠牲に……」


 フィリクスは震える声で言葉を漏らした。

「これこそ……歴史の真実……! だが……封印が揺らげば、再び影が……」


 エリュシアが目を閉じ、厳かに告げた。

『災厄は決して滅びぬ。

 今、扉を開いたことで……再び、目を覚ましつつある……』


 その言葉に、全員の背筋が凍りついた。


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