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4

 ――夜の砂漠に、あり得ないほどの光が満ちていた。


 沙耶の腕に抱かれた結晶は、もう小さな輝きではなかった。

 それはまるで第二の太陽のように輝き、灼けつくような光を放ち続けていた。


 光は砂粒をひとつひとつ煌めかせ、神殿の石壁を神々しい金色に照らし上げる。

 その光景は、戦場であることを忘れさせるほど荘厳だった。



 盗掘団の男たちは恐怖に震え、次々に後退していった。

「な、なんだこの光は……!」

「やばい……やばいぞ! 神殿の呪いだ!」


 彼らは狼狽え、武器を放り出す者まで現れた。

 しかし指揮役らしき男は必死に叫んだ。

「退くな! あの女が持ってる結晶こそお宝だ! 奪えええッ!」


 だがその声は、光の奔流にかき消された。



「沙耶……!」

 バルドは必死に叫ぶ。

「その結晶は危険だ! 放せ!」


「駄目! これは……私を選んでる!」

 沙耶の声は震えていたが、意志は揺るがなかった。

 彼女は結晶を抱きしめ、目を閉じた。


(あなたは……何? どうして私に……?)


 意識の奥に、言葉が響く。

 それは夢の中で囁かれるような、遠くも近くもない、不思議な声だった。


『……長き封印……今こそ解かれるべき時……』


 その瞬間、沙耶の胸に強烈な熱が走った。



 彼女の足元から、光の陣が広がる。

 砂の上に幾何学模様が浮かび上がり、古代文字が炎のように踊った。

 それは沙耶が碑文で解読した「声と血と光の儀式」そのものだった。


「これ……私の声と、私の血……」


 指先に小さな切り傷が走り、血が一滴、結晶に落ちる。

 瞬間――


 光が爆ぜた。



 フィリクスは目を覆いながら、必死にその光景を観察していた。

「これは……古代魔術の……完全な発動式……!」

 普段の皮肉も余裕もなく、学者としての驚愕だけが口から漏れる。


 ティオは涙目で沙耶を見つめていた。

「沙耶さん……無事で……いて……!」


 バルドは剣を構え、盗掘団と光の両方に警戒しながら吼えた。

「沙耶ぁ! 戻ってこい!」


 だがその声も届かない。

 沙耶の意識は完全に“結晶の中”に引き込まれていた。



 ――そこは、光に包まれた白の世界だった。


 果てしなく続く空間。

 重力も、時間も、音もない。

 ただ漂うのは、無数の輝き。


 沙耶はその中に立ち尽くしていた。

 まるで宇宙の中心に立たされているかのような、不思議な感覚。


「ここは……どこ……?」


 答えるように、光の粒がひとつに集まり、輪郭を形作っていく。


 ――少女の姿。


 白銀の髪、透き通る瞳、そして羽衣のような光の衣。

 その存在は、あまりにも神秘的で、この世のものではなかった。



『……我が名はエリュシア。

 太陽神殿と共に封じられし、精霊の記憶……』


 その声は澄み切っていた。

 幼くもあり、大人びてもいる、不思議な響きを持っていた。


 沙耶は息を呑む。

「精霊……? 本当に……存在していたの……?」


 エリュシアは微笑み、しかしその瞳には深い哀しみがあった。

『長い時を眠り続けた。けれど、また災厄は目覚めようとしている……

 お前の声と血が、私を呼び覚ましたのだ』


「私が……?」


 沙耶は言葉を失った。



 現実世界。

 光は次第に収束し、盗掘団の連中は恐怖に駆られて逃げ散っていた。

 バルドとフィリクスは必死に沙耶の元へ駆け寄る。

 ティオも泣きそうな顔で叫ぶ。


「先生っ! しっかりして!」


 そして――


 光の中心から、沙耶がゆっくりと姿を現した。

 彼女の隣には、淡い光を纏った少女――精霊エリュシアが立っていた。


 仲間たちは目を見開き、言葉を失った。


 静かに、エリュシアが告げる。


『――これより先、お前たちは選ばれる。

 封印を守る者か、それとも破る者か。

 この砂漠の運命は……お前たちに託される』


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