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3

 砂漠の夜風が荒れ狂い、砂塵が戦場を覆う。

 十数人の盗掘団が四方八方から襲いかかり、バルドとフィリクスはその渦の中で必死に応戦していた。



 バルドの剣が唸るたび、鋼のきらめきとともに敵の武器が弾かれ、砂に叩きつけられる。

 彼の体は傷だらけだったが、その背中は一歩も退かない。


「まだ来るか……!」

 荒い息を吐きながらも、バルドは立ちはだかる壁そのものだった。


 しかし盗掘団は数で押してくる。

 槍を突き出す者、石を投げつける者、背後から回り込もうとする者。

 彼らの執念はまるで飢えた狼の群れのようだった。



 その後方で、フィリクスが短杖を振るい続ける。

「〈幻光矢ルーメン・アロー〉!」

 指先から放たれた光の矢が、敵の腕を貫き、武器を弾き飛ばす。

 続けざまに呪文を紡ぐ。

「〈砂嵐幕サンド・ヴェール〉!」


 砂が巻き上がり、煙幕のように敵の視界を覆った。


 だがその顔には汗が滲み、額の髪が頬に張り付いていた。

 普段の余裕を装う皮肉な笑みは消え失せ、彼の唇は小さく震えていた。


(魔力の消耗が……激しい……)


 フィリクスの魔術は強力だが、長期戦に耐えられるほどではない。

 それでも彼は倒れるわけにはいかなかった。

 沙耶やティオの存在が、彼を支えていた。



 一方、ティオは――。


 彼は沙耶の前に立ち尽くし、必死に震える足を踏ん張っていた。

 大人の盗掘団に比べれば、彼の体はあまりにも小さい。

 木の棒を握る手は汗で滑り、膝はがくがくと震えていた。


「こ、こっちに来るな! さ、沙耶さんには指一本触れさせない!」


 声は裏返り、目には涙がにじんでいた。

 だがその眼差しは、まっすぐだった。

 怯えながらも、仲間を守ろうとする意思だけは揺らがなかった。


 盗掘団の一人が鼻で笑い、ティオに迫る。

「ガキが……調子に乗るな!」

 刃が振り下ろされようとした瞬間――


「やめろォッ!」

 ティオが必死に棒を突き出した。

 それはかすかに盗掘団の腕を打ち、攻撃の軌道を逸らす。


 そのわずかな隙に、バルドの大剣がうなりを上げて振り下ろされた。

 盗掘団の男は弾き飛ばされ、砂の上に転がった。


「よくやったぞ、坊主!」

 バルドが振り返り、短く叫ぶ。

 ティオは涙を浮かべながらも、胸を張った。



 その光景を見ていた沙耶の胸は、熱く揺れていた。


 彼女は結晶を抱きしめたまま、必死に考えていた。

(このままじゃ……数で押し潰される……! どうすれば……!)


 脳裏に、これまでの研究と知識が走馬灯のように駆け巡る。

 石碑の文字、壁画の記録、封印の仕組み。

 すべては「光」と「声」と「血」で成り立つとあった。


(まさか……この結晶が……?)


 結晶は手の中で淡く脈動していた。

 彼女の心臓の鼓動と同調するかのように。



「沙耶!」

 バルドの怒声が響いた。

「隠れてろって言っただろうが! 出てくるな!」


 その言葉に、沙耶は強く首を振った。

「違う! 私が……私がしなきゃいけないの!」


 彼女の目は、恐怖を超えていた。

 学者としての直感、そして命を賭けて仲間を守る覚悟。

 そのすべてが、結晶に吸い込まれていく。



 その瞬間――


 結晶が光を放った。


 眩い黄金の輝きが砂漠の夜を切り裂き、戦場を照らす。

 盗掘団の男たちは思わず目を覆い、叫び声を上げた。

「な、なんだこれは!?」


 バルドも、フィリクスも、ティオも――そして沙耶自身も、目を見開いていた。


 結晶の奥で、誰かの声が微かに囁いた。

 それは、砂漠の風のように柔らかく、しかし確かに存在する声。


『――目覚めの時は近い』


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