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砂嵐が吹き荒れる中、盗掘団の一団は半円を描くように沙耶たちを取り囲んだ。
粗末な鎧に砂で汚れた布を巻き付けた男たち。十数名はいる。だがその眼は欲望に濁り、鋭く光っていた。
「……ずいぶんと高価そうなモノを抱えてやがるな。お嬢さん」
リーダー格の男――頬に深い刀傷を刻んだ壮年の男が、にやりと笑った。
その笑みは獲物を見つけた獣のように冷酷だ。
「こいつを渡せば命は助けてやると言ったはずだ。……さぁ、どうする?」
沙耶は結晶を抱きしめたまま、唇を噛んだ。
恐怖はあった。だがそれ以上に、彼女の胸を突き動かすものがあった。
(この結晶だけは、絶対に渡せない……!)
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バルドが前に一歩踏み出した。
重い大剣を片手で持ち上げ、その刃を砂の地面に突き立てる。
ガキィン! と金属音が響き、空気が震える。
「……悪いが、こいつは渡さねぇ」
低く、唸るような声。
バルドの両肩から放たれる圧は、まるで砂漠に立つ岩山のように揺るぎなかった。
リーダーの男は鼻で笑った。
「へっ、ひとりで十人以上を相手にできるつもりか? バカが」
「一人じゃねぇよ」
バルドはちらりと後ろを振り返る。
そこにはフィリクスとティオ、そして結晶を抱えた沙耶の姿があった。
フィリクスは腕を組んだまま、皮肉げに笑った。
「愚か者どもだ。学術的価値も理解できずに、ただ金の匂いに群がるとは」
「な、なんだと!」と盗掘団の一人が怒鳴るが、フィリクスは微動だにしない。
その冷たい眼差しに、一瞬盗掘団の足が止まる。
そしてティオ。
彼は小さな体を精一杯張り、震えながらも沙耶の前に立った。
「ぼ、僕が……先生を守る! 絶対に渡さない!」
小さな拳を握る音が、かすかに聞こえた。
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盗掘団のリーダーが舌打ちした。
「チッ……ガキの戯言を聞く気はねぇ。――やれ!」
号令と同時に、盗掘団の数名が一斉に飛び出す。
砂を蹴り上げ、刃が閃いた。
――その瞬間。
ズドン!
大地を震わせるような衝撃音。
バルドの大剣が地面を叩き割り、突進してきた盗掘団の足元を砕いた。
砂塵が舞い上がり、男たちがたたらを踏む。
「俺を通れると思うなよ!」
バルドが大剣を横薙ぎに振る。
盗掘団の武器が次々と弾かれ、火花が散る。
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その間に、フィリクスが冷静に動いていた。
彼は腰から取り出した短杖を掲げ、低く呟く。
「〈幻光〉……」
瞬間、盗掘団の目の前に眩い閃光が炸裂した。
男たちは「うっ!」と目を押さえ、動きが止まる。
フィリクスは鼻で笑った。
「粗暴な連中には、少し眩しい知恵を与えてやるだけで十分だ」
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沙耶は胸に結晶を抱えながら、その光景を必死に見つめていた。
心臓が喉を突き破りそうなほど高鳴る。
だがその中で、確かに理解していた。
――今この瞬間、彼女は“仲間”に守られているのだ、と。
そして、その仲間を守るためにこそ、自分がすべきことがある。
(私も……何かできるはず!)
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戦場は一瞬にして混沌と化した。
バルドの剣が唸り、フィリクスの幻術が敵を惑わせ、ティオが必死に叫び声を上げながら沙耶の前に立ち続ける。
だが盗掘団の数はまだ多い。
戦況は、まだ決して楽観できるものではなかった。