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2


 砂嵐が吹き荒れる中、盗掘団の一団は半円を描くように沙耶たちを取り囲んだ。

 粗末な鎧に砂で汚れた布を巻き付けた男たち。十数名はいる。だがその眼は欲望に濁り、鋭く光っていた。


「……ずいぶんと高価そうなモノを抱えてやがるな。お嬢さん」

 リーダー格の男――頬に深い刀傷を刻んだ壮年の男が、にやりと笑った。

 その笑みは獲物を見つけた獣のように冷酷だ。


「こいつを渡せば命は助けてやると言ったはずだ。……さぁ、どうする?」


 沙耶は結晶を抱きしめたまま、唇を噛んだ。

 恐怖はあった。だがそれ以上に、彼女の胸を突き動かすものがあった。


(この結晶だけは、絶対に渡せない……!)



 バルドが前に一歩踏み出した。

 重い大剣を片手で持ち上げ、その刃を砂の地面に突き立てる。

 ガキィン! と金属音が響き、空気が震える。


「……悪いが、こいつは渡さねぇ」

 低く、唸るような声。

 バルドの両肩から放たれる圧は、まるで砂漠に立つ岩山のように揺るぎなかった。


 リーダーの男は鼻で笑った。

「へっ、ひとりで十人以上を相手にできるつもりか? バカが」


「一人じゃねぇよ」

 バルドはちらりと後ろを振り返る。

 そこにはフィリクスとティオ、そして結晶を抱えた沙耶の姿があった。


 フィリクスは腕を組んだまま、皮肉げに笑った。

「愚か者どもだ。学術的価値も理解できずに、ただ金の匂いに群がるとは」


「な、なんだと!」と盗掘団の一人が怒鳴るが、フィリクスは微動だにしない。

 その冷たい眼差しに、一瞬盗掘団の足が止まる。


 そしてティオ。

 彼は小さな体を精一杯張り、震えながらも沙耶の前に立った。

「ぼ、僕が……先生を守る! 絶対に渡さない!」


 小さな拳を握る音が、かすかに聞こえた。



 盗掘団のリーダーが舌打ちした。

「チッ……ガキの戯言を聞く気はねぇ。――やれ!」


 号令と同時に、盗掘団の数名が一斉に飛び出す。

 砂を蹴り上げ、刃が閃いた。


 ――その瞬間。


 ズドン!


 大地を震わせるような衝撃音。

 バルドの大剣が地面を叩き割り、突進してきた盗掘団の足元を砕いた。

 砂塵が舞い上がり、男たちがたたらを踏む。


「俺を通れると思うなよ!」

 バルドが大剣を横薙ぎに振る。

 盗掘団の武器が次々と弾かれ、火花が散る。



 その間に、フィリクスが冷静に動いていた。

 彼は腰から取り出した短杖を掲げ、低く呟く。

「〈幻光〉……」


 瞬間、盗掘団の目の前に眩い閃光が炸裂した。

 男たちは「うっ!」と目を押さえ、動きが止まる。


 フィリクスは鼻で笑った。

「粗暴な連中には、少し眩しい知恵を与えてやるだけで十分だ」



 沙耶は胸に結晶を抱えながら、その光景を必死に見つめていた。

 心臓が喉を突き破りそうなほど高鳴る。

 だがその中で、確かに理解していた。


 ――今この瞬間、彼女は“仲間”に守られているのだ、と。


 そして、その仲間を守るためにこそ、自分がすべきことがある。


(私も……何かできるはず!)



 戦場は一瞬にして混沌と化した。

 バルドの剣が唸り、フィリクスの幻術が敵を惑わせ、ティオが必死に叫び声を上げながら沙耶の前に立ち続ける。


 だが盗掘団の数はまだ多い。

 戦況は、まだ決して楽観できるものではなかった。


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