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第12章 封じられた結晶1

 崩壊する神殿から辛くも脱出した一行は、砂漠の陽光の下でしばし呆然と立ち尽くしていた。

 背後では、数千年もの時を超えて屹立してきた巨大神殿が、今まさに砂に飲み込まれようとしていた。

 砂嵐が巻き上がり、轟音が空気を震わせる。その様はまるで、大地そのものが悲鳴を上げているかのようであった。


「……終わっちまったな」

 バルドが短くつぶやいた。


 しかし沙耶の瞳は、ただ崩壊を見つめてはいなかった。

 彼女の視線はあの瞬間、ティオが模写してくれた紋様、そして瓦礫の奥で輝いた“何か”に釘付けになっていた。


(あれは……封印の核心。まだ、すべてが埋もれたわけじゃない)


 胸の奥で確信めいた直感が熱を帯びる。

 学者として、探究者として、そして異世界に生きる者として。

 ――まだ“見つけなければならないもの”がある。





「おい、まさか戻る気じゃねぇだろうな」

 バルドが怪訝そうに睨む。


「戻るんじゃない。ただ……ここからでも探せるはずよ」

 沙耶は砂に膝をつき、地面を注意深く撫でるように調べ始めた。


 瓦礫の破片、砂に混じる黒い鉱石。

 その中に、かすかに“淡い光”を放つ欠片があった。


「……見つけた」


 沙耶は指先で拾い上げる。

 それは拳ほどの透明な結晶片で、内部に小さな光が渦を巻いている。

 まるで生き物が閉じ込められているかのように、光は鼓動のように明滅していた。


「これは……ただの宝石じゃない」

 フィリクスが顔を寄せ、目を凝らす。

「魔力の波動が……いや、もっと深い、“意志”のような反応を感じる」


 ティオは目を輝かせた。

「さやさん! これが神殿が守ってきたものなんじゃない?」


 沙耶は無言でうなずいた。

 確信があった――これは“鍵”だ。

 神殿が崩壊する中でも、最後に守り抜かれた存在。





 結晶を両手で包み込んだ瞬間、沙耶の脳裏に鋭い閃光が走った。


『……聞こえるか……』


 声。

 直接耳ではなく、頭の内側に響くような声。

 古代語の響き――しかし沙耶には、なぜか意味が理解できた。


『我は……封じられし……記録の器……』


 その瞬間、彼女の視界が揺らぎ、砂漠の風景が幻影に覆われる。

 果てしない大地に築かれた壮麗な都市、天を焦がすほどの太陽の祭壇、そして人々が空を仰ぎ祈る姿――。


「っ……!」

 思わず結晶を取り落としそうになるが、バルドが素早く腕を伸ばして支えた。


「おい、しっかりしろ!」

「だ、大丈夫……ただ、見えたの。古代の光景が……」


 息を荒げる沙耶に、フィリクスは真剣な眼差しを向ける。

「やはり……それは“記録装置”だな。古代文明が、自らの歴史や儀式を結晶に封じ込めた……」


 ティオは興奮で震えていた。

「すごい……本物の古代人の声を聞いたんだ!」


 だが沙耶は、その声が単なる記録ではなく、“今も生きている意志”であることを直感していた。





 その時だった。

 砂嵐の中、遠くから複数の足音と砂煙が近づいてきた。


 バルドが即座に剣を構え、低くうなった。

「……来やがったか」


 視界の彼方から現れたのは、粗末な鎧と武器を身に着けた集団。

 砂漠を荒らす盗掘団――神殿の崩壊を見計らい、獲物を狙ってやってきたのだ。


「へっへっ……ずいぶん苦労して掘り出してくれたじゃねぇか」

 先頭の男が下卑た笑みを浮かべた。

 その視線は、沙耶の手に抱えられた結晶に釘付けになっている。


「そいつを渡せ。おとなしく渡せば命は助けてやる」


 ティオが震えながらも沙耶の前に立った。

「だめだ! これは僕たちが見つけたんだ!」


 バルドは大剣を肩に担ぎ、不敵に笑った。

「クソ野郎ども……ここから先は一歩も通さねぇ」


 フィリクスが低く呟く。

「……ここからが本番か」


 沙耶は結晶を胸に抱きしめ、決意を固める。

 この結晶はただの遺物ではない――この世界の真実を握る“鍵”。

 絶対に、奪わせてはならない。


 砂漠の空気が、再び張り詰めていく。


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