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4


 光に包まれた瞬間、彼らの胸に希望が差し込んだ。

 だが同時に、神殿全体が大きく揺れ、天井から砂塵が雪崩のように降り注ぐ。

 太陽の間を越え、封印の扉の奥へ進んだ代償――封印を支えていた構造が崩れ始めていたのだ。


「走れ!」

 バルドが大剣を担ぎながら怒鳴る。

 その声に押され、沙耶もティオも、そしてフィリクスも必死に出口へと駆け出した。





 長い回廊を進むと、両壁に刻まれたレリーフが剥がれ落ちていく。

 砂が滝のように流れ込み、まるで神殿自体が「もう立ち去れ」と叫んでいるかのようだった。


 ティオが小柄さを生かして先頭を駆け抜け、沙耶はその背を必死で追う。

 フィリクスは本を片手に抱えながらも、足を止めることなく走った。

 後方ではバルドが何度も振り返り、瓦礫を大剣で弾き飛ばして道を確保していた。


「ちっ……! これ以上は持たねぇぞ!」


 砂と石の音が耳を塞ぐ。だがその中で、沙耶の心臓は鼓動を高鳴らせていた。

――この神殿が伝えたかったもの。まだ、全部を見たわけじゃない。





 走りながら、ふと横の壁に輝きを見た。

 崩れかけた壁の奥、砂に覆われかけた石版――そこに奇妙な光の紋様が浮かんでいた。


「待って! あれ……!」

 沙耶が立ち止まろうとした瞬間、バルドが彼女の腕を掴んだ。


「おい! 命がけで出口を目指してんだぞ!」

「でも……! あれは考古学的に決定的な証拠なの!」

 彼女の声は必死だった。


 フィリクスがちらりとその壁を見やり、目を見開く。

「……くっ、確かに……! ただの装飾じゃない、“真なる封印”の紋章だ!」


 瓦礫がさらに崩れ、石版の上に砂が降り積もる。

 沙耶は歯を食いしばり、ティオに叫んだ。

「ティオ! 小さい君なら届く! 急いで写し取って!」


「う、うんっ!」

 少年は身軽に壁へ駆け寄り、砂を払って紋様を必死に模写し始めた。

 短い時間、ほんの数秒――だがそれは命懸けの作業だった。





 頭上の天井が崩れ落ち、轟音が響く。

 フィリクスは魔法の障壁を展開し、ティオの背を守る。

 バルドは二人の前に立ち、瓦礫を剣で弾き返す。


 沙耶は震える声でティオを励ます。

「大丈夫、君ならできる……信じてる!」


 ティオの小さな手が最後の線を描き切った瞬間、壁全体が崩落し、石版は完全に埋もれてしまった。


「間に合った!」

 少年は模写した羊皮紙を掲げ、涙混じりに叫ぶ。


 沙耶は息を呑んだ。

 描かれた紋様は――かつて見たどの文明とも異なる、しかし太陽神信仰と確かに繋がる「失われた記号」だった。





「よし、もうここに用はねぇ! 全員、出口へ!」

 バルドの怒声とともに、一行は最後の直線を駆け抜けた。


 前方、崩れかけた扉の隙間から砂漠の陽光が差し込んでいる。

 その光は揺れ動く影を引き裂き、彼らを導くようだった。


「飛べぇぇぇッ!」

 バルドの掛け声とともに、一行は瓦礫が崩れ落ちる寸前に光の中へ飛び出した。


 背後で轟音。

 巨大な神殿が地鳴りを響かせ、砂に沈み込むように崩壊していった。





 砂漠の風が吹き抜ける。

 全員、砂にまみれながらも無事に地表へと転がり出ていた。


 ティオが羊皮紙を抱きしめ、誇らしげに言った。

「……僕、やったよ……! 先生……!」


 沙耶はその肩を抱き、笑いながら涙をこぼした。

「うん、君が救ってくれた。あの紋様は、この世界の真実を繋ぐ鍵になる」


 フィリクスは砂まみれの眼鏡を外し、苦笑した。

「まったく……君という存在は、私の学問を根底から揺さぶってくれる。忌々しいほどにね」


 バルドは空を仰ぎ、豪快に笑った。

「生き延びたんだ、それで十分だろう! ……にしても、こりゃただの遺跡探索じゃ済まねぇな」


 沈みゆく神殿の残骸を背に、彼らは互いの姿を確かめ合った。

 その瞬間から――仲間としての絆が、砂漠に刻まれたのだった。

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