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2

 轟音とともに石の柱が折れ、広間の一角が崩れ落ちた。

 土煙が視界を覆い、砂が肺に入り込む。咳き込みながら、沙耶は腕で口を覆った。


「このままじゃ埋まるぞ!」

 バルドが怒鳴り、ティオを小脇に抱えて走り出す。

 大地の震えは止まらず、もはや神殿全体がひとつの“生き物”のように暴れ狂っている。


 沙耶は視界の端に、崩落した壁の隙間を見つけた。

「あそこ! 側廊に抜けられる!」

 指差すと同時に駆け出す。


 フィリクスは一瞬ためらったが、杖を掲げ、魔力の障壁で後方から迫る瓦礫を弾きながら続いた。

「君の判断に賭ける!」


 側廊へ飛び込むと、そこは既に変貌を遂げていた。

 本来まっすぐ伸びていたはずの通路は、崩落と砂の流入によって複雑な迷路のようになっていたのだ。


 ティオが不安げに声を上げる。

「ど、どっちに行けばいいの……?」

 暗闇に響く少年の声は、崩壊音にかき消されそうになる。


 沙耶は壁を撫で、指先で彫刻の凹凸を確かめた。

 ――星座のレリーフ。

 それは古代の“道標”を意味していた。


「……こっちだ!」

 迷いを断ち切るように声を上げる。

「星図が示すのは北。崩れる前は、この通路が外に繋がっていたはず!」


 バルドがティオを抱き直し、ためらいなく先頭を切った。

「よし、走れ!」


 だが次の瞬間、頭上の梁が崩れ、通路を塞ぐように落下した。

 轟音。砂煙。

 進路が完全に断たれた。


「ちっ……! 別の道を探すしかねぇ!」

 バルドが舌打ちをし、背後を振り返る。


 しかしその背後からも、瘴気が迫ってきていた。

 黒い霧が、まるで意思を持つ触手のように蠢きながらこちらへ伸びてくる。

 ティオが悲鳴を上げ、沙耶の腕を強く握った。


「いやだ……飲み込まれる……!」


 その恐怖を振り払うように、沙耶は声を張り上げる。

「大丈夫! ここには必ず出口がある! 遺跡は……道を示すために造られてるんだから!」


 その言葉に、フィリクスの瞳が一瞬揺らいだ。

「……道を示すために、か。考古学者の直感……信じるしかないな」


 彼は杖を地面に叩きつけ、魔法陣を展開する。

 淡い光が迷路の壁を照らし出し、崩落の隙間にかすかな通路が浮かび上がった。


「見つけたぞ、隙間だ! ここを通れる!」

「よし、俺が先に行く!」

 バルドが剣を肩に担ぎ、瓦礫を力任せに押しのけた。


 通路は狭く、成人男性でも身を屈めなければ通れないほどだ。

 ティオは小柄な体を震わせながら、先に滑り込んだ。

「ひっ……暗い……でも、行く!」


 沙耶はその背を必死に見守りながら、自らも後に続く。

 瓦礫が背中を削り、砂が口に入る。それでも前へ――


 やがて四人は再び広間に出た。

 そこは半壊しており、天井の亀裂から光が差し込んでいた。

 わずかながら“外”に繋がる兆しが見える。


「あと少し!」

 沙耶の声に、皆の顔が一瞬だけ明るくなった。


 だがその時――地面から黒い瘴気が噴き上がり、形を持ち始める。

 ――影の獣。


「……っ、出やがったか!」

 バルドが剣を抜き、前に立つ。

「行け、沙耶! 出口を探すんだ!」


 沙耶は震える膝を押さえながら、仲間の背中を見つめた。

 ――戦士、少年、学者、そして自分。

 誰一人欠けてはいけない。


「……絶対に、全員で生きて出る!」

 彼女の決意の声が、崩壊する神殿に反響した。

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