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第11章:崩壊する神殿1


 盗掘団が退却してから、広間には重苦しい沈黙が訪れた。

 だが、その静けさはすぐに――低い唸り声のような地響きによって破られた。


「……今の、聞こえたか?」

 バルドが剣を構えたまま、周囲を見回す。

 石造りの床が震え、天井の砂がぱらぱらと降り注ぐ。


 沙耶は胸の奥に、ひやりとしたものを感じていた。

「違う……これは敵の足音じゃない。もっと大きい……神殿そのものが、軋んでる」


 石壁に刻まれた古代文字が、不気味に淡い光を帯び始める。

 まるで“目覚め”を告げるかのように。


 フィリクスが眉をひそめた。

「封印の力が乱れている。先ほどの戦闘で魔力の均衡が崩れたのかもしれん……」

 彼の冷静な声も、かすかに震えていた。


 ティオは両手で頭を押さえ、うめき声を漏らす。

「う、うわっ……! 耳の奥で、誰かが叫んでるみたいだ!」

 少年の小さな体が震えている。


 沙耶はティオの肩を抱きしめながら、自分自身の心臓が早鐘のように打ち始めているのを感じた。

「これが……封印の声……?」

 考古学者としての好奇心と、異世界に来て初めて感じる“死の恐怖”がせめぎ合う。


 広間の奥、封印の扉の隙間から――砂嵐のような黒い霧が溢れ出し始めた。

 それは風ではなく、明確な意思を持つ瘴気のようにゆらめいている。


「……これはただの崩壊じゃない」

 フィリクスが一歩退き、冷たい声で告げる。

「何かが……この世界に戻ろうとしている」


 その瞬間、地鳴りが一際大きくなり、床に亀裂が走った。

 瓦礫が降り注ぎ、ティオが思わず悲鳴を上げる。

「きゃあっ!」


 バルドが咄嗟に少年を抱え、転がるようにして避けた。

「おい坊主、しっかりしろ!」


 天井の大きな石塊が、沙耶の頭上に影を落とす――

「沙耶!」

 フィリクスが叫び、杖を振り抜いた。

 光の障壁が展開し、寸前で石を弾き飛ばす。


 振り返った沙耶の瞳と、フィリクスの瞳が一瞬交錯した。

 ――その奥に、互いの“信頼の芽”が芽吹きつつあった。


「ありがとう……」

 息を整えながら呟く沙耶に、フィリクスはそっけなく答えた。

「礼はいい。今は生き延びることだけを考えろ」


 しかしその冷たい口調の裏に、彼女を守るための確固たる意志が確かに感じられた。


 崩壊は止まらない。

 壁のレリーフが軋み、彫刻された“太陽神”の顔が崩れ落ちる。

 まるで神殿そのものが、封印の解放を拒んで暴れているかのように――


「……ここから脱出しないと」

 沙耶は拳を握りしめ、強く言った。

「でも、私は分かる。この奥に、必ず“核心”がある……!」


 考古学者としての直感が、今もなお胸を突き上げていた。

 ――危険の中にこそ、真実は眠っているのだと。


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