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盗掘団の数は思った以上に多かった。
松明を掲げて押し寄せる彼らの怒号が、崩れかけた広間に反響する。
しかし――沙耶たちは退かなかった。
バルドは荒々しい呼吸をしながらも、大剣を振り続ける。
「来るなら来いッ! 何人まとめてでも斬り伏せてやる!」
剣が唸りを上げるたび、盗掘団員が次々と弾き飛ばされる。
フィリクスは壁際に移動し、冷静に呪文を重ねた。
「〈束縛の鎖〉!」
光の鎖が床から伸び、敵の足を絡め取る。盗掘団員が転倒し、仲間同士で折り重なる。
「くそっ……魔術師までいやがるのか!」
「退くな! 封印の宝は俺たちのもんだ!」
その叫びに、フィリクスの瞳が鋭く光った。
「……お前たちに学術的価値が理解できるものか」
彼は滅多に見せない激情をあらわにした。
「これは文明の遺産だ! 強欲な略奪者の手に渡すくらいなら――」
詠唱がさらに強まる。砂塵が舞い上がり、光の奔流が広間を駆け抜けた。
眩い閃光に盗掘団員たちは怯み、次々と武器を落とす。
「こ、こんな奴らに敵うか! 退け!」
やがて盗掘団の首領が撤退を叫び、残党たちは慌ただしく広間の奥へと逃げていった。
静寂が戻る。
瓦礫が崩れ落ちる音だけが、広間に響いていた。
バルドは剣を肩に担ぎ、深く息を吐く。
「ふぅ……手強かったが、まぁ大したことはねぇな」
沙耶はすぐにティオのもとへ駆け寄った。
「ティオ、大丈夫!? 怪我は……」
少年の頬には血が滲んでいた。だが彼は強く首を振る。
「平気だよ。僕、守れたから……!」
沙耶は思わず胸に彼を抱き寄せた。
「……ありがとう。無茶しないで、って言いたいけど……その気持ち、すごく嬉しい」
その光景を横目に、フィリクスは表情を険しくしたままつぶやいた。
「知識が踏みにじられる……それが、これほどまでに腹立たしいとはな」
沙耶は静かに彼を見つめる。
「フィリクス……あなたも同じなんだね。
私と同じように、遺跡を“宝物”じゃなくて、“真実”として見ている」
フィリクスは前髪を払い、ふっと目を伏せる。
「……そうかもしれん。だが僕は君を認めたわけじゃない。まだな」
だがその声音には、わずかな柔らかさが混じっていた。
戦いを終えた仲間たち。
だが神殿の奥では、まだ封印の気配が脈動している。
砂漠の夜を越え、さらなる試練が彼らを待ち受けていた。