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盗掘団の怒号と同時に、砂を蹴る音が神殿の広間を満たした。
松明の炎が揺れ、壁に刻まれた太陽のレリーフが戦乱の影を映し出す。
「下がってろ!」
バルドが大声をあげ、剣を振り抜いた。鋼が風を裂き、最前列の盗掘団員の短剣を弾き飛ばす。
「ぐっ……!」男が呻いて壁際に吹き飛ぶ。
「すげぇ……!」ティオの口から、思わず声が漏れる。
しかし彼の手足は震えていた。恐怖と興奮がないまぜになり、膝が笑って動けない。
「ティオ、後ろに下がって!」沙耶が叫んだ。
けれど少年は足を一歩も動かせず、ただ必死に仲間たちを目で追う。
フィリクスは背を壁に預け、盗掘団の二人を相手に素早く詠唱を唱える。
「〈光よ、目を灼け〉!」
閃光が弾け、敵が目を押さえて呻く。その隙にバルドが踏み込み、剣の腹で顎を打ち抜いた。
「……助かった」
「礼はいらん。僕とて戦うのは得意じゃないが、学者をなめられるのは御免だ」
沙耶も必死だった。武器を持たない彼女は、周囲の地形を必死に観察する。
倒れた柱、床に散らばる破片、古代の彫像。
「バルド! あの柱の影に敵が三人隠れてる!」
「任せろ!」
バルドは一気に突進し、柱ごと押し倒した。重い石が崩れ、盗掘団員たちは悲鳴をあげて下敷きになる。
「ぐわっ……!」
「くそっ、この女……!」
怒号と金属音が鳴り響くなか、ティオは拳を握りしめていた。
彼は震える体を押さえつけるようにして、心の中で必死に繰り返す。
(僕だって……考古学者になるんだ……! 先生を守るんだ……!)
その瞬間、背後から迫ってきた盗掘団員が、ナイフを手に沙耶へと飛びかかった。
「沙耶さん!!」
ティオは反射的に体を投げ出し、沙耶の前に立ちはだかった。
「や、やめろぉぉぉ!!」
ナイフの切っ先は彼の頬をかすめ、血の線が走る。だがその刹那、バルドの剣が横から閃き、男を弾き飛ばした。
「馬鹿野郎ッ!」
バルドはティオの肩を乱暴につかみ、怒鳴りつける。
「死ぬ気か! 子どもが無茶するんじゃねぇ!」
ティオは震えながら、それでも歯を食いしばった。
「……でも、守りたかったんだ。沙耶さんを……!」
その言葉に、沙耶の胸が熱く締めつけられる。
「ティオ……」
戦いはまだ続いている。だが仲間たちの心の中に、小さな決意の炎が確かに灯っていた。