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3

 盗掘団の怒号と同時に、砂を蹴る音が神殿の広間を満たした。

 松明の炎が揺れ、壁に刻まれた太陽のレリーフが戦乱の影を映し出す。


「下がってろ!」

 バルドが大声をあげ、剣を振り抜いた。鋼が風を裂き、最前列の盗掘団員の短剣を弾き飛ばす。

「ぐっ……!」男が呻いて壁際に吹き飛ぶ。


「すげぇ……!」ティオの口から、思わず声が漏れる。

 しかし彼の手足は震えていた。恐怖と興奮がないまぜになり、膝が笑って動けない。


「ティオ、後ろに下がって!」沙耶が叫んだ。

 けれど少年は足を一歩も動かせず、ただ必死に仲間たちを目で追う。


 フィリクスは背を壁に預け、盗掘団の二人を相手に素早く詠唱を唱える。

「〈光よ、目を灼け〉!」

 閃光が弾け、敵が目を押さえて呻く。その隙にバルドが踏み込み、剣の腹で顎を打ち抜いた。


「……助かった」

「礼はいらん。僕とて戦うのは得意じゃないが、学者をなめられるのは御免だ」


 沙耶も必死だった。武器を持たない彼女は、周囲の地形を必死に観察する。

 倒れた柱、床に散らばる破片、古代の彫像。

「バルド! あの柱の影に敵が三人隠れてる!」

「任せろ!」


 バルドは一気に突進し、柱ごと押し倒した。重い石が崩れ、盗掘団員たちは悲鳴をあげて下敷きになる。


「ぐわっ……!」

「くそっ、この女……!」


 怒号と金属音が鳴り響くなか、ティオは拳を握りしめていた。

 彼は震える体を押さえつけるようにして、心の中で必死に繰り返す。

(僕だって……考古学者になるんだ……! 先生を守るんだ……!)


 その瞬間、背後から迫ってきた盗掘団員が、ナイフを手に沙耶へと飛びかかった。

「沙耶さん!!」


 ティオは反射的に体を投げ出し、沙耶の前に立ちはだかった。

「や、やめろぉぉぉ!!」


 ナイフの切っ先は彼の頬をかすめ、血の線が走る。だがその刹那、バルドの剣が横から閃き、男を弾き飛ばした。


「馬鹿野郎ッ!」

 バルドはティオの肩を乱暴につかみ、怒鳴りつける。

「死ぬ気か! 子どもが無茶するんじゃねぇ!」


 ティオは震えながら、それでも歯を食いしばった。

「……でも、守りたかったんだ。沙耶さんを……!」


 その言葉に、沙耶の胸が熱く締めつけられる。

「ティオ……」


 戦いはまだ続いている。だが仲間たちの心の中に、小さな決意の炎が確かに灯っていた。


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