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3

 通路の奥は、思ったよりも広かった。

 だが一歩踏み込むたびに、砂がざらりと靴底を滑り、長い間誰も足を踏み入れていなかったことを物語っていた。


 天井は低く、時折、砂岩の塊がぽろりと落ちる。

 バルドは大剣を肩に担ぎ、用心深く進んでいく。

「……崩れそうだな」

「古代の建築は丈夫です。でも罠がある可能性が高い」

「罠? そんなもん残ってるのか」

「はい。仕掛けが単純なほど、壊れずに残るんです」


 その言葉が終わるや否や──カチリと音がした。


「っ!」

 沙耶が足を止めた瞬間、矢が壁の穴から連射された。

 鋭い金属の矢じりが、彼女の頬をかすめる。


「嬢ちゃん!」

 バルドが咄嗟に腕を伸ばし、沙耶を背に庇った。

 大剣を振るい、飛来する矢を弾き落とす。火花が散り、金属音が地下に響いた。


「っ、危な……!」

「大丈夫か!」

「だ、大丈夫です……。でもこれ、まだ続きます」


 壁一面に開いた穴は、矢の射出口だ。

 機構を解除しない限り、通路を進むのは不可能だろう。


 沙耶は素早く視線を走らせた。

 床、壁、天井──。

 そして気付く。床の石が一部だけ、色が違う。


「踏み板……」

「なに?」

「そこだけ石が新しい。重さで作動する仕組みです」


 彼女は身をかがめ、砂を払った。すると確かに、薄く文様が刻まれている。

 円の中に炎と太陽を描いた紋章。


「太陽が昇る……つまり、この模様を合わせれば仕掛けは止まる」

「どうやって?」

「床石を回転させるんです」


 言うが早いか、沙耶は手を伸ばした。

 石は固く、女性の力ではびくともしない。

 歯を食いしばるが、動かせない。


「っ……! バルドさん!」

「任せろ」


 バルドが代わりに石を掴み、全身の筋肉を躍動させてひねった。

 ギリギリと鈍い音が鳴り、円の模様が回転を始める。

 やがて太陽の線が炎と重なり──音が止んだ。


 壁の穴が閉じ、矢の気配が消える。


「……やった」

 沙耶は思わず大きく息をついた。

 手が汗ばんでいるのを感じる。


「嬢ちゃん、よく気付いたな」

「いえ……これは、古代の太陽信仰の一種です。太陽と炎が合わさることで『再生』を意味するんです。だから……」

「なるほどな。俺にはさっぱりだが、助かった」

 バルドは大剣を背に戻し、笑った。

「お前が頭を使って、俺が力を使う。悪くない組み合わせだ」


 沙耶は頬が熱くなるのを感じた。

 学者としての知識が、初めて誰かの命を救ったのだ。


 通路の先には、さらに大きな扉が待ち受けていた。

 両開きの石扉には、緻密な浮彫が施されている。

 人々が杯を掲げ、炎の中で跪く姿──儀式の一場面だろう。


「これを開ければ……神殿の心臓部です」

「心臓部、ね」

 バルドは口角を上げ、背の大剣を軽く叩いた。

「そろそろ本格的に、ヤバいもんが出てきそうだな」


 沙耶はごくりと唾をのむ。

 学者としての好奇心と、異世界の現実に直面する恐怖が入り混じっていた。


 扉の前に立ち、深呼吸する。

「……行きましょう」

「おう」


 二人は力を合わせて扉を押した。

 重い石がきしみ、ゆっくりと開いていく。


 そこに広がったのは──


 巨大な祭壇と、砂に埋もれた石棺だった。

 天井から差し込むわずかな光が、石棺の表面を鈍く照らす。

 その瞬間、沙耶の胸は高鳴った。


「これは……!」


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