第10章 侵入者の影1
封印の扉が軋みをあげて開いた瞬間、神殿の奥から吹きつける風が一行の頬を打った。
砂混じりの乾いた空気ではなく、むしろ湿り気を帯びた――まるで何千年も閉ざされてきた地下の息吹が一斉に解き放たれたかのような風だった。
巨大な石の扉の内側には、広大な大広間が広がっていた。天井は闇に溶け、どこまで続いているのかわからない。壁面には複雑なレリーフが刻まれ、中央には黒い祭壇が鎮座している。
沙耶は息を呑んだ。
「……これが、封印の最奥部……」
学術的興奮で胸がいっぱいになる。だが、同時に背筋を撫でる寒気も消えない。そこには人の手では容易に触れてはならない“気配”があった。
そのとき。
「――お楽しみのところ、邪魔をさせてもらうぜ」
大広間に場違いなほど軽薄な声が響いた。
振り返ると、開かれた扉の外、暗がりの中から十数の人影がゆらりと現れる。粗末ながらも武装した男たち。肩には鎖帷子、腰には曲刀。背には袋を背負い、眼差しは獲物を見つけた狼のようだ。
「盗掘団……!」フィリクスが眉をひそめる。
「神殿荒らしどもか」バルドの声は低く唸るようだった。
先頭に立つのは、傷だらけの顔に片眼鏡をかけた男だった。厚い唇がにやりと歪み、金の歯がちらつく。
「へっ、あんたらが開けてくれたおかげで、俺たちの仕事が楽になった。ご苦労さんよ」
沙耶は思わず一歩前に出て声を張り上げる。
「ここは学術的に貴重な遺跡よ! 金品目当てで破壊するなんて、絶対に許さない!」
盗掘団の男たちは一斉に笑い声をあげた。
「聞いたか? 遺跡がどうとか……」
「学者か何か知らねぇが、俺たちにゃ金になるかどうか、それだけだ」
ティオが沙耶の後ろに隠れながら小声で震える。
「さ、沙耶さん……あの人たち……目が……怖いです……」
フィリクスは眉間に皺を寄せ、悔しそうに吐き捨てる。
「くそ……こんな連中に研究成果を台無しにされてたまるか」
バルドは前へ進み出た。砂漠で鍛え上げられた巨躯が、盗掘団の前に立ちはだかる。
「こいつらは俺が止める。お前らは奥へ下がってろ」
リーダーの男は片眼鏡を指で持ち上げ、口の端を歪めた。
「止めるだと? 戦士ひとりで俺たち十数人を相手にするってのか。上等だ、試してみな」
緊張がはち切れる寸前の空気の中、バルドの手がゆっくりと大剣の柄にかかる――。