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 厚い石壁に刻まれた符号を、二人の学者は見つめていた。

 砂に埋もれ、数千年もの時を経てなお光を失わぬ黄金の象形。


「……ここだな。封印の核心部」

 フィリクスが低く呟いた。揺れる松明の灯が、彼の長い前髪を赤銅色に照らす。

 普段は皮肉を隠さない彼も、この瞬間ばかりは真剣な眼差しを浮かべていた。


 沙耶は、指先で壁の紋をなぞる。

「見て。太陽の印と、血の象徴が重なってる。これ……儀式の構造式だわ」


 符号は単なる文字ではない。暦、祭祀、そして生贄。

 学問の世界で育った彼女の脳裏に、古代史の数々の記録が一斉に蘇る。


「光で封じ、血で開く……か。まるで伝承そのものだな」

「でも、この配置……ただの神話じゃない。暦の数式が隠れてる」


 沙耶が指摘すると、フィリクスは息をのむ。

 壁に並ぶ記号を数え直し、瞬時に顔色を変えた。


「……確かに、太陽の運行だ。夏至、冬至……いや、それ以上に細かい天文暦だ」

「そう。つまりこれは“信仰”じゃなく、“計算”なの」


 二人の視線が絡み合う。

 異なる学問を歩んできた二人が、ここで初めて同じ答えにたどり着いた瞬間だった。


 その時だった。

 ――ドン、と大地が鳴った。

 天井から砂がぱらぱらと落ち、奥の巨大扉が低く唸りを上げる。


「……目覚めてる」

 沙耶の心臓が高鳴る。

 聞こえたのは石の軋む音だけではない。

 胸の奥に直接響くような、澄んだ声。


『――わたしを……』


 誰かが呼んだ。

 確かに、耳にした。だが隣のフィリクスは顔をしかめただけだ。


「今……何か聞こえなかった?」

「……いや。だが気配はある。封じられた何かが、こちらを見ている」


 次の瞬間、扉中央の紋章が強烈に輝いた。

 太陽の紋様が、まるで鼓動のように脈打つ。


 ティオが小さく悲鳴をあげて後ずさり、バルドが剣を構える。

「おいおい……封印が開くんじゃねぇだろうな!?」


 扉は完全には開かない。

 だが確かに揺らいでいた。

 誰もが口を開けずにその光景を見守る。


 ――その先に眠るものが、いずれ必ず目を覚ます。

 そう確信させるには、十分すぎるほどの兆しだった。

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