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2

扉の向こうに広がっていたのは、まるで光の迷宮だった。

壁や天井に無数の鏡が埋め込まれ、微細な角度で光を反射し合うことで、巨大な空間全体が白銀に輝いている。

外から差し込むのは、ほんのわずかな陽光――だが、増幅された光は視界を焼き、思わず目を細めるほどの眩しさを放っていた。


「……まるで昼間のようだな」

バルドが目を細め、剣を握り直す。


ティオは思わず声を上げた。

「すごい……! これ全部、鏡で……!」


沙耶は息を呑みながらも、学者としての血が騒いで仕方なかった。

「……これよ、これこそが太陽信仰の象徴。光そのものを神と見なし、ここで試練を課したのね」


フィリクスは腕を組み、鼻で笑った。

「君の言い方は学者というより、まるで預言者だな。だが――確かにこれはただの装飾ではない」


彼が指差した先、床に敷き詰められた石板には、複雑な幾何学模様が刻まれていた。

円と直線、星の配置を思わせる紋様。

まるで、星座の地図そのものだった。


「おい……何か、動いてるぞ」

バルドの声に、全員の視線が集まる。


――光が、模様をなぞるように移動していた。

鏡から反射された光が一本の筋を描き、床を走るたびに、石板が重く振動する。


「これは……暦のシステムだわ!」

沙耶が叫ぶ。

「光は一年の太陽の運行を示してる。正しい順路を選べば扉が開く。間違えば――」


その瞬間、石板の一部が落下し、深い奈落が姿を現した。

轟音とともに、底の見えない闇が広がる。


「落ちれば助からんな……」バルドが眉をひそめる。


ティオは震えながらも床を見つめた。

「こ、これ……踏み方を間違えたら……」


「“神話の試練”だな」フィリクスが低く呟いた。

「太陽神の道を正しく辿れぬ者は奈落に飲まれる……古い経典にも似た記述がある」


沙耶は即座に反論する。

「それは神話的な言い換えよ。実際には暦を理解できるかどうかの知識試験!」


二人は顔を突き合わせ、論争を始める。


「経典に記されているのは“太陽の三日間の沈黙”。これは神話の暗示だ!」

「違う、それは冬至の三日間を示してる! 天文学的な観測記録よ!」


「では君は、ここを星の地図として読み解けるというのか?」

「もちろんよ!」


沙耶は床にしゃがみ込み、星図を思わせる文様を指でなぞった。

「見て。この模様、夏至の太陽が昇る方角と一致してる。つまり次に光が進むべき方向は――」


彼女が示した先、床の一部がわずかに光を帯びて輝いた。


「……ほう。理屈は正しいな」

フィリクスも膝をつき、別の部分を指差す。

「だが神話では、光は三つの門を潜った後、太陽の沈黙を経て復活するとされている。だから――この模様に従えば、次の光路はここだ」


二人の指が、異なる方向を示していた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 二人とも逆じゃないんですか!?」ティオが慌てて声を上げる。

だが、床の光は容赦なく進み、二人のどちらかの説を試そうとしている。


バルドは剣を握り直し、ため息をついた。

「やれやれ……どっちが正しいか、命懸けで確かめるしかねぇってわけか」


沙耶の胸が高鳴る。

間違えれば奈落。正解なら扉へ。

学問も、神話も、今はただの言葉遊びではない――命を繋ぐ唯一の道筋だった。


「……いいわ、やってみましょう。

 考古学の知識が、本当にこの世界で通用するのか」


「望むところだ」

フィリクスの口元にも、挑戦的な笑みが浮かんでいた。


そして――試練は始まった。


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