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第8章 太陽の間の試練1



神殿の奥に進むにつれ、空気は次第に重くなっていった。

砂漠の乾いた風がもう届かない石の回廊は、ひんやりとした静けさに包まれ、壁一面に刻まれたレリーフは、まるで千年前の祈りが石に焼き付けられたかのようだった。


「……光が途絶えてきたな」

バルドが剣の柄に手を置いたまま、辺りを見回す。


後ろを歩くティオは、足元をすくわれそうになりながら、必死に遅れまいとついてきていた。

「ま、待ってください……! 足場が、ちょっと……」


「無理するな。崩れやすい床は避けろ」

沙耶はそう言いながら、床に浮き出る亀裂や、石材の摩耗具合を注意深く観察していた。

この構造、壁の厚さ……砂の侵入具合から見て、この先は大きな空間に繋がっている可能性が高い。


「この感じ……きっと“中心の間”に近づいてる」

小さく呟いた言葉に、フィリクスが冷笑を漏らす。


「また君の直感か? それとも“前世の学問”とやらの御宣託かな」


彼の長い前髪が揺れ、片目の奥が皮肉げに光った。


「根拠はあるわよ」沙耶は負けじと言い返す。

「砂漠神殿は、太陽の光を利用する設計思想が根底にあるの。外壁のレリーフでも暦や星座が強調されていたでしょ? 光を導く構造があってもおかしくない」


「ふん。だが神話においては、“太陽の間”とは神の威光を示す聖域だ。人が入る場所ではなく、神託を受ける場だよ」


「結局、それは解釈の違いよ」


二人の火花散るやりとりを、ティオは半分理解できずに首を傾げ、バルドは「もう慣れた」とばかりに肩を竦めていた。


やがて――回廊は終わりを告げた。


目の前に現れたのは、高さ十メートル以上はある巨大な石扉。

その中央には円形の文様が彫られ、放射状に線が伸びていた。まるで太陽のように。


「これが……」ティオの声が震える。


沙耶は石扉に手を当て、指先で刻まれた溝をなぞった。

「光の導入孔がある。……上部、ほら、壁際に小さな穴が」


「確かに……」フィリクスも近づき、眼鏡を直すような仕草で覗き込んだ。

「日中の太陽光を取り込む仕組みだな。だが、今は外は砂嵐だ。光は届かん」


「違うわ。これは昼だけじゃない。夜の星光にも対応してる。位置が高すぎるでしょう?」


「星光だと? そんな弱い光で何を――」


言葉を遮るように、沙耶は背の鞄から布に包まれた石片を取り出した。

それは、先ほどの回廊で拾った小さな鏡片。


「古代の人は、光を増幅させる技術を持ってた。これを利用すれば……」


彼女が差し出した鏡片に、フィリクスの表情が揺れる。

彼の神話的解釈と、沙耶の考古学的推論が、ようやく一点で重なり始めていた。


「……なるほど。神託の間、というより“光の試練の場”というわけか」


扉の前に立つと、胸の奥が震えるような圧迫感を覚えた。

石に刻まれた太陽の模様が、不気味に光を反射し、まるでこちらを見返しているかのようだ。


「行こう。これが――太陽の間だ」


バルドが剣を抜き、ティオが息を呑む。

沙耶とフィリクスは視線を交わし、扉を押し開いた。


――次の瞬間、まばゆい光が押し寄せた。


石造りの広間。無数の鏡が壁や天井に埋め込まれ、外からわずかに差し込む光を反射し合って、まるで昼間の太陽が降り注いでいるかのようだった。

だが、その光はただの装飾ではなく――何かの「試練」を隠している気配があった。


沙耶の心臓が高鳴る。

「これが……古代文明の核心……!」


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