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2


 光り始めた碑文に、一行は息を呑んだ。

 淡い黄金の輝きが文字列を伝い、壁全体がまるで星座のように結ばれていく。


「な、なんだこれ……!」ティオが声を上げた。


 光の流れはやがて床へと降り注ぎ、円形の紋様を描き出す。

 それは巨大な魔法陣のようであり、同時に古代の天文盤のようでもあった。


 沙耶は即座に気づく。

「……暦だわ! ほら、外周は十二の区切り、内側は七つの星の印。これは“時間と星の対応”を表しているのよ!」


 だがフィリクスは首を振る。

「違う! これは神の加護を受ける“祭祀の陣”だ! 血と声を捧げ、光を呼び覚ます儀式の場だ!」


 二人の意見はまたも正反対にぶつかる。

 だが今回は、議論だけでは済まなかった。


 突如、魔法陣の中心から砂が噴き上がり、形を成していく。

 人の形をした砂の像――砂兵サンドゴーレムが数体、重々しい音を立てて立ち上がったのだ。


「くそっ、来るぞ!」バルドが剣を抜き放つ。


 ティオは悲鳴を上げて沙耶の背に隠れる。

 沙耶もフィリクスも言葉を失い、目前の現象に釘付けになった。


 ――これは、議論の答えを迫る試練だ。

 そう、全員が直感した。



 戦闘が始まる。

 バルドが剣で砂兵を切り裂くが、砂はすぐに元に戻る。

「ちっ、斬っても意味がねぇ! どうすりゃいいんだ!」


 沙耶は壁に刻まれた光文字を必死に読み取る。

「“光を導け”……そう書かれてる! 鏡か何かで光を当てれば――」


 だがフィリクスが叫ぶ。

「違う! “血と声を捧げよ”とも刻まれている! これは祭祀の場だ、血の供物が必要なんだ!」


 彼は短剣を取り出し、自分の掌を切ろうとした。


「やめなさい!!」沙耶が慌てて手を伸ばす。

「そんなことしたら、本当に命を奪われるかもしれないのよ!」


「君の理屈こそ危険だ! 光で解決できるなら、なぜ魔物が現れる? 血を与えて鎮める、それが古代からの道理だ!」


 フィリクスは頑なだった。

 沙耶は焦燥を覚える。彼の学問的信念が、命を賭けた独断に変わろうとしている。



 砂兵が迫る。

 バルドが盾で受け止めるが、巨体の衝撃に押し込まれる。

「早くなんとかしろ! こっちも限界だ!」


 ティオは震える声で叫んだ。

「サ、沙耶さん! どうすればいいの!?」


 その声で、沙耶は一瞬の閃きを得た。

 ――光と血。両方が必要なのかもしれない。


「フィリクス! 待って!」

 彼女は鋭く叫び、壁の一部を指差した。

「見て! ここに“二つの供物”ってある! 光と血、両方を揃えて初めて扉が開くのよ!」


 フィリクスの目が大きく見開かれる。

 だが彼はすぐに顔をしかめ、舌打ちした。

「……君の推測に乗るのは癪だが、確かに筋は通っている」


 彼は小さく掌を切り、血を紋様に落とした。

 同時に沙耶が壁の反射鏡を調整し、太陽光を導く。


 すると魔法陣が一層輝きを増し、砂兵たちは苦しむように崩れ落ちていった。

 砂が床に還り、静寂が訪れる。



 重苦しい息をつきながら、バルドが剣を収めた。

「……助かったぜ。だが、危ねぇ橋を渡ったな」


 ティオも汗だくになりながら、沙耶とフィリクスを交互に見た。

「すごい……二人が一緒にやらなきゃ、絶対に突破できなかった……!」


 しかし当の二人は、互いを睨みつけたままだった。

 沙耶は怒りと安堵の入り混じった声で言う。

「あなたの独断で全員が危険に晒されたのよ!」


 フィリクスは眉をひそめ、そっけなく答えた。

「君の理屈に賭けるのだって同じことだ。――だが、今回は“君の知識”が役に立ったことは認めよう」


 素直さは微塵もない。

 だがそれでも、彼の言葉はほんの少しだけ歩み寄っていた。

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