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4


 開いた通路の先は、長い石段だった。

 冷気が下から吹き上がり、砂漠の外気ではありえないほど湿った空気が三人の頬を撫でる。


「……砂漠の下に、こんな地下構造があるなんて」沙耶は呟いた。

「本来なら崩落してるはず。相当な技術で造られてる」


 ティオは震えながらも前を見据える。

「下に……何があるんだろう」


「真実か、あるいは死かだな」バルドは片手を剣の柄に置いたまま言い切る。

 その声音に、妙な重みがあった。


 三人は石段を降りていった。

 松明の火が壁を照らすたびに、奇怪なレリーフが現れる。

 そこには、太陽を抱く神と、その周囲で跪く人々。

 そして次第に、神の姿が歪み、炎に包まれて怪物へと変貌していく様子が描かれていた。


「……これ、最初の外壁にあった“太陽神と人々”の続き……?」沙耶の声はかすれていた。

「でも最後は……神が災厄に変わってる……」


 ティオが小さく息を呑む。

「じゃあ……この神殿って、本当に“神様を祀る場所”じゃなくて……」


「“封じるための場所”……」沙耶は呟いた。

「祀るふりをして、実際は災厄を閉じ込める――それが真の役割だったのかもしれない」


 言葉を交わす間にも、階段はどこまでも続いた。

 やがて三人は、広大な地下ホールへと辿り着く。


 そこは天井の高い空間で、無数の石柱が林立し、まるで石の森のように見えた。

 中央には黒く巨大な扉が鎮座しており、その表面には無数の鎖が絡みついている。

 鎖は赤黒く変色し、ところどころから不気味な光を漏らしていた。


 ティオが声を震わせる。

「な、なにあれ……」


 バルドも額に汗を浮かべていた。

「ただの扉じゃねぇ……生きてるみてぇだ」


 沙耶は石畳に膝をつき、扉に刻まれた碑文を読み取ろうとする。

 彼女の額にじわりと汗がにじんだ。


「“光を奪いし者、血を貪りし者、声を惑わす者。災厄ここに封ず。二度と開くことなかれ”……」


 その瞬間。


 ――カンッ。


 乾いた音が、石柱の向こうから響いた。

 三人は一斉に身構える。


 暗闇から歩み出てきたのは、一人の人影だった。

 フードを深く被り、手には古びた杖。

 しかしその足取りは、まるでここに住み慣れた者のように迷いがない。


 ティオが息を呑む。

「だ、誰……!?」


 その影は口元だけを露わにし、不気味に笑った。

「……遅かったな。私が先に辿り着いた」


 声は若い男のもの。

 しかしその響きには冷たさと傲慢さが混じっていた。


 沙耶の胸に直感が走った。

「あなた……学者?」


 フードの下からのぞいたのは、長い前髪に隠れた目。

 知的でありながら、どこか猜疑心に満ちた顔立ち。


 ――そう、彼こそ後に仲間となる若き学者、フィリクスだった。


「学者……? はっ、そんな甘いものじゃない。

 私は王都から派遣された“真の知識人”だ。

 お前のような素人まがいの解釈で、この神殿を踏みにじられてたまるか」


 その言葉に、沙耶はきっぱりと反論した。

「素人……? 確かに私はこの世界では異端者かもしれない。

 でも知識は真実に通じる力。あなたのように権威を振りかざすためのものじゃない」


 扉を背に、二人の学者がにらみ合う。

 その間にも、封印の鎖がわずかに軋み、不気味な音を立てていた。


 ――この対立が、やがて彼らの運命を大きく揺るがすことになる。

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