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石像の罠を無力化した一行は、いよいよ巨大な門の前に立った。
高さは十数メートル。二枚の石扉は太陽のような紋様で飾られ、中心には「鍵穴」のような円形のくぼみが刻まれていた。
沙耶は手を伸ばしてなぞり、眉をひそめる。
「これは……ただの鍵じゃない。太陽の光を受けることで開く仕組みかもしれないわ」
「光?」とティオが首をかしげる。
「こんなに分厚い扉、どうやって……」
「待て、見ろ」バルドが指差す。
門の上部には、砂漠の太陽を反射する小さな鏡板が埋め込まれていた。
風化のせいで曇っているが、確かに光を導くための装置のようだ。
沙耶は深呼吸し、砂に膝をついた。
「……これは古代の“日時計式開門機構”。おそらく、特定の時間帯に太陽が鏡に反射してこの円形に光を注ぐと、内部の仕掛けが動く」
ティオは感嘆の声をあげた。
「すごい! じゃあ今は……?」
「午前中だから、まだ角度がずれてる」沙耶は空を見上げる。
「でも大丈夫。少し細工をすれば、同じ効果を作れるはず」
彼女はバッグから小さな銅板の破片を取り出した。発掘現場でよく使う即席の反射板だ。
「ティオ、私の合図でこの角度に板をかざして」
「わ、わかった!」
少年が慎重に構え、太陽の光を銅板に反射させる。
光が門の中心をかすめ――円形のくぼみにぴたりと収まった瞬間、重々しい轟音が響いた。
石扉が、ゆっくりと開き始める。
「おお……!」ティオが目を見開いた。
「ほんとに開いた!」
バルドは感心したように腕を組む。
「知識ってのは剣より強ぇ時もあるもんだな」
しかし、沙耶はまだ警戒を解かなかった。
「気をつけて。この手の仕掛けは二重三重の防御があるのが常よ」
扉が開くと、冷たい風が吹き出してきた。砂漠の熱気とはまるで異なる、湿った地下の空気。
薄暗い通路の奥へと足を踏み入れると、彼らの足音が石壁に反響する。
天井は高く、壁一面には古代文字とレリーフが刻まれていた。
ティオが目を輝かせる。
「わぁ……! これ全部、記録なの? 物語? それとも呪文……?」
沙耶は壁に近づき、指でなぞる。
「これは“警告”よ」
「警告……?」
そこには、太陽を背に立つ神と、地にひれ伏す人々の姿。
そして「災厄を封じるための儀式」を描いた絵が続いていた。
「やはり……この神殿は、単なる祈りの場じゃない」
沙耶の声は震えていた。
「ここは“封印の場”。何かを閉じ込めるために造られたのよ」
ティオが不安そうに周囲を見回す。
「そんな……閉じ込めるって、何を?」
「それはまだわからない。でも――」
その瞬間。
突如、床が沈み込む音が響いた。
バルドが咄嗟に叫ぶ。
「跳べッ!」
三人が慌てて飛び退いた直後、足元の床板が崩れ落ちた。
現れたのは、棘のついた深い落とし穴。
「……やっぱりな」沙耶は冷や汗を拭った。
「門の向こうに入った時点で、すでに“侵入者と認識”されていたのよ」
ティオは膝を抱えて震えた。
「危なかった……! もうちょっとで串刺しだ……!」
バルドが彼の頭を軽く叩く。
「お前が生きてるのは沙耶のおかげだ。忘れるなよ」
沙耶は険しい表情で先を見据える。
「これはまだ序章。神殿は私たちを試してる……本当の入口は、まだ先よ」