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4


 夜明けの砂漠は、昼の灼熱とはまるで別世界だった。

 冷たく澄んだ空気の中、地平線から顔を出す太陽が砂丘を黄金色に染めていく。


 沙耶は宿の前で身支度を整え、深呼吸した。

(……この世界に来てから、いろんなことが起きた。けれど、こうして新しい仲間と一緒に旅立てるなんて)


 背後から元気な声が響く。

「おはよう、沙耶!」


 ティオが大きな荷物を背負って駆け寄ってきた。少年の体格には明らかに不釣り合いな大きさだが、顔は期待で輝いている。

「これ、村の人たちが持たせてくれたんだ! 干し肉とか、水袋とか……。僕が荷物持ちもするから!」


 バルドは腕を組んで呆れ顔をした。

「おいおい、そんなに背負ったら転んだとき起き上がれねぇぞ」


「だ、大丈夫だって!」とティオは胸を張る。

 しかし次の瞬間、バランスを崩して尻もちをついた。


 バルドが額を押さえる。

「……はぁ。俺の仕事が増えそうだな」


 沙耶は思わず笑いをこぼした。

「でも、立派よ。ティオが一緒に来てくれるだけで、私たちはきっと強くなれる」


 ティオはその言葉に満面の笑みを浮かべた。

「うん! 僕、必ず役に立つから!」


 ――そのとき、村の長老がゆっくりと近づいてきた。

「若者たちよ、行くのか」


 沙耶たちは立ち止まり、深く頭を下げる。

「はい。神殿の謎を解き明かしに」


 長老はしばし沈黙した後、重々しく口を開いた。

「砂漠の神殿には“封印”がある。村人は代々、それを守るために外から近づく者を遠ざけてきた。だが……今は時が来たのかもしれぬ」


「時……?」と沙耶が問い返す。


 長老は沙耶の目をまっすぐ見据えた。

「おぬしのように知識を携えて来た者を、わしは見たことがない。……どうか、この子を頼む。ティオはまだ若い。だが心は真っ直ぐだ。必ずや、おぬしの助けとなろう」


 沙耶は真剣な表情でうなずいた。

「はい。私が責任を持ちます。ティオはもう、私の仲間ですから」


 その言葉に、ティオの目が潤んだ。

「……ありがとう、沙耶」


 バルドは頭をかきながら「よし、そろそろ行くぞ」と声を上げた。

「太陽が高くなる前に神殿へ着きてぇ。昼の砂漠は地獄だからな」


 三人は村人たちに見送られながら、砂漠の方角へと歩き出した。

 ティオはまだ少し大きすぎる荷物を背負いながらも、一歩一歩を力強く踏みしめている。


 沙耶はふと振り返り、村を見やった。

 小さな家々、畑、家畜の群れ――穏やかな日常が広がる光景。

 けれどその奥には、数千年前の文明が残した巨大な遺跡が眠っている。


(……私は考古学者。この世界でも、過去の声を必ず掬い上げてみせる)


 強い思いを胸に、沙耶は顔を前へと向けた。

 太陽はもうすっかり昇り、砂丘の先を照らしている。


 ――新しい仲間ティオを加えた一行は、再び砂漠神殿への挑戦を始めるのだった。

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