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夜明けの砂漠は、昼の灼熱とはまるで別世界だった。
冷たく澄んだ空気の中、地平線から顔を出す太陽が砂丘を黄金色に染めていく。
沙耶は宿の前で身支度を整え、深呼吸した。
(……この世界に来てから、いろんなことが起きた。けれど、こうして新しい仲間と一緒に旅立てるなんて)
背後から元気な声が響く。
「おはよう、沙耶!」
ティオが大きな荷物を背負って駆け寄ってきた。少年の体格には明らかに不釣り合いな大きさだが、顔は期待で輝いている。
「これ、村の人たちが持たせてくれたんだ! 干し肉とか、水袋とか……。僕が荷物持ちもするから!」
バルドは腕を組んで呆れ顔をした。
「おいおい、そんなに背負ったら転んだとき起き上がれねぇぞ」
「だ、大丈夫だって!」とティオは胸を張る。
しかし次の瞬間、バランスを崩して尻もちをついた。
バルドが額を押さえる。
「……はぁ。俺の仕事が増えそうだな」
沙耶は思わず笑いをこぼした。
「でも、立派よ。ティオが一緒に来てくれるだけで、私たちはきっと強くなれる」
ティオはその言葉に満面の笑みを浮かべた。
「うん! 僕、必ず役に立つから!」
――そのとき、村の長老がゆっくりと近づいてきた。
「若者たちよ、行くのか」
沙耶たちは立ち止まり、深く頭を下げる。
「はい。神殿の謎を解き明かしに」
長老はしばし沈黙した後、重々しく口を開いた。
「砂漠の神殿には“封印”がある。村人は代々、それを守るために外から近づく者を遠ざけてきた。だが……今は時が来たのかもしれぬ」
「時……?」と沙耶が問い返す。
長老は沙耶の目をまっすぐ見据えた。
「おぬしのように知識を携えて来た者を、わしは見たことがない。……どうか、この子を頼む。ティオはまだ若い。だが心は真っ直ぐだ。必ずや、おぬしの助けとなろう」
沙耶は真剣な表情でうなずいた。
「はい。私が責任を持ちます。ティオはもう、私の仲間ですから」
その言葉に、ティオの目が潤んだ。
「……ありがとう、沙耶」
バルドは頭をかきながら「よし、そろそろ行くぞ」と声を上げた。
「太陽が高くなる前に神殿へ着きてぇ。昼の砂漠は地獄だからな」
三人は村人たちに見送られながら、砂漠の方角へと歩き出した。
ティオはまだ少し大きすぎる荷物を背負いながらも、一歩一歩を力強く踏みしめている。
沙耶はふと振り返り、村を見やった。
小さな家々、畑、家畜の群れ――穏やかな日常が広がる光景。
けれどその奥には、数千年前の文明が残した巨大な遺跡が眠っている。
(……私は考古学者。この世界でも、過去の声を必ず掬い上げてみせる)
強い思いを胸に、沙耶は顔を前へと向けた。
太陽はもうすっかり昇り、砂丘の先を照らしている。
――新しい仲間ティオを加えた一行は、再び砂漠神殿への挑戦を始めるのだった。