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夜はさらに更け、村の広場には焚き火の赤い残り火だけが揺れていた。
沙耶、バルド、ティオの三人は、誰もいなくなった火のそばで静かに腰を下ろしていた。
ティオはまだ興奮冷めやらぬ様子で、何度も沙耶を見上げては笑顔を見せる。
「本当にありがとう! 僕、ずっと夢だったんだ……考古学者になるのが!」
沙耶は微笑みながらも、少し首を傾げた。
「どうしてそこまで遺跡にこだわるの? 普通の子なら、村で家畜を飼ったり、畑を手伝ったりするでしょう?」
ティオは一瞬考え、それから膝を抱えて語り始めた。
「小さい頃にね、母さんが死ぬ前に言ってたんだ。『私たちの祖先は、かつて偉大な都に住んでいた。でもそれは砂に呑まれ、忘れ去られた』って。……僕はそれを聞いたとき、なんで誰も確かめようとしないんだろうって思ったんだ」
炎がティオの横顔を照らす。幼さの中に、不思議な決意の影が宿っている。
「僕はただの農民じゃない。祖先が見たものを知りたいんだ。失われたものを、取り戻したいんだ」
その言葉に、沙耶の胸がじんと熱くなった。
(……やっぱり、この子はただの夢見がちな子供じゃない。自分の根っこから湧き上がる欲求に従っている。私と同じだ)
バルドは腕を組んで鼻を鳴らした。
「ふん……考古学者だか何だか知らねぇが、村の外の世界は甘くねぇぞ。盗賊も魔物も山ほどいる。死にたくなきゃ、俺の言うことを絶対聞け」
「わかってる!」
ティオは即座に返事した。その声は迷いがなく、むしろ頼もしささえ感じられる。
沙耶は二人のやり取りを見て、ふっと笑った。
「ねぇ、ティオ。私の世界にはこんな言葉があるの。『過去を知る者は、未来を拓く』って」
「未来を……拓く?」
「ええ。考古学はただ昔を調べるだけじゃない。そこから学んで、未来に生かす学問なの。あなたが本当に歴史を知りたいと思うなら、きっとこの世界の未来を変える力になれる」
ティオの目が大きく見開かれる。
「未来を変える……僕に、そんなことができるのかな」
「できるわ。だって、あなたはもう一歩を踏み出した。知りたいと思った心は、何よりも強い武器よ」
少年はしばらく黙っていたが、やがて力強くうなずいた。
「うん……! 僕、絶対に考古学者になる! 沙耶、よろしくね!」
その言葉に、沙耶は微笑みを返す。
そして自分の胸の奥にも、小さな決意が芽生えていることに気づいた。
(……私も、この世界で考古学者として生きる。失われた真実を、この子と一緒に探すんだ)
やがて三人は焚き火を囲んだまま横になった。
砂漠の夜は冷たかったが、不思議と心は温かかった。
空には星々が散りばめられ、どこか遠い宇宙から彼らを見守っているかのようだった。
――こうして、ティオは新たな仲間として彼らの旅に加わった。