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3

 夜はさらに更け、村の広場には焚き火の赤い残り火だけが揺れていた。

 沙耶、バルド、ティオの三人は、誰もいなくなった火のそばで静かに腰を下ろしていた。


 ティオはまだ興奮冷めやらぬ様子で、何度も沙耶を見上げては笑顔を見せる。

「本当にありがとう! 僕、ずっと夢だったんだ……考古学者になるのが!」


 沙耶は微笑みながらも、少し首を傾げた。

「どうしてそこまで遺跡にこだわるの? 普通の子なら、村で家畜を飼ったり、畑を手伝ったりするでしょう?」


 ティオは一瞬考え、それから膝を抱えて語り始めた。

「小さい頃にね、母さんが死ぬ前に言ってたんだ。『私たちの祖先は、かつて偉大な都に住んでいた。でもそれは砂に呑まれ、忘れ去られた』って。……僕はそれを聞いたとき、なんで誰も確かめようとしないんだろうって思ったんだ」


 炎がティオの横顔を照らす。幼さの中に、不思議な決意の影が宿っている。

「僕はただの農民じゃない。祖先が見たものを知りたいんだ。失われたものを、取り戻したいんだ」


 その言葉に、沙耶の胸がじんと熱くなった。

(……やっぱり、この子はただの夢見がちな子供じゃない。自分の根っこから湧き上がる欲求に従っている。私と同じだ)


 バルドは腕を組んで鼻を鳴らした。

「ふん……考古学者だか何だか知らねぇが、村の外の世界は甘くねぇぞ。盗賊も魔物も山ほどいる。死にたくなきゃ、俺の言うことを絶対聞け」


「わかってる!」

 ティオは即座に返事した。その声は迷いがなく、むしろ頼もしささえ感じられる。


 沙耶は二人のやり取りを見て、ふっと笑った。

「ねぇ、ティオ。私の世界にはこんな言葉があるの。『過去を知る者は、未来を拓く』って」


「未来を……拓く?」


「ええ。考古学はただ昔を調べるだけじゃない。そこから学んで、未来に生かす学問なの。あなたが本当に歴史を知りたいと思うなら、きっとこの世界の未来を変える力になれる」


 ティオの目が大きく見開かれる。

「未来を変える……僕に、そんなことができるのかな」


「できるわ。だって、あなたはもう一歩を踏み出した。知りたいと思った心は、何よりも強い武器よ」


 少年はしばらく黙っていたが、やがて力強くうなずいた。

「うん……! 僕、絶対に考古学者になる! 沙耶、よろしくね!」


 その言葉に、沙耶は微笑みを返す。

 そして自分の胸の奥にも、小さな決意が芽生えていることに気づいた。

(……私も、この世界で考古学者として生きる。失われた真実を、この子と一緒に探すんだ)


 やがて三人は焚き火を囲んだまま横になった。

 砂漠の夜は冷たかったが、不思議と心は温かかった。

 空には星々が散りばめられ、どこか遠い宇宙から彼らを見守っているかのようだった。


 ――こうして、ティオは新たな仲間として彼らの旅に加わった。

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