■第18章:秋葉原で店主と・・
秋葉原に着いたオレは、さっそく目当てのジャンク屋へ……といきたいところやけど、昼飯がまだやった。
駅前の牛丼屋に入る。いかにもオタク御用達の定番チェーン店。
混み合ったカウンター席、両隣は男性客だった。
何気なく空いた席に座っただけなのに、両側の男性が気まずそうに器をずらし、スペースを空けてくれる。
――男のときには、絶対ありえなかった対応。
自分の居場所は自分で確保してナンボだったのに。
「得してるな、女の子って」
いつもなら並サイズを軽く平らげるのに、今日はなんだか胃が小さくなったようで、四分の一ほど残してしまった。「……女の子の胃袋って、こんな感じなんだ」
食後、ジャンク通りへ。
まずはPCパーツ系のジャンク屋をのぞいてみたが、今日は特にこれといった“お宝”は見当たらなかった。
次に向かったのは、電子部品系のジャンク屋、正確に言うとジャンクも扱っているお店。
昔からの馴染みの店で、店頭にはLEDモジュールや各種スイッチ、マイコン類が所狭しと並んでいる。
ショーケースの中には、基板むき出しのキットや、懐かしい型番のICチップもあった。
「お嬢ちゃん、なにか探し物かい?」
店主のおじさんが笑顔で話しかけてくる。
店の屋号入りジャンパーを着た、60代くらいの頭の薄い優しげな人。
――この人には、オレが小学生の頃から世話になってる。
思い出す。
はじめてこの店に来たとき、ラジオ製作のページを破った雑誌を持ってきて、部品を探していたオレに、
「坊主、いきなりこんな回路は難しいぞ。遠回りでも基礎からやるのが早道だ」
と、優しくキットをすすめてくれた。
そのときの助言がなければ、オレは電子工作の世界に足を踏み入れていなかったかもしれない。
「この基板、CH32V203が載ってて、UART1でGPS拾ってるんですけど、ノイズが多くて、電源ラインにフェライト噛ませてもダメで……」
いつものように、気づいたら口が滑ってた。
それを聞いた店のおじさんが、ふと真顔になる。
「ふむ、V203か……で、対策は?」
「いまLDO変えようと思ってるんです。今のAMS1117じゃ応答遅すぎて。TPS7A02あたりが低ノイズで向いてるかなって。あと、VDDラインに10μHのインダクタ噛ませようかと」
「……」
「でも、あんまりESR低すぎると発振するんで、出力に4.7μFのタンタル並列で……。あ、ちなみにこのあたりの基板、信号が飛びやすいんで、USBのD+とD-のペアラインも、等長に引き直すつもりです」
オヤジの口がぽかんと開いたまま固まった。
けどすぐ、にやりと笑って──
「あるよあるよ、お嬢ちゃん。低ノイズLDOもインダクタも、奥の棚に……ちょっと待ってな!」
店の奥にすっ飛んでいったあと、息を切らして部品を差し出してきた。
「これならたぶん、発振せんと思う。負荷変動にもそこそこ強いはずや」
「ありがとうございます。2個ください。あと、できればオペアンプも……TLV9052あたり在庫ありますか?」
会計を済ませて店を出ると、背後でおじさんがぽつりとつぶやいた。
「……まさかこの秋葉原に、あんな娘が隠れとったとはな」
◆ 続きはKindle版で配信中! ◆
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作『彼女の名を継ぐ日』は、第18章までを無料公開しています。
19章から物語は大きく展開。
家族にまつわる意外な真実、オンラインゲーム《AQUATIS REMNANT》での出会い、
秋葉原で繰り広げられる伝説級のエピソード、
そして美羽の過去と真相に迫る怒涛の展開が待ち受けています。
物語の結末、そして書き下ろしエピソードはKindle版にてお楽しみいただけます。
本編→番外編→続編 の順で物語が続いており、完結します。
Kindle unlimitedに加入されていれば無料で読めるので、是非お愉しみください。
▼ Kindle版はこちら
(本編)
https://www.amazon.co.jp//dp/B0FLW96BK9/ref=sr_1_1?
(番外編)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FPDWPS8K/ref=sr_1_2?
(続編)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FPDTK2FL/ref=sr_1_3?
ぜひ続きを手に取っていただければ嬉しいです!