■第17章:痴漢初体験
鬼部長の襲来を撃退したオレは、秋葉原のなじみのジャンク屋へ出かけることにした。
オレのアパートがある町田市から秋葉原へ行くには、横浜線で東神奈川へ出て、そこから京浜東北線に乗り換える──乗り継ぎを含めて、だいたい1時間の小旅行だ。
昨日、つむぎが選んでくれた服を着て歩いていると、ふと男性の視線を感じる。
……なんか、目線が違う。
ちょっと背筋が伸びた気がした。
しかし──まさか女になって最初の試練が、こんなに早く訪れるとは思わんかった。
そう、女性の敵、痴漢である。
ラッシュアワーのピークはもう過ぎているはずだった。
けれど、オレが乗った快速電車は徐々に混雑しはじめ、新横浜駅でどっと人がなだれ込んできた。
「イベントでもあんのか……?」と眉をひそめる。
気づけば、車内はギュウギュウ詰め。
オレは完全に人の波の中に埋もれてしまった。
(やば……これは、身動き取れへんパターンや)
──ピタッ。
(……ん?)
腰のあたりに、違和感。
菊名駅を過ぎたあたりから、明らかに誰かの手が密着している。
(……は? おいおい……まさか)
最初は気のせいかとも思った。
でも、その手が、わずかに動いた。
(……アウトや。これは完全に痴漢や)
男としての魂が、その瞬間に覚醒した。
オレは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸。
「……ほな、いっちょやったるか」
彼女──いや、オレはゆっくりと振り返り、ぴたりと視線を合わせた。
「……おっさん。どこ触っとんねん」
小さく、しかし鋭く刺さる声だった。
美少女の姿で発せられるには、あまりにも威圧感がありすぎる。
男は一瞬で顔をこわばらせ、手を引こうとした。
が、それより早く、オレがその手首をガッチリ掴む。
「逃がすかい。お前、痴漢やろ? 証拠品はこの手や」
周囲がざわめき始めた。
男はあたふたと否定するが、オレの顔はピクリとも動かない。
次の東神奈川駅で、オレは静かに車外へ男を引きずり出した。
そのまま駅員に突き出し、事の顛末を説明。
幸い、目撃者もいた。
秋葉原方面の電車に乗りかえながら、オレはふうっと息を吐いた。
「まったく……女子の身体ってだけでナメられとるな……でもオレはちゃうで」
電車の窓に映ったのは、あくまで可憐な少女の姿。
だが、その瞳には、男の矜持が光っていた。