■第16章:鬼部長が確認にきた!
昼過ぎ。
──ピンポーン。
インターホンが鳴ったのは、お昼を少し回ったころだった。
「宅配便かな? いま頼んでる物はないはずやけど……」
ドアスコープから外を見ると、見慣れた顔がそこにあった。
「げっ……鬼部長……!?」
ヤバい、どうする?
仮病を疑って訪ねてきたのは明らかや。
黙っていると、こんどはドンドンッ!! と玄関のドアを叩きはじめた。
「大谷ーっ!! おるんやろ!? 出てこんかい!!」
もう一度ドアスコープからのぞくと、顔をまっかにして怒鳴っている。
「このままではやばい!」
オレは心臓バクバクで風呂場へダッシュ。
シャワーを全開にして“入浴中”を演出し、意を決して玄関のドアを少しだけ開けた。
「……はい?」
「妹ってウソつきやがって、ほんとは──」
そこまで言いかけた部長の声がピタリと止まった。
「……あんたは?」
部長の目の前に現れたのは、不安げに見上げる美少女──つまり、今のオレや。
「あのっ……わたし、卓也にいさんの妹です」
なるべく落ち着いた声を心がけた。アニメ声なのはどうしようもないけどな。
「……お兄さんは?」
「さっきまでぐったりしてたんですけど、少しだけ楽になったみたいで……。今、シャワーを浴びてます。
でも、まだ会社に行けるような状態ではなくて……ご迷惑おかけして、すみません」
オレはぺこりと頭を下げた。
「……あぁ、そうか。そら仕方ないな。
無理せず、ちゃんと治してから出てくるように言うといてな」
──豹変である。
昨日の電話では「這ってでもこい!」言うてたパワハラ部長が、別人みたいに優しい。
思い出した。
社内のうわさや。
「あの部長、AKB的な美少女アイドルにガチ恋してるらしいで」
「推しのTシャツ着てるの目撃された(笑)」──って。
(美少女で助かった……)
オレは、階段を降りていく部長の背中を見送りながら、そっとドアを閉めた。
カギをかけて、ドサッとその場にへたり込んだ。