■第14章:オレ、朝飯をつくる(つむぎと家族の記憶)
朝の光が部屋に差し込んできた。
オレは昨日NYAONで買ったばかりの寝間着のまま、キッチンに立った。
湯を沸かしながら、冷蔵庫を開け、メニューを頭の中で組み立てていく。
――雑穀米。
――具だくさんの味噌汁
――納豆に、簡単な卵焼き。
特別なものじゃない。けれど、オレにとっては、どこか懐かしくて、落ち着く朝ごはんだった。
オレは料理が嫌いじゃない。
それには、ちょっとした理由がある。
――母が死んだのは、つむぎが三歳のときだった。
オレはそのとき高校二年生。
姉貴は医療系短大在学で就活まっただ中、父親は新潟営業所の所長として単身赴任中。
父は、東京勤務の継続を願い出たが、会社からは「新潟での地盤固めにまだ君の力が必要だ」と言われて却下。
せめてもの配慮か、新幹線代だけは月2回まで会社持ちになったらしい。
……でも、そんな制度があっても、日々の生活までは誰も面倒を見てくれへん。
いつの間にか、オレと姉貴が、つむぎの親代わりになっていた。
姉貴は地元の総合病院に医療事務として就職し、通勤時間を削って家にいる時間を優先した。
オレは部活をやめ、帰宅部になった。
洗濯、掃除、食事の支度、幼稚園の送り迎え――
それが、オレたち姉兄妹の当たり前の暮らしやった。
つむぎにとって、オレは“お父さん”で、姉貴は“お母さん”みたいなもんやったと思う。
今、こうして朝ごはんを作ってると、あの頃の光景がふっとよみがえる。
鍋から立ちのぼる湯気の向こうに、小さなつむぎの笑顔が見えた気がした。