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怪盗と待ち姫の未来

アタシが理事長室に呼ばれた。体には全身が氷ついたような感覚がする。教室を出るとすぐに人気のない廊下に白銀の髪に細身の体躯の男子生徒が歩いているのが見える。その少年が振り向き話かけてきた。慧十だ。慧十の少し悲哀を含んだような声が聞こえ更にアタシは氷ついた。


「バレたみたい……。俺も聖もな」

「…………。これからどうなるの?」


慧十が歩幅をアタシに合わせて歩き、無言のうちに理事長室についてしまった。慧十がドアをノックすると中からすぐに返事が帰ってきた。


「緋皇 慧十君と清名 聖さんですね?アナタ方には事情があったようですが二人とも財閥系の企業の出身です。今月をもってアナタ方二人には院麗クラスの上層課程クラスに入ってもらいます」

「一つ質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「告発者がいるはずでしょう?誰ですか?」


待っていたかのように奥の部屋の扉が開き二人の生徒が広い応接間のような部屋に入ってきた。一人は見覚えのあるイヤな顔、夏海 扇華でもう一人はアタシが知らない男子生徒だ。抑揚のある関西弁で喋りかけ慧十に向けて嫌な視線を当てている。


「久しぶりやな?緋皇慧十……。何年ぶりやろなぁ。十年前からか……」

「黙れ……下種が」

「おぉ!怖い怖い」

「久しぶりね聖」

「……」


アタシは初めて慧十の迫力があり凄みの効いた声を聞いたきがした。アタシが見ているのに気づくとすぐに慧十の顔が元の顔に戻り理事長に一礼して扉に手をかけアタシを促しすぐにその部屋から出ていった。


「……」

「慧十?」

「済まない。取り乱したな」

「う…うん」


その日の授業や休み時間に慧十に話しかける者は誰一人としていなかった。いつになく厳しい顔立ちに無口だからだ。アタシには優しく接してくれているがそれでもかなり怖い。


「家に帰ったらことの真相を話す……心して聞いて欲しい」

「え?……うん」


竹華や魚街にも不信感があったようだが魚街が竹華を止めていた。慧十が本当に怒りを見せている姿のようだ。お調子者の魚街ですら警戒するその雰囲気がアタシもキツかった。マンションにつき部屋に入ると慧十がアタシに向き直り話してくれた。


「アイツは俺の宿敵の息子なんだ。俺の両親を殺したのはアイツの親父。大坂 公康だ、そして成り上がりの親父が気に入らなかった他の財閥の会長や社長はみな口裏を揃え揃いも揃って親父、東雲 慧夜の財産を奪っていった。今のお袋の爺ちゃんに助けてもらえたのはあの店だけだ。俺は努力を惜しまなかった。全てを取り戻すために」

「……でもさ。慧十のお父さんがあの大坂って人に殺されたっていう証拠は……」

「ある。だが十年経っちまった。だから俺はアイツ等から全て取り返すことを目標に生きてきたのさ」

「ねぇ、アタシに協力出来ることはないの?」

「気持ちだけで十分だ。それに俺も命を狙われてる。だからあんまり姿を見せなかったのさ。そんで十分に力を付けたからそろそろ俺の正体を経済界に見せつける時が来たわけさ」


いきなり慧十はアタシを抱いてくる。少し力が入っていて苦しいが嫌ではなかった。そして長い間その状態のあとアタシに向かって話しかけてきた。


「俺は聖に頼みたいことがある。俺を待っていて欲しい」

「へ?」

「俺がいることで聖に辛かったり危険な目には遭わせたくない。だから、俺が行くまで待っていて欲しい。あくまでもこれは聖の意思にまかせるから」

「……うん。待ってる。慧十ならすぐに来てくれるって信じてる」


慧十は微笑み彼の指輪をアタシに預けるといいアタシのネックレスに通してくれた。そのあとは慧十が受けた院麗クラスへの移行についての説明を詳しく話てくれている。彼の話では今月までは普通科の現在のクラスにいていいらしい。それまでに学会側にはカリキュラムの整理があるらしいがアタシと慧十は院麗クラスの中でも上格に位置する上院クラスに転進するようだ。院麗は4クラスに分けられ上院クラス、中院学力クラス、中院クラス、下院クラスに別れている。


「俺達は家の実力も学力も院麗クラスでは相当高いはずだ。だから今だ五人しか生徒の居ない上院に入るらしい」

「院麗クラスもクラス分けがあったんだね……ただの金持ちクラスかと思ってた」


慧十の話では選別は格差社会の縮図らしい。上院は大金持ちか中院クラスの財力に相当高い学力があれば入れるらしい。

中院学力クラスは上院には入れないがそこそこ学力のある者が集まるクラスだ。

後の2クラスは権力や経済力、学力に比例した順位付けで決められた下位ランクの生徒達で構成されている。下の二つのクラスが四分の三以上をしめておりあまりいいバランスではない。


「そういえばお父さんから聞いたんだけどさ。再来週の週末にパーティーがあるらしいんだ招待状は……。あったあった。慧十は参加するの?主催は……あれ?東雲 慧十!?」

「まぁ、主催者だしな。最近、俺が会社を立ち上げたのさ。元親父の会社の重役や社員を全員雇用し秀造社長にも共済を依頼した。それに爺ちゃんの会社も共済を組んで今や日本でも有数の大企業さ。そして、それが今回の餌になる訳だ」

「どういうこと?」


慧十はかなりの策を用意していた。アタシの家は代々の家系があり潰されることはないが慧十の一族の会社となると話は別になるらしい。周りの重鎮企業はこぞって慧十の会社を潰しに来るだろうということだ。ところが慧十の共済の相手はここだけではない。まだ隠している状態だが日本剣道協会、大林組、日水連、アメリカの自動車メーカーやヨーロッパの周辺を牛耳るデザイン業各社が慧十に協力しているのだ。その秘密はNIGHT-KNIGHTに秘密がある。と……ここまで説明してくれた。株を買って買収行動を起こした所に他の大企業から逆に買収をし潰してもらうという算段だ。


「改めて思う……。凄いね」

「いや。凄くはないと思う。親父の知り合いの息子にことの真相とグループ結成後の利益を教えただけだからな」

「で?アタシは清名家としてパーティーに出るけどどうすればいいの?」

「ずっと愛想を振り撒いてくれればいいよ。あの大坂 環に目をつけられないように」

「……。わかった。やってみる」


今月は十一月だ。アタシの父親がアタシに対しての御見合いが来たと言っていた。父親は正直に言えば形式だけでいいと言っていたためアタシは正直ホッとしている。なぜなら相手は慧十の宿敵の大坂 環だったからだ。確かにルックスや学歴はいいが性格がイヤだった。


「お初にお目にかかり光栄です……。大坂 環と言います」

「清名 秀造とこちらが娘の聖です」

この男はズル賢いように感じる。慧十は確かにそれなりに頭はいいし奇策を使うがそれでも正攻法で向かっていくだろう。だがこの環と言う男には気を抜けない不振感のようなものを感じた。確かに慧十が嫌う理由もわかる気がする。


「聖さん?そんなに緋皇のことが好きですか?」

「フフフ……。どうでしょうね?彼は軍士、アタシの心内を読んでます。アナタもそれなりにあるのでしょう?そういう所が」

「聖さん……。アナタも相当頭がキレるらしい。ならお家のためにこの俺と結婚する方が得になると思いませんか?」

「どうして?」

「おや、俺を試しているのかな?清名家は幕末の開国時に起業し今や巨大な財閥になっています。しかし、緋皇家、東雲家は最近、成上がった極小かつ歴史、権力のない家柄でしかない。それに嫁いで先のない人生を歩むより俺の会社の社長婦人になった方がいいと思うのですが?」


清名グループは確かに開国時に父方の祖先が作り上げた大きな会社だ。しかし、その会社は戦後に一度解体され百年前に再結成されたもの、アタシはあまり自分の地位に関しては考えたことはない。それに興味もない。だが、流石にここまで慧十のことを馬鹿にされると腹立たしい。それでもグッと我慢し慧十に言われた通りに軽く流した。


「アナタも面白い人ですね?私は清名グループを継ぐとは一言も言ってないですよ?今日のところはこれぐらいにして扇華を口説いたらどうですか?アナタとならお似合いだとおもうのですが」


父親は近くから心配そうに見ていたが安心したようにアタシから目をそらした。本家の正門からリムジンがいなくなり閑散とした門扉の近くに慧十の大型が止まっていた。本人もそのすぐ近くで何やら雑誌を読んでいる。アタシに気づくと雑誌をサイドアタッシュに入れバイクのスタンドを倒し近づいて来る。


「どうだ?あの下種野郎の手応えは」

「最悪よ。占め殺してやろうかと思った!」


その会話を聞いていた父親が慧十を招きいれ中で話始めた。慧十は何やら父親に物凄い提案をしたらしくいつになく驚いた顔をした。

「しかしなぁ。失敗すれば本家を失うんだぞ?それでもいいのかい?」

「その時はその時で何とかしますよ。剣一だって馬鹿じゃないですし」

「だがなぁ……。いくら君が現世の貴公子だったとしてもだよ?相手との対比は五分と五分だ。確実に勝てるものではない」

「戦に“確実”はありませんよ。それに雲英の婚約者にも協力を仰ぎました。ここが大きな分かれ目でしょうね。重鎮改革派の仲間が親の代から離脱してくれればかなり戦況は楽になります。そろそろ雲英達が来る頃です」


確かに慧十のいうとおり二人乗りのバイクから降りたうちの一人が玄関で呼び鈴を鳴らした。ヘルメットをとって顔を確認すると確かに雲英だった。


「すみませ~ん!」

「いらっしゃい。雲英さん」

「秀造社長!すみません御身自ら……」

「いやいや、気にすることはない。で、そちらが……。婚約者の方ですな?」

「はい。自己紹介して」

「一角 正純と言います。以後よろしくお願いします」


アタシは慧十と話せず実は退屈していた。せっかく和服に着替えているからもっと見て欲しかったのだが仕事が絡むと少し人が変わる慧十には何を言っても無駄だ。


「一角財閥ですか……確かに重鎮中の重鎮。でも何故アナタはこちら側に?」

「先輩の影響を受けたからです。先輩の店では僕のように素性を隠している社員ですら分け隔てなく仕事を与え相応の対価も与えてくれます。ですが、今までのように地位や権威が力として成り立つならばこれは既に出遅れ状態でこれからの経済にはついて行けません。なぜならアメリカやユーロ圏では既に実力や手腕のある人が指導者として動いています。馬鹿の御曹司などは次々に排除され努力し力を付けた物が這上がってくる。そんな社会にすれば経済と他のバランスも保たれるでしょう。それに僕も馬鹿の御曹司とは一緒にされたくないですし」

「ハッハッハッ!君もなかなか言うな!なら彼と共に国内で同士を探したまえ。私は国外で当たってみよう」

「ありがとうございます!」

正純と慧十が中から出て来てアタシと雲英に声をかけてきた。雲英は慧十より少し黒ずんだ銀髪をしていて光の当たり加減によっては紫に見える。ライダースーツを来ている彼女の姿はモデル宛らの体系をもろに見せ付けている。女のアタシでも惚れ惚れしてしまうような美人だ。


「聖!待たせたな」

「ごめんよ。雲英」

「ホントに遅いよ!でもさ……正純君だっけ?いくつなの?」

「僕ですか?今年で14です」

「ふぇ!?そんな早くから婚約できるの?」

「婚約だけならな」


そこに更に慧十が呼び付けた剣一という少年とアタシの妹の那流が加わり話はいろんな意味でヒートアップした。


「なんだよ!兄貴!休日くらいゆっくり寝させてくれよ。あれ?雲姉もいるし……今日は総会じゃ……むげがんぎ!ぐばぁぁぁ!」

「気にするないつものことだからな」

「…………」


そう、雲英ちゃんは実は14歳にして女暴走族、レディース…“燕”の総長をしている。巷では有名らしいが本名は誰も知らないためわからないらしい。因みにあだ名は“銀鬼”。


「ふぁぁあ……。騒がしいわねぇ。あれ?お兄ちゃんがいる!何で?」

「俺が居ちゃいけないか?」

「あぁぁぁぁぁ!なんでアンタが!まさか!まさか!まさか!兄弟なのぉ!」

「……」


アタシも慧十に弟がいたことは知っていたがそれ以上は知らなかった。実は那流と同じクラスらしい。

「で、雲英?お前等の準備はいいのか?」

「大丈夫よ。兄上を頼る時は相当困った時くらいにするって二人で決めたの」

「これからお兄さんと呼ぶことになりますがよろしくお願いします」「そんなに改まらなくていいよぉ。どうせ慧十のことだし直ぐに……あっ……すみませんでした」

「うん、よく止まったな……次言おうとしたら……」

「……」


生唾をのむ音がもろに聞こえたらしく周りの四人は興味津々のようだ。


「なんでアンタがここにいるのよ!」

「兄貴に呼ばれたんだよ!文句あっか?」


喧嘩する程仲がいいとはまさにこのことだろう。そこへ更に魚街夫婦が加わりいよいよ収集がつかなくなった。明日は日曜だからいいものの次の日が平日だったらこうもいかなかっただろう。たまにはと雲英の誘いがあり緋皇邸に行くことになった。


「聖。ほら……メットは被っておけよ」

「うん。ありがと」

バイクが四台。

慧十のエアホーンS・44型

魚街のロードスター・フルスポーツ

雲英ちゃんのイーグルハンター・CA型

剣一君のオウガ・2000型。

全てスピード性能や型が改造されており運転は容易ではないが運転手達は気持ちよさそうに風を切って公道を抜けていく。途中から脇道に入り慧十の案内で小さな丘をいくつか過ぎると和風の大きな壁が見えてきた。慧十が左手を上げ後ろにスピードを下げる合図をし皆緋皇邸にバイクで正面玄関から入って行った。


「すげぇ……。慧十、お前さ。ホントに御曹司なんだな……」

「まぁな、だが俺は一応この家は継がないつもりだ。この剣一が継いでくれるさ」

「兄貴……なんで」「俺が一番信用の置けるやつはお前だ。だがな、そういうヤツは少し遠いとこに配置した方がより強みを出してくれる。だからお前は本家の跡継ぎなんだ」

「……」

「で、この義弟は俺のライバルで泳は俺の親友さ」


歩きながら慧十の話を聞いていた剣一と魚街、正純はすこし真剣さを帯た顔立ちだがすぐにいつもの顔立ちに戻り緋皇邸に入った。


「わぁ!和室だぁ!」

「畳のいい香り」


竹華がここに着て初めて口を開いた。慧十とアタシのことを見ているようだ。


「やぁ、皆さんお揃いで」

「只今、爺ちゃん」

「おぉ、慧十か。清名の若から話は聞いておる。遂にこの日本の経済の中枢で全面戦争を始める気じゃな?」

「その話はまた後で、今は客を連れてるからな。今晩は宴会でいいよな?」

「騒げ!騒げ!ハハハ!子供は元気が一番じゃぞ!」


そんなこんなでアタシ達は皆、緋皇邸に泊まることになった。カレンダーを確認すると月曜日が休日になっていることがわかったのだ。部屋は二人一組だ。約二名文句を言ったが慧十に沈められすぐに納得したようだ。その夜はアタシは那流と同じ部屋で寝ていたが那流が居ないことに気づき外にでた。すると意外と簡単にみつかりすこし拍子抜けしたが少し話声がしたので聞耳を立ててみた。


「なんでアンタは学校では東雲なんて名のってるのよ」

「本当の名前は東雲なんだよ。まぁ俺は覚えてないが諸事情があるらしい」

「ふーん。アンタさなんでずっと学校で女の子に話かけられてるのにあんなにそっけないの?」

「好きでもない奴らなんか興味無い」


姉として妹の性格は熟知しているつもりだ。こういう時の那流は実は相手に興味ありだがいえない俗にいう“ツンデレ”なのだ。一度慣れてしまえば那流は猫のように甘え出すタイプである。


「じゃぁ、誰に興味あるのよ」

「お前の姉ちゃん」

『えぇ!アタシ!?』

「ダメだよ。お姉ちゃんはお兄ちゃんにぞっこんだから」

「姉妹ってにるもんだな。兄貴のいうとおりけっこう鈍いなお前さ」

「な!!どういう……ん!!……」

『うわぁ……。大胆……ってちょっと待て?アタシは今遠回しに馬鹿にされたのか?』

「……っん!ぷはっ!いきなり何すんのよ……」

「言葉で言えないことは行動で示すタイプでね。俺は」

「アナタもそっくりじゃない。ひねくれた正確に大胆不適な行動で……。お姉ちゃんが落ちる訳だよ。ホントに怪盗はだてじゃないのね。人の心を鷲掴みにして持っていく」


その時、音もなくアタシの背後の襖が開き口と腕を押さえられ引きずり込まれた。実はそこは慧十の部屋でアタシがいるのに気付いて直ぐに手を打ったようだ。


「慧十!ばっ馬鹿!どこ触って!」

「少し騒ぐのをやめてくれないか?聞こえないだろ」

「むぅ~~」


剣一君は慧十とは真逆の性格で何も包み隠さずに突き進むタイプのようだ。


「行動で示してくれたのはいいけどさ、それで私が悲鳴でもあげたらどうする気だったのよ」

「考えなんてねぇよ。俺は兄貴のあの慎重さが大嫌いだ。まどろっこしいことは嫌いでね、直球勝負。悪いか?」

「何よ。それ……まぁいいわ。私のファーストキスを奪ったことは許してあげる。これから私を幸せにするならね」

「兄貴の言う通りか……」

「は?」

「ムードは考えろよ……だとさ」

「フフフ!流石、軍士慧十兄さん。必ず私を社長婦人にしてよ?」


まったく、この兄弟ときたらと心の中で思っているアタシだった。結果的に那流もやっと安住の地を見つけた訳だからいいことにしよう。


「ねぇ、慧十。アタシもして欲しい」

「キスか?」

「うん……」


夜はまだまだ長い。慧十の部屋は本当は魚街がいたはずだったが結局は各カップルでそれぞれの部屋に別れて寝ることになった。那流もどうやら剣一君を連れ込んだようだ。アタシは慧十にキスをしてもらったあとは彼に抱かれまどろみ寝てしまったようだ。


「おっす!皆」

「魚街の兄さんは元気だなぁ」

「剣一は少し疲れたみたいだな」

「ふぅ、皆さんおはようございます」

「あ、雲英ちゃんおはよう」


面々が顔を揃え帰る準備をしている。そのあとはそれぞれのバイクに乗り送って帰る組とそのまま帰る組で途中で分岐した。


「慧十……。冬休みはどこか行きたいとことかある?」

「特にないが……どうした?」

「ん、またアタシ達の別荘に行こうかなって思っただけ」

「山か?」

「うん」

「じゃぁ、ボードが必要か」


そんな話をしながら帰り来週のパーティーに備えるアタシ達だった。最近は竹華の影響からか露出も気にならなくなり毛糸にコーディネートしてもらうのが楽しみの一つになりつつある。


……………………

数日後

……………………


「ようこそおいで下さいました。お集まりいただいた皆様に東雲 慧十社長からお礼と挨拶がございます」

「今日、この会場にお集まり頂いた皆様に感謝の言葉を申し上げます。加えてこれからの経済発展のため…………」


正直、長い。だが普通はこれくらいらしい。やっとよくドラマとかでやっている乾杯のシーンのようなことをするようだ。


「では!これからの発展に!」

『乾杯!』


慧十の言うとおりアタシは愛想を振りまくことだけで精一杯だった。場慣れしていないせいか疲れも激しい。慧十は剣一君に司会と進行を任せ要人と話している。そして、アタシに気づいたらしく話を切り上げこちらに歩いて来てくれる。


「大丈夫か?」

「大丈夫……じゃないかも」


床は柔らかい絨毯でアタシの靴はヒールの高いピンヒール、服は動きにくいぴったりくるドレス。動くだけでかなり辛い。今は慧十が助けてくれているから大丈夫だがいつまでもそういう訳にはいかない。


「緋皇さん?その方は?」

「清名財閥の聖さんです。今回は秀造氏のご都合の関係で妹の那流さんとともに出席されているのです」

「そうでしたか。では、お二人ともごゆっくり」


アタシの目が点になっているところに那流が現れた。こちらは普通のハイヒールに裾の短めのドレスでキュート感のあるデザインだ。どちらかと言うと大人びた感がある。剣一君はいつもは滑らかに流している前髪を後ろに倒している。慧十はいつも通りの髪型でいるためあまり代わり映えはしないがタキシードを着ているのを見るのは久しぶりだ。


「まったく。お姉ちゃんはパーティーに出なさすぎ」

「お兄ちゃんも甘やかさないの」

「ハハ……。だけど足挫かれても洒落にならないしな」

「むぅ……」

「二人とも。義姉さんをそんなにいじめない」


アタシと慧十はnight-knightにいる時とさして変わらない時間を過ごした。帰る時には足も大分楽になり正直ホッとしたマンションに着くとまずはソファに横になるアタシ。慧十はすぐに着替えアタシにシャワーを先に浴びるように伝えた。こんな日常も今年限りになってしまう。院麗クラスに転進すれば自由はない。それまでにアタシは慧十と思いっきり楽しむと決めていた。12月と1月上旬は冬休みになる。それは夏休み同様に宿題などはない。アタシは冬休みにも慧十と過ごすことにした。少し、危ないかけだけど。

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