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ロストシーフ…姫様の恋心

 一学期期末を終えアタシは少し慧十と近付いた。ある意味で少し不安にもなったが結局はいつもと変わらない日々を手に入れたのだ。アタシが勝手に悩んでいるあいだに行動力のある敵が現れアタシは正直言って闘えるほど強くもないし度胸もなかった。それが原因でアタシは大好きな人を傷つけてしまった。だから、アタシも心に決めた。


 いつか……きっと伝えようと。


「聖、悪い知らせよ。ついに一人院麗クラスのお嬢様が実力行使に手を付け始めたわ。まずいわ……相手が悪すぎる。なんでこんな時に……」

「…………」


 そう、その人の名前は夏海 扇華。院麗クラスでプライドが一番高いと有名でしかも超大金持ち。ただ一つ珠に傷なのが馬鹿だということだ。いくら金があっても本人の性格や特徴、気質は変えられない。それが諸に出た形となっている。


「で? それをアタシにどうしろと?」

「慧十君取られてもいいの?」

「取られてもって言うか……。慧十が望むならそっちのほうがいいんじゃない?お金持ちなんでしょ?」

「はぁ……。わかった。じゃぁ慧十君の思いを裏切るんだね……。もう、その話は終わり!」

「うん……」


 正直に言えばかなり混乱した。これまでこんなことはなかったし考えたこともない。それに相手は実は顔見知り……。かなり気まずい雰囲気のなかで更に声のトーンを落として竹華が聖に声をかけた。


「聖……。まだ気づいてないの? それともあなた私があなたの正体に気づいてないとでも思ってた?」

「じゃぁ……」

「うん。大分前から知ってたよ。オリエンテーションの直後くらいに気づいて調べたの。そしたら貴方がヒットしたから」

「バレてたんだ……」


 衝撃の事実が二つ明らかになりアタシの困惑は深まるばかりだ。先ずは慧十のこと、次にアタシの正体が……。バイクに乗っている時に勇気を持って聞いてみた。


「慧十……。アタシのことホントはどう思ってるの?」

「……。大切な人って前に…………」

「嘘。だったら何でアタシに対してそういう素振りを見せないの?」

「…………」


 慧十が黙り会話がそこで途絶え、アタシは納得がいかないままずっとムッとしていた。慧十はうつ向き加減で視線を落としてずっと口を開かない。いつもの少し怒った感じとは違い悲しさが強い表情で見るからにテンションが低そう。


「アタシ一度家に戻る……。頭、冷やしてからのほうがはなしやすそうだし」

「わかった」


 この騒動の原因はアタシの心境の変化だ。慧十が大切な人になればなるほどに苦しくなった。そして、今回の敵が出現したと言う現状で慧十の対応が曖昧だったことに対してアタシは完全に切れた。だからと言って慧十と縁を切る訳ではないが少し溝が広がってしまった。そして、夏休み。7月中旬から八月終わりまでの間、慧十とは合わないと決めてアタシは一度、実家に帰った。それから数日後にあまりに唐突過ぎて驚くことも出来ないことが起きた。敵、もとい。夏海 扇華が訪ねてきてアタシを自らの家に招待したのだ。


「久しぶりね。聖……」

「なに? アタシ今あんまり機嫌良くないんだけどさ……」

「そんなに怖い顔しないでよ。今日、ここに来た理由は簡単よ。一週間家に来ない?」

「は?」

「ま、私が貴方を呼ぶのにはちょっとした理由があるけどね」


 この性悪女……扇華は勝負を持ちかけてきたのだ。一週間、慧十を信じてアタシは慧十に関連した事象を全て切り離し生活する。その途中で慧十と接触したり連絡をとったらアタシの負けという嫌な勝負だ。だがアタシが勝てばこれからは一切慧十との関わりを持たないと言った。何故かアタシはその勝負にのってしまって後から後悔した。絶対に無理だから……一週間も合わないなんて。自分で決めた期間はそれよりもかなり長かったが実家に帰って姉や妹に刺激されてわかった。無理だ。


「わかったわ」

「じゃ、乗って」


 慧十もマンションを一時離れ実家に帰っていた。こちらは誰も兄の態度には触れない。触れていくのはお祖父さんくらいだ。慧十はたまにマンションに帰りアタシが帰って来ているか確認していたようだ。


「兄貴はどうしちまったのかねぇ」

「わからないわ。兄上は元々口数は少ないお方だった上に感情も面に出さない人だったから……」

「それはわかってるよ、姉さん。でも最近は輪をかけて暗いぞ?」

「剣ちゃんはあんまり触れないほうがいいわ。また喧嘩するし」

「…………」


 兄妹間でもかなり遠慮があるようだ。アタシ達には関わりのない話だが慧十はかなりまいっている。こんなことをしていても無意味だとわかっていたがなぜか動けない。アタシは扇華の家のアタシ用に用意された部屋でずっと針を持って刺繍や細かい所の縫い付けをしていた。アタシの学園、楼雅学園には夏休みの宿題はない。正確には成績不審者や志願者のみが夏期補講には参加する形だ。だからアタシは悠々と好きなことをしていられる。ただ一つをのぞいては……。


「聖! 私はちょっと出かけて来るから」

「うん、ゆっくりしてきなよ」


 予想はついた。どうせ慧十の所に行くのだろう。慧十は夏休み中は店に入り客を持たずに事務室にいることが多いと既に携帯電話を通して魚街から連絡が回ってきていた。事務室はよっぽどのことがない限り入れない部屋だった。慧十は学園の生徒が多い時間帯になるとよく逃げ込み姿を隠すらしい。


「聖! ホントにいいの? 賭けをするのはいいけどさ……聖の勝率が低いことくらいわかってるでしょう? 私ね、最近聖が考えてることがわかんなくなってきちゃった。確かに慧十君も受け身姿勢で腹立たしいのはよくわかるけど……」

「ごめん……。今慧十の話をしないで……なんか、空しくなってくるからさ。アタシなりに整理をつけようとしたけどさ、もうどうしたらいいかわかんなくなってきちゃった。穴が塞がらない感じ……」

「結構、重傷だね。わかった! あと2日我慢しな、そしたら私がすぐいくから。私さ……実は成績不審者の赤紙貰っちゃって今補講の休み時間なんだ。」

「気をつけなよ……。あれ三枚貯まると留年でしょ? アタシも2日我慢してみるよ。そしたらなんか整理つきそうだし」

「そのいきだよ! 聖の新作の服楽しみにしてるからさ。あと泳から業務連絡。なんかお店の女性スタッフ用の服の案件が欲しいらしいよ」

「わかった。考えとくよ」


 竹華と話すことで少し気が紛れたきがする。アタシも少し考えすぎだったのだろう。だけど根底にある慧十にキスをした時のモヤモヤはまだ残っている。何か記憶の奥にある霞がかかったところに本当の答えがありそうだ。そんな時は服を作る。考えて悩むなんてアタシらしくない。だから思いついたデザイン画をノートに書いて行く。それが行き詰まったら本を読む。それで浮かばなければテレビ、それでも出ないなら外へ、最後は……。


「只今! 聖! いる?」

「いるよ……」


 嫌なヤツが帰ってきた。アタシの怒りの元凶だ……。煩い、傲慢、強欲の3拍子に馬鹿が加わった扱い難いやつ。まだ慧十が逃げていることに気づいていないようだ。おまけにアタシに同意を求めようとしてくる。信じられない……。


「慧十さんはいったいどこに居るんでしょうかねぇ。聖は知らないの?」

「勝負してる相手に教える人はいないと思うけど?」

「そ、それもそうね」

「あ、そうそう。明後日あたりに竹華が来るからそのつもりでお願いね」

「わかったわ。準備しておく」


 慧十の動向などの情報は竹華から逐一入って来る。店での情報も泳から竹華を介して入ってくるからそのてんに関しては大丈夫だ。問題は扇華の動向だ。このよくわからないお嬢様は気紛れに行動するため悪い彼女にとっていいことが起こることは少ないが時々大逆転的事象が彼女に訪れるとことがある。アタシはそれを避けるために手を打たなければならない。


「アタシはだいたいこの部屋に居るから用があるなら来て。ただし、話し相手は無しだよ。絶対喧嘩になるから」

「フンッ! そんなことはわかってるわよ。でも、諦め早いわね。勝負は終わりにする?」

「だからさ、話さないで……腹が立つからさ」

「わかったわよ」


 その頃の慧十は…………。


「何かさ~最近の店長暗くねぇ?」

「確かに! でもさ、理由何だろうなー。あの人が落ち込むって相当な理由だぞ…… 」

「違いねぇな。魚街なら知ってるかなぁ~」

「聞いてみるか」


 スタッフの教育係りもしていた慧十があまり機敏に動かなくなり、彼が持っていた人気が落ちた分売上高も落ち始めた。そして一騒動起きた。魚街が慧十につかみかかっているのをスタッフの一人が見ていたのだ。彼の名前は笹瀬 (しょう)、慧十が最も信頼を置くスタッフの一人だ。そして、聖の姉の成果の夫でそういう繋がりを持っている。


「おい! 慧十! いつまで中途半端にしてるつもりだよ! 聖さんが可哀想だろ!人の時は悠々としやがって!」

「……………………」

「黙ってんじゃねぇよ!」

「……や…………した……から」

「聞こえねぇよ!」

「約束したんだ。聖がアイツが覚えてるか知らないがな」

「そんなもんで…………」

「二人ともそこまでだ」


 松が二人の仲介として話題に入ってきた。その後ろにはドレスを着た女性がいたが松は体格がよく大柄なため隠してしまい顔や姿は確認出来なかった。


「会話から察するに緋皇さんの恋人に関する話題ですか……。ならもう少し待った方が良いでしょうね。緋皇さん」

「笹瀬。なんでお前が知ってるんだ?」

「知ってるも何もないわ。松は私の旦那だし私、成果は松の妻。知らないはずないじゃない」

「成果さん!」

「最初から聞かせてもらったけどあなたも一途ねぇ。なに? 10年前の話かしら。あの子は多分覚えてないけど……あとでアタシが細工しとくわ。多少暴走するだろうけど暖かい目で見てあげること。それから決してすぐに追わないこと。わかった?」

「理解はしました。しかし、実行はできるかは分かりません」

「やっぱりね。まぁ、せいぜい気をつけることね。あなたは焦ると注意が散漫になるから」

「何がどうなって……」


 松が魚街の肩に手を置き囁いた。慧十の目には久々に光が戻り前を向いている。そんな彼を見ながら成果は真剣な眼差しで慧十を見つめていた。


「俺たちはわからなくていいのさ。あの二人がわかればな」

「俺に知る権利は?」

「ない」


 慧十は一度マンションに帰り掃除をした。そして、成果の言う通りに一言伝言を残し部屋を出ようとした時に呼び鈴がなり玄関にいき戸を開けるとそこには扇華がいたのだ。それを見るとため息をついてから慧十は靴を履き外に出た。


「どうしたの? この前断ったはずだけどさ」

「決まってますよ……慧十さん。実力行使です」


 アタシはその頃、雲英が運転するバイクの後ろに乗っていた。かなり荒い運転で正直うんざり利したが姉に言われたため従った。どうしようもなく脳天気な姉だが実はかなりの策士で頭がキレるやり手なのだ。


「そろそろ着きますから!」

「わかった」


 その方向は行きたくなかったがそんな状況下ではない。玄関とアタシのマンションに着き階段を上がっていく。そこで嫌なヤツとそして慧十と鉢合わせした。


「あら、聖じゃない。勝負はどうしたの?」

「知らないわよ! アタシも連れて来られただけだし」

「でも、条件はさ慧十さんに会わないこと。しかもまだ二日しか立ってないのよ?」


 次の瞬間に扇華が見せ付けるように取った行動を合図にしたようにアタシは階段を駆け降り雲英がいるマンションの出入口付近まで走った。そして、雲英が言葉をかける前にヘルメットを被りバイクでこの場をさるように告げた。


「出して……」

「え、もういいの?」

「出して!」


 バイクは急発進し見えなくなった。扇華は慧十に抱きつき背伸びをしてキスをしたのだ。そして、とっさに聖を追うために走ろうとした慧十の腕を掴み声をかけたのだ。


「行かないで」


 慧十はあまり怒りを露にするタイプではないがこの時ばかりは違った。静かな声だったが厳しさを含み少し低くなった声で相手に話をし最後に睨み付ける様にしたあとで階段を降りて行った。


「ふざけるのも大概にしてくれ。そんな条件で勝負とはいい御身分だな。そんなヤツとは付き合えないし、俺は聖を待つと決めた。だから俺は行く。じゃぁな」


 バイクにキーをさして飛び乗り慧十にしては乱暴な運転をして道路を走って行く。その頃聖たちは……。


「ヒッグ……ヒッグ……。もう嫌……なんで? アタシが何かしたの?なんでアタシにだけ……」

「……」


 慧十が探すであろうルートを全て避けていく道を雲英に命じ、アタシ達は黙って走って行く。その間に沢山の店に出入りした。目的は時間潰しとうさ晴らしをするため。ゲームセンター、ファミレス、カラオケ、テーマパーク、海岸線など思い付く場所を全て……。こんなことしても無意味だということはわかっていた。だけど、そうしないと心が潰れちゃいそうで悲しくて……。最終的にアタシ達はマンションに帰ってきた。慧十が居ないことはわかっていたため直ぐに部屋に入ろうとした、その時部屋のポストに便箋が入っている。姉、成果の字だ。


『貴方が迷っているなら読みなさい。迷っていないなら迷うまで封を開けないこと』


「どういうことだろ」

「さぁ、でもとりあえず中に入りましょうか。もう外も暗いですし」

「うん」


 その頃、慧十は……。


「何が策士だ……。自分だってこんだけ人をかくらんさせる技があるくせに」


 スーツではなく私服の状態で髪をなびかせながらバイクを走らせていた。今は海岸線に向かって走ってる。人気のない道路でかなりスピードを出して走っていく。慧十のバイクはエアバイクと呼ばれエンジンの動力は水素爆発なのだ。クリーンなバイクという意味でエアバイク。それはかなりスピードが出るためプロのレーサーや慣れた人しか乗らない特注品だ。それに更にスピードを上げた状態で股がっている。事故を起こせば即死物だ。


「そろそろか。もう八時……家に帰ってるか。いや、雲英もいるしそれは……」


 いきなり現れた無点灯の車に追突され転倒した……。ヘルメットをかぶっていなかった慧十は諸に頭を打たないように手で頭を守ったままガードレールに衝突し意識は朦朧としていた。車は直ぐに走りさり追跡は不可能だ。そして最後に残った力で携帯電話を使い119を押し『海岸線10番地灯台前』と話して気絶した。


「全く、慧十のヤツは!アタシの気も知らないで!」

「まぁ、まぁ。聖さん少し落ち着いて……」


 その頃、アタシ達は家で騒いでいた。お酒などのアルコールは全て慧十が管理さているため炭酸ジュースで我慢していたものの今は悲しさより怒りのほうが強い。本当に分からないのは何故慧十が『受け身姿勢』なのかだ。そして、慧十の頭ならそろそろ帰って来ていてもおかしくないと思っていたし来たら愚痴の雨を降らせてやろうと思っていた矢先に……。


「聖! 探したわ! 今すぐに来て! 早く!」

「竹華……。どうしたの?血相かいて……」

「話は後! 早く!」

「まさか兄上に何か……」

「……」


 アタシはそこに座りこんでしまった。慧十に何かあったのは確実でしかも竹華の様子からするとかなり深刻だそして竹華が雲英に説明してることを聞いてさらに血の気が引いた。


「車にはねられたらしいの! 手で頭への直撃は避けたみたいだけど間接的に後頭部を打っていて救急車が迅速に動けたけど……危険な状態……」


途中から声が聞こえなくなった。頭が痛い、目の前が霞む。アタシのせいで慧十が傷付いた。アタシのせいで。


「聖! 早く!」

「……。行けないよ……。慧十に合わせる顔ないよ。だって……」

その瞬間に竹華が口を開きかけたが雲英の手のほうが一瞬早かった。聖の頬を打ち珍しく怒声がとんだ。

「甘ったれないでよ! 誰のせいも何も今は関係ないの! あの人はこんなことじゃ死なないしそんなことは気にしない……。だけどアンタが来なかったら兄上はどう思うと思ってんの!?」

「そう……その通りよ! 行くわよ!」

「急げよ! あんまり状態が良くないんだ! 血も足りてないし……」

「え!? 泳! それどういうこと!」

「兄上はAB型のRH-です。希少な血液であまり居ないのです。兄妹と言っても腹違いの私は普通のO型で弟の剣一はA型のRH-……。お祖父様も剣一と同じ誰も居ない……」


 その時、姉の成果から聖の携帯電話に電話が入り直ぐに竹華が出た。


「もしもし! 聖?」

「竹華です! 聖ちゃんが喋れる状態ではないので私が出ました。」

「聖を連れて来て! その子もAB型のRH-なの! 私と那流のだけじゃまだ足りないのよ!」

「え! わかりました! 今すぐ行きます!」


 アタシは無理矢理立たされ直ぐに雲英の運転するバイクに乗せられて病院に向かった。気持ちの整理なんてする時間は無い。数十分後にはアタシは慧十の隣に寝ていた。処置は既に終わっていたが人工の血液循環器はまだついていた。アタシの右の手首から取られた血が袋に入れられ慧十の左の手首にチューブ伝いに流れて行った。その後はアタシの記憶もない。どうやら貧血で気を失ったらしい。


「聖……。聖……」


 姉が揺り起こす気配がする。どうやら日付は変わっているようだ。アタシは右手の手首に包帯を巻かれた状態で慧十の隣で寝ていた。上体起こす。先ず右側を向くと目に入ったのは壁よりの椅子に座ったまま寝ている魚街、次にベッドに寄りかかって寝ている竹華と那流。正面には姉の成果に父と母、更に誰かわからない男の人と美雪がいる。左側には反対にある慧十のベッドに寄りかかって寝ている雲英。次にお祖父さんと知らない男の子。そして、穏やかな寝顔をしている慧十が見える。散々迷惑をかけたが結局何事もなかったかの様にことは過ぎた。そしてアタシはまた迷い始めた、慧十とこのままどうするのかを。


「『迷ったら開けてみなさい』か、今なら開けてもいいかも。でも何が入ってるんだろ……。けっこう軽いけど」


 中には違う筆跡の綺麗に整った文字でこう書いてある神が入っていた。


『僕は待ってる。君が追いついたと思うまで、いくらでも待ってるよ。十年前のあの日から』


 とそして中からは所々切り取られた写真が出てきた。片方はアタシでもう片方は切り取られていた。だが幼いながらにキスをしているのがわかる。その写真の裏にも字が書いてある。


『君は嘘をついた。アタシは進めない。君に置いていかれたあの日から。アタシは進めない。だからアタシはアナタを……君を待つ』


 こちらはアタシの字だ。少し癖のある斜めがかった字だ。これは中学生の頃に書いたらしい。日付が書いてある。そして、アタシは……その時のアタシは勘違いして解釈した。この写真に居るはずの少年がアタシの初恋の人で慧十はそうではないと。


「慧十?大丈夫なの?」

「あぁ、成果さんの忠告は聞いておくべきだったな……ホントに跳ねられたし。それから聖、ありがとう。俺に血を分けてくれて」

「改まって言わないでよ……。恥ずかしいから」

「そうか。じゃあ早く退院して聖に店に連れていってやんないとな」

「うん。お願いね」


 慧十は右手の骨折と大きな打撲傷にこれまた大きな切り傷があった。本人は箔がついたと笑ったがそれでまた敵が増えるのではと不安だ。右腕が完治したら退院できるらしい。今は七月の終わりだ。アタシは退院していてもおかしくないのだが姉の計らいでまだ慧十の隣にいる。そして慧十と約束をしていた。夏休みでの3日間だけアタシだけの慧十になってくれるように。そして、アタシの初恋の人を探すのを手伝うこと。この二つを約束してアタシの7月は終わったのだ。大変だったけど少しいいことのあった夏休みの思い出になって……。

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