自分に正直に……
オリエンテーションが過ぎてアタシは慧十といつもと変わらない生活をしていた。ただ、最近は慧十と家ですごすことが多い。アタシの部屋に慧十がいたりアタシが慧十の部屋にいたりする。それにたまにアタシが起こす事件も面白いらしい。その他にも変化がありアタシの中では慧十は友達以上恋人未満のエリアにいる。けど、アタシ自身がとんでもない方向に突っ走ってしまうことがありたまにその枠を越えてしまうのだ。日常の中にはそういう要素が多く含まれていて慧十は相変わらずアタシをからかって楽しんでいる。
「で、調子はどうなんだよ? 竹華」
「うん! 聖と慧十君に負けないぐらいラブラブだよ!」
「だから、アタシ達は付き合ってないから……」
「え~? でも知ってるんだよぉ? 慧十君にむがんぁ! やめふぇひょ!」
「その先はNGワードだから言わせない……」
「ぷはぁっ! だってホントのことじゃん! この前の事故? もさ」
「竹華……。お前慧十の策士病が移ったか?」
「俺を病原体みたいにい言うなよ……」
「けっ…慧十! あわわわ…………」
「『わかりやすいわね。聖ちゃんって……慧十君』」
「『そうでしょう?だからからかい概があるんですよ。』」
今日は慧十の店に遊びに行く予定だ。しかし特にイベントはなくまたもドレスだ。少し気がめいる……。だが、何故か楽しみだ。学校ではアタシと慧十の関係を疑う人も多くなってきた……。同棲くらいバレても問題ないがそのあとが怖いからあまり詮索はされたくない。そして、アタシの立場を守るために策士、慧十は店を上手く使い始めたのだ。
「慧羅お嬢様。ようこそおいでくださいました。」
「うん。時間もあるしまた来ちゃった。皇太いる?」
「はい。少々お待ちください」
わざと学園に出入りしている生徒に見せつけるのだ。別人のように見えるアタシを見れば誰もがこの『輝織 慧羅』が実在する人物とみるからだ。そのためにわざと自分の正体をあかして今では学校で一番の人気の男子だろう。アタシはその男と一緒に生活している訳で……。
「お待たせしました。お嬢様」
「うん」
「最近はここのシステムに慣れてきたご様子でなによりです」
「へへ、皇太のおかげかな?」
「ありがとうございます」
そこに竹華と泳が現れた。慧十は綺麗に一番上までボタンを閉めネクタイをし服装を整えたほうが似合う。だが、泳はどちらかと言うとラフなほうが似合うようだ。ネクタイを緩めボタンの一番上をあけ上着のボタンは全開だ。
「またか……何度注意すれば気が済むんだ。ボタンは閉めてネクタイもちゃんと整えろ」
「げっ…! 見つかった! ヤバ……」
泳は慧十に頭が上がらないのだ。アタシの目はそんなことよりも竹華の方に釘付けだ……。アタシはあまり露出は好まないのだが今夜の竹華はかなり大胆で派手に決めている。そこに竹華が近寄って来て悪戯にアタシに耳打ちした。
「フフフ。そろそろアタックしないと他の娘に持ってかれちゃうかもよ……。彼、最近はこの店のオーナーだってことが人気に拍車をかけてるみたいだし。アタシが聖の恋敵ならほっとかないよぉ。慧十君のこと」
「ばっ馬鹿! アタシはこれっぽっちもそんな気は……」
事実は気になる。だが告白のきっかけは無いし何故かモヤモヤしたものが遮ってアタシを止めているのだ。早くしなければいけないことはわかっているのに……。その夜は慧十の妹の雲英やアタシの姉の成果と妹の那流にもあった。そして今日は金曜日だ。直ぐに引き上げて家に帰り居間のソファに腰掛けてチョコレートを食べていた。
「ふぅ。なんであんなに露出してて平気なんだろうなぁ? 慧十はアタシが露出してると嬉しい?」
「俺は聖と要られればそれでいいさ」
「ふーん。で、今回は誰からのラブレター?」
「三年の先輩だよ」
慧十は少し肩を落としたがその時のアタシには何故か理解できなかった。アタシは最近流行りのドラマを見ては涙を流し慧十に同意をもとめている。その後事件が起きた。アタシが注意していれば起きなかった事件なのだが……。その事件は前回も同じような開きで起きている。
「慧十ぉ! この瓶に入ってるのってジュース?」
「見ない事にはわからんが……って言う間もないか」
「慧十も飲む?」
「頼む」
アタシは気付かなかった。この瓶に入っていたのがお酒でアルコール度は低いもののアタシはお酒に弱く前回起こした事件もお酒が絡んでいる。お酒入りのチョコレートを口にしてしまったが最後アタシの記憶はない……。
「はい。これね」
「ありがとう。お前は早く寝ろよ?最近体調悪そうだしな」
「いいじゃん、金曜日と土曜日ぐらいさ」
そう。飲んでしまったが最後、記憶はないはずだった。
「ヒック……。はぁ……。ねぇ、慧十ぉ! アタシってそんなに魅力ないの?」
「は? お前何を言って……。まさか!」
「もぉ! はっきりしてよぉ……。アタシのこと好きなの? それ以外なの?」
「まったく、酔っ払いにいう言葉はない!」
「にゃにおぉ! いつも何考えてるかわからないヤツのくせに! このムッツリスケベ!」
「…………」
ここまでの記憶は曖昧だがこの後から明確に覚えている。慧十は何故かお酒に強く酔っているところなど見たこともない。それなのに……。アタシは肩を押され記憶がはっきりしてくる。慧十の整った美形の顔は……どちらかというとテレビに出てくるアイドルに近いかもしれない。
「後悔しないよな?」
「へ? ……何が」
「もう口を開くな……」
前回はアタシの記憶がないから竹華に聞いたがこの前は慧十に迫って行ってキスをする直前に慧十によって眠らされたらしい。だけど今回は記憶がはっきり残ってしまった。慧十がアタシを押し倒して顔を近づけてくる。付き合っているのならこれは甘い夜という事で許されるのだろうが……。アタシ達はまだ……。
「ちょっと慧十!」
「ぷっ! やっぱりな。こんなんじゃダメだ……。笑いが止まんないや。それもう飲むなよ」
「ふぇ!? あ、うん」
完全に酔いが覚めた。慧十の灰色と白が混ざったような色の瞳が数センチの所まで近付いて来た。それだけでもう……。そちらによってしまいそうだった。別に香水やそういう芳香系の物を使っていないのにいい香りのする慧十……ここまで来ると流されてしまいそうだ。
「早く寝ろよ」
「うん、おやすみ」
慧十は店の売上の整理などをしている。パソコンではなく手書きだ。綺麗な字で綴られたその帳簿は少し黄ばんで汚れていたが綺麗な装飾がしてあった。何なんだろう……一応は聞かないことにしたが……気になる。あれはお父さんからもらったのだろうか。実は……あれをアタシも見たことがあるのだ。
………………………
次の日
………………………
頭は痛いし夕べのことで思考回路は正常に働かない、おまけに慧十の目が見れない。それのせいでかなり不安を与えていた。アタシは……どうしてしまったのだろうか。
「どうした? なんか変だぞ……」
「そう? 気のせいだよ! あははは……ははは」
「『バレバレなんですけど』」
今日はよりによって慧十が非番で一日中家にいる。昨日のことがきになり寝れなかったし生殺しにされた感覚がどうにも気に入らない。……かと言ってアタシに慧十ように度胸がある訳ではないから文句も言えないのだが。
「ねえ……」
「ん?」
「な、何でもない。泳君って今日は非番なの?」
「アイツは非番だから笹瀬さんとデートに行ってるよ。あの二人もよくやるよなぁ」
こんどは一転して何かを作っている慧十。新聞紙をアタシの邪魔にならない程度にひろげ木を削っている。彫刻刀やカッターなどを使ってリングのような物を削り出していき最終的に指輪になった。
「へぇ~……やっぱり器用だよねぇ」
「出来たらやるつもりで作ってたんだ。まぁ、あと細かい彫り付けとワックスと塗装があるけどな」
「ん……。ありがとう」
「どういたしまして。早く課題終らせろよ?」
「ひぐっ……」
慧十の性格は今でもよくわからない。厳しかったり優しかったり……ときに可愛いなど沢山の顔がある。そしてアタシは昨日の慧十の言葉が気になっていた。
『こんなんじゃダメだ……』
少し心が痛いがまだ何がダメなのかがわからない。それにその前の『後悔しないよな?』もかなり気になる。
「ねぇ、慧十はアタシの何がダメなの?」
「いきなりなんだよ……。俺がいつ聖がダメだって言った?」
「昨日の夜に……」
「あれか……。まぁ、確かに説明しないとわかりにくいか。あれは」
「どういうこと?」
慧十が細かい堀込をしながら答えてくれた。
「何がダメかと言えば空気的な物かな? あれだと俺が聖を襲ったかんじだろ? だから嫌だったのさ。俺は全てを聖の思うままにって決めたのさ」
「…………。よかったぁ」
「よくねぇよ。これから絶対にお前はアルコール禁止な」
「気をつけます」
アタシは決心した。告白まで行かなくても昨日の続きをすると。何故かと聞かれればアタシにもわからない。だけど、そうしたい。夜になるのを待ちアタシは作戦を実行に移した。
「慧十!」
「どうした? ……うわっ!」
慧十は見た目は細身だがかなり筋肉質でガッシリしている。まるで兵役に行っていたかのようだ。だが、けしてそういう訳ではないらしい。その慧十を押し倒すのは一苦労だ。そこでアタシは不意をついてソファに座ったところを狙った。
「おい、おい……。昨日とは逆か? 俺は別に後悔しないけど聖はどうしないよな?」
「昨日は生殺しにされて寝着けなかったの! そのぶんの責任とってよ」
「責任か。それくらいならいいだろう。だが、言っとくが俺は一切お前に手を出してないからな」
「うん。アタシが出した」
結局慧十の上に乗った状態から普通にキスをするだけでアタシは飛びあがった。恥ずかしいのと何か嬉しさのような気持ちがありその後は何を言われてもアタシは慧十とと顔を合わせて話すことができない。
「聖! 出てこいよ! 飯だぞ!」
「う~……。持って来て……部屋の前に置いておいて食べたらまた置いとくから」
恥ずかしくて死にそうなアタシだった。決意した時にはあまり感じなかった感情が次から次へと湧き出てきた。制御もつかないし整理も出来ない。
「にやぁぁぁぁぁぁ!」
「大丈夫かよ……。聖のやつ」
波乱を含んだ非日常的な休日を過ごしたアタシ達は学校では普通に過ごしていた。ただAクラスで新しく出来た親友と呼べる友達には何故か慧十と別れるようにすすめられた。彼女は慧十のことを知っているようだ。
「え~! 慧十ってあの緋皇 慧十のことだったの?」
「そうだけど。なんで?」
「アイツはダメ! アイツは絶っ対ダメ!」
「何でよぉ! アタシは慧十君と聖はかなりお似合いだと思うんだけど」
「ダメ! ダメ! ダメ! ダメ! ダメ! アイツの正体知ってるの? どこの出身かって聞いたら身震いするわよ! アイツは……」
「大林 美雪。大林組の一人娘でAクラス次席、口煩い批評家で俺の幼馴染みの一人にして現在二年の小森 息吹先輩に片思い中の一途な女の子、その先は言ってはいけないエリアなんだけどなぁ」
「アンタ後で首洗って待ってなよ? 西極流の極みを味合わせてあげるか……………って最後まで話を聞けい!」
「聖。今日はバイクの所にいてくれ理事長に呼ばれてるからな」
「なんかしたの?」
「いいや……。この猪突猛進を助けた時のお礼状が大林組から来たらしくてな」
「ふん! 助けなんかいらなかったのよ! あんな奴らに」
何やら盛んに毒を吐こうと試みている美雪に対して至って普通に返している慧十。アタシは土曜日の事件からまともに顔が見られない状態が続いている。因みに泳はAクラスにはあまりいないが今は竹華のお供で竹華の後ろにいる。そして、慧十の視線がアタシに戻って来て直ぐに手をふり自分の教室に帰って行った。
「聖! 気を付けろよ! アイツの正体を知ったらホントに度肝を抜かれるからな!」
「うん……。わかった」
このように慧十に口喧嘩で勝てる者はそう居ない。アタシも結局慧十に負けいつも負い目を見るからそんな命知らずなことはしない。だけど喧嘩ご紹介で接しなければ慧十は優しい奴だ。アタシの都合に合わせて動いてくれる。最近は買い物などにも付き合ってくれるしあんまり口に出して言えないことも頼めば条件付きでやってくれる。例えば宿題とか……。だけどわからないのは慧十の中でのアタシの位置だ。
「慧十? アタシってさ慧十の中だとどのくらいの位置に居るの?」
「急に変なこと聞くなよ。そうだな……。しいて言えば大切な人かな?」
「ん……」
慧十の言うことはたまにアタシを暴走させる。アタシは出会って数週間前のこの慧十という少年無しではもう生きて行けない気がする程に彼にのめり込んでいた。性格がこんなひねくれて正直に物を言えないアタシだけど実は……本当は……。
「慧十!」
「こら! それはダメだ。早い、アルコールは早い! 早すぎるから止めなさい!」
「問答無用! 気分がいいから飲むの!」
「やめてくれ! 後の処理がっ……。やりやがった……」
「慧十ぉ! 寝よ……」
記憶が曖昧になりその先の記憶はない。だがアタシは自分の部屋に寝ていて慧十は居間で疲れたように昨日アタシが開けたボトルを空にした状態で寝ていた。アタシがまたも暴走したのが原因で慧十を疲れさせてしまった。それなりに楽しかった気がするから結果オーライ! って感じで済ましたアタシでした。
………………………
次の日
………………………
慧十は何やら怒っていたが気にせず今日も登校した。最近、まぁここ2日ほどアタシは慧十にもらった指輪のペンダントを首から下げ人に見せるなどはしないが常時つけている。この学校は異文化尊重だか何だか知らないが過度に行き過ぎや非行がなければ指輪、ピアス、ペンダント、その他アクセサリーやペイントも数個のルールさえ守れば使ったり体にしておいても問題ないのだ。アタシもそれを利用し慧十からもらった指輪を首に提げている。
「慧十? どうした? 顔色悪いぞ……」
「聖? 昨日の記憶の最初の部分と最後の部分を繋げて考えてみな」
「ごめんなさい……。調子に乗りました。以後気をつけます」
首筋に慧十の中指が触れアタシは背筋を伸ばした。慧十必殺の嫌がらせだ……。アタシに対してはけっこう大胆なところまで進めるようにってきた。
「ちょっと! やめてよ!」
「お仕置きだよ。昨日は大変だったんだからな……。聖が酔っ払って、そのあと部屋に連れて行くの」
「うん。またアタシ何か恥ずかしいことしたの?」
「全力で阻止したよ。何をしようとしたかはNGワードだから言わないがな」
そのまま下駄箱に向かい今時、見ることは珍しい物をまた見る事になった。
「またか……。相変わらず凄いな」
「まぁ、嬉しくないけどな」
そういってアタシが下駄箱をあけると……。
「ふーん。人のことは言えないだろ……」
「ハハハ。ホントにあんまり嬉しくないな……。まさかアタシまで」
竹華の情報では“慧十とアタシが付き合っている”という噂が消え人気が急上昇したらしい。その他にもフリーだなどと背鰭と尾鰭、それに加え、学力のことも加わり更に腹鰭がついた感じだ。全く嬉しくないしむしろ迷惑になっている。
「おはよ! 聖と慧十君! 今日も早いねぇ」
「そっちの魚街夫婦もいつもどおりテンション高いね……」
「理由はやっぱり人目を避けるため?」
「あぁ、俺はともかく聖は騒がれると面倒だしな」
「いや、あんな紙の束が毎朝あるなら慧十とチヤホヤされたほうがいいかも」
「キャー! 聖さんが問題発言! 慧十君はどうなの?」
「聖に任せるよ。まぁ、俺も手紙でコソコソされるよりは面と向かってのほうが楽だしな」
「と、言っておられますが聖さん?」
竹華がここぞとばかりに声に抑揚を付けて実況をはじめた。アタシは正直に言えたらいいのに言えない。と心の中で何回も呟いていた。
「むぅ……」
露骨に顔に出たらしい。たまたま近くを通りかかっていた美雪まで来てしまった。彼女は身長は小柄だが女子にしては筋肉質でかなりパワーがある。拳法の達人で諸に攻撃を受ければ大柄な男子でも一発でノックアウトだろう。
「何をしとんじゃぁ! 緋皇 慧十ぉ!」
「いきなりハイキックは無いでしょ?」
美雪が放った蹴りは慧十の手で楽々止められ彼はすぐに足から手を離していた。
「くっ……。また、アンタは聖をたぶらかしてんの?」
「は? 別にたぶらかしてはないだろう。俺は聖に任せるし、それ以上のことは求めてないつもりだが?」
「にゃぁぁぁぁぁ! フワァァァ…………」
慧十がものを言う度に恥ずかしくて仕方がない。慧十はアタシを待っていてくれてるのにアタシは全然はっきりしていない。これまで慧十が来てから大変だったり恥ずかしいことは沢山あったけれど退屈だったり悲しかったりしたことは一度もなかった。なのにアタシはずっと慧十を待たせている。どうしたら……。
「美雪ちゃん。おいたはその辺にしといた方がいいよ。親友の清名さんは完全に困惑してるし、まわりも気にする。ここは俺に免じて落ち着いてくれないかな?」
今話題に入って来て美雪を止めたのは小森 息吹だ。二年のスポーツ選抜クラスでもトップクラスの生徒であだ名が“鉄人”文武両道を座右の銘にし二年の主席だ。ちなみに慧十は一年の主席。
「ありがとうございます。息吹さん」
「なに、礼を言われる程のことじゃない。俺はお前に剣道部に入って欲しいだけだからな。下心丸出しだから改まっていわれると困る」
そんなこんなでアタシの心中は穏やかではない。伝えたいのに伝えられないもどかしさで沈みきっている。授業も手に付かず食欲もあまり湧かない。ストレスばかりがかさなり日に日に疲れが目に見えてきた。そんな生活が続きついに6月も終わり7月初旬学期末テストが始まるころに更なる危機がアタシに訪れた。ライバルと言っていいのかは別にしてアタシに戦線を布告してきた人間がいたのだ。名前は夏海 扇華といい、院麗クラスのお嬢様だ。アタシはいったいどうすれば良いのだろうか。そして慧十はどちらに付く? アタシの生活はどうなってしまい運命はどうなって行くのだろうか。