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戦いは……

 二月の最終の三日間でそれは行われる。アタシ達女の子は運動能力抜群の雲英ちゃん以外は誰も出ることができない。慧十は真剣だがあまり乗り気ではなかった。そして、その日になる前にはかなりの会社の息子や志を同じくした経営者などが集っていた。その力で敵の会社自体には回復のしようがない程のダメージを与え憎き大坂を追い詰めている。


「なぁ、兄貴。……」

「緊張ならしてるぞ。後悔もな」

「後悔?」

「ああ、聖を巻き込んだことは今でもつっかえてるんだ」

「兄貴だって人だしな。それくらいあるさ。その点、雲姉は凄いねぇ」


 最初の彼の顔ではない。しかし、吹っ切れたように彼は召集場に弟の剣一と共に入っていった。一日目の一つ目のお題は題して『大人のスタンプラリー』だ。内容は普通のスタンプラリーとそこまで変化はない。問題はそれのどこに企業手腕に関する点が含まれているかだ。それは……。


「起業家たるもの自らの足と労力で新天地を見つけ己の力で内容を決めてなんぼ……そして、それを探すのも自らの手腕だ。よって、今からは誰の手助けもなく自らのみを信じ内容から最良の土地を探してポイントを稼ぐこと!!」


 説明を入れればこの街の外郭はまだ開発が整ってはおらずその関係から空き地や廃屋が多々残されている。最初に引いたお題からスタートし必要な項目を埋めて再びスタートに帰ってくる。これがゲームの内容だ。ただし、携帯電話やポケベル、パソコンの使用は原則的に禁止(アタシ達からの連絡は可)で彼らは人の伝聞やアナログの紙の地図や市役所経由で動くのだ。勿論チームを作り動くのも可だがポイントは人数分割られて計算されるのであまり効率的ではない。と……慧十から貰ったメモには書いてある。……意味分からない。彼はゲームの分析までしていたのだ……。


「俺のお題は……また、面倒な……工場か……しかも詳細明記してやっとポイントか……兄貴は」

「ほぉ……舐めたことを……」

「や、ヤバい。怒りモードの兄貴だ。近寄らないようにしよ」


 アタシ達はずっと控え室にしているテントか外に出て見ることしかできない。慧十は正直心配ないが正純君や剣一君の方が心配だ。一番の心配の種は乗りで参加しているに近い泳である。泳はアタシと同じくらい頭が悪い。そういえば雲英ちゃんもスタートラインにシルエットを見つけた。彼女は実力はあるはずだから同じ女性としては頑張ってほしい。


『さぁ!! スタートしました!! 最初から飛ばす二人は!? 緋皇財閥の慧十さんと大坂財閥の環さんだぁ! おっと、お題が違うらしく別れていったようだぞ! カメラ追跡!』


 カメラに映る慧十は不機嫌そうな顔で走る……。アタシは慧十の運動能力を知っているからわかるが彼は人間ではない。速い……。そして、彼が無性にイライラしていた理由がわかった。確かに職種やジャンルではあるが彼は真面目に……真剣にこの競技を始めたのだ。それなのに……。この企画はどう考えても彼の精神を逆なでするような企画になっている。ここに企画の責任者がいなくて助かったとアタシは心の中で呟いた。


『おぉっとぉ! 一位は緋皇財閥の緋皇 慧十さん! 期待の新星は格が違うのか!? だが、審査員の顔が曇ったぞぉ? どうしたぁ?』


 堂々の満点通過をし第一チェックポイントを通過した。次の第二のスタート地点に慧十が走っていく。その後ろからいきなり……紫色の長髪……雲英ちゃんだ。スケートボード!?……反則ではないらしい。バイクや原チャリ、車などの原動機付きはアウトらしいが……。そう言えば慧十も妙に速かった。何故だろう? 遠巻きにしか見られないのが悲しいけど今は仕方がない。


『三位は大坂財閥だぁ! ん? おぉ、東雲財閥の代表も来ている!』


 慧十は第二チェックポイントに到達し次のお題を引いた。彼もインラインスケートを使っていたのだ。よく見れば他の皆さんも同様に何かしら乗り物や機材を使っている。次々にスタート地点に帰って来るが内容不十分で突っ返される人達も少なくないらしい。その中で私たちの主戦力達は全員が第一をストレートで通過した。驚いたのは泳が一応一回で通過したのだ。


「スッゴいねぇ……聖の旦那様は」

「え?」

「『え?』じゃないよ。ホラホラ応援してあげなきゃ! あ、ひったくりを殴り飛ばした……相当気が立ってるね。あれは」

「仕方ないわよ……。彼の第一チェックポイントのお題は『メイド喫茶』だったんだから」

「成果姉……。それホント?」

「うん、審査基準はオールクリアなんだけど……審査員さんの話だと凄く憎悪の混じった表情だったらしいわ。確かに彼はこの勝負にかけてるし……イライラするのもわかるけど」

「慧十……」


 慧十は次々にお題をクリアしていく。一位で第三チェックポイントを余裕で通過し後は後続を待つのみだった。大坂 環は気づいていない。徐々にアタシの術中に経済的は意味ではまり自分から破滅へ向かって居ることに……既に彼の中枢は崩れたも同然だった。アタシの攻撃はそこまで浸食を続けていたのだ。レースに視点を戻す。すると、二位は流石は兄弟だった。剣一君がギリギリで二位を獲得し、ほぼ同率で三位が雲英ちゃん。四位が……なんと同率で正純君と泳だ。これは驚いたけど……。総合順位の中でもアタシ達の側についた味方はほぼ予選を通過し初戦の本当のステージに突入する。自分で決めたパートナーと手錠で繋がれ迷宮でサバイバルを行うのだ。これには私も驚いたが迷宮とはある富豪の敷地内にある庭園と屋敷……。屋敷に早く生き残った状態で入った組みが次の審査への出場権を得るのだ。


「け、慧十……」

「どうした?」

「あ、あの……足引っ張ったらごめん」

「バーカ! 言っただろう? 俺はお前を守る」


 ここで仕掛けて来たのが大坂 環だ。ヤツは本人の武装だけをかなり本格化させて……実銃を手に参加をした。それでも……慧十は強かった……。アタシを『守る』その言葉は正しかったのだ。


「しかし、相手の玉が触れたらアラームが上がる接触式のセンサーか」

「お金かかっ……」

「聖! 伏せろ!」


 いきなりヤツの襲撃ではない。フリーの参加者が混ざっているし大坂の手によって動いている奴らもいる。それに攻撃を受けたのだ。慧十は拳銃以外にもそれようのグローブをつけている。それにルールではそれぞれに打撃系の自由武装が一つだけ許されていた。アタシは慧十の勧めで盾だけつど……竹華はヌンチャク……魚街はトンファー。剣一君は模造刀……那琉はアタシと同じ盾。他にも知り合いも皆本気で屋敷を目指していた。


「聖……盾を前に構えていてくれよ」

「あ、うん!!」


 慧十は……恐ろしい勢いで詰め寄り腕に防具付の特殊な鋼拳を振るい三人を軽々としとめてしまった。その地点から始まりアタシ達だけでも九組みを倒したからかなり減った気がする。そんな時だ。やつの襲撃は……。アタシが安心したところを付け狙ったらしい。それも慧十に助けられた。大坂は初めて持つ訳ではないらしいがまだ慣れきった手つきでなく慧十にやられたのだ。慧十が過去に何をしていたのかは知らないが0距離に詰め寄り相手の頬骨の下側から潜り込ませた拳を斜め左上に抜きアッパーのように大坂を吹き飛ばした。アタシは呆然とみているとパートナー……扇華が現れアタシに向かってマシンガンを向け玉の雨を降らせた。銃器は……反則のはずだ。倫理的に! これも彼が防弾加工された盾をとっさに掴んで難をしのいだ。悔しそうな顔をするが……次の瞬間に猛然と彼女を攻め立てる人間が現れた。あの子のあんな顔は見たことがない。妹の那流が扇華に噛みついた後に剣一君がマシンガンを蹴り上げて慧十がつかむ。それを水の中に……正しくは氷の張った水の中に落とした。それからアタシと慧十は走り続ける。そう言えば慧十は何やら不安げな顔をしていた。


「慧十?」

「どうした?」

「う、うん。さっきから難しい顔ばっかりしてるからさ」

「いや、嫌な予感がしてる……それだけだよ。聖は気にしないでくれ」


 そう、珠樹さんにも探れないことはある。親子二人で造られたらしいこの計画にはさすがに手出しはできなかったようなのだ。アタシと慧十はその術中にはまった形になる。しかし、私達もこんな所では……負けられない。屋敷に入る。やはり一番乗りらしい……。そして、……。


「待ってたで。緋皇」

「やはり、替え玉のそっくりさんか。あんなんじゃ無いはずだ」

「ま、もう、関係ないさ。見事にはまってくれて嬉しいよ。両手をあげな」

「くっ……」


 扇華はれっきとした本物のようだがアイツは違ったらしい。どうやらアタシ達は引き込まれたのだ。アタシと慧十は前方にいたらしい二人を追ってこちらに来た。扇華本人はおそらくダミーをより精巧に見せるための囮だ。……それに、慧十でもここまでイレギュラーが重なれば簡単に覆せはしない。アタシ達は素直に突きつけられた銃に圧されるように壁際に追いやられた。そして、……。


「この! 成り上がりの……糞が! お前みたいなのがいるから勘違いやろうが増えるんや!!」

「ぐ……、勘違いか……どっちがどうだかな」


 アタシに向けて拳が飛んで来たが慧十の手がアタシを守る。そして、大坂はなおも執拗に慧十をいたぶり続け口の中はおそらく切れていたのだろう。慧十が血を吐いた。……絶体絶命……、そう、絶体絶命。動けない慧十を嘲笑いながら大坂はアタシに話し掛けてくる。やはり、耳障りで嫌な声だ。


「最後のチャンスや。清名 聖……いま、ここで選び、このどアホと心中するか……俺と生きるか……」

「……わかったわよ。それで、慧十が助かるの?」

「ええやろぉ、それなら……な」


 こういう奴はこの後に慧十を撃つだろう。そして、アタシもその後に何か嫌な仕打ちを受ける。なら、いっそのこと……こんな奴の手にかかるのは嫌だけど……慧十と死んでやる!!


「環様!」


 そこに珠樹さんが現れた。どうにかしてアタシが暴走するのを押さえようとしたらしい。しかし、……。


「いいわ、この際だからはっきりさせる。アタシが……あんたみたいな下種野郎に服従すると思うなよぉぉ!」


 アタシが叫ぶと一瞬だけ怯んだ大坂……。しかし、段々と笑いに変わる。アタシの顎を抑えて壁に押し付け……額に拳銃が…………慧十が脚を抑えるが……。


「往生せいや!」

「ぐあ!」


 その瞬間、驚くべきことが起きた。大坂の拳銃が弾け飛んでいく。発射される前に何かが奴の拳銃を吹き飛ばしたのだ。環さんが胸元を裂いて隠していた一発打てる小型の拳銃を手に握り弾を放ったらしい。大坂が手を抑え……憎々しげに彼女を見ている。そして、奥の部屋に入るとヘリコプターのプロペラの音がした。逃げたのだ。珠樹さんはすぐにアタシを立たせ慧十を背負い……屋敷をでる。


「何とか……間に……あい……ましたね」

「ま、まさか時間で放火される仕掛けだったなんて……」

「動いてはいけません! 酷いけが何ですから。奥様、泳さんか剣一さんに連絡を」

「え? 今……」

「もう、私の使える人はお二人です。これから、末永くよろしくお願いします」


 慧十の怪我と大坂財閥の銃器使用のせいで大会自体は無効となり慧十の有志と珠樹さんの献身的な態度は一躍この地域では有名になっている。そして、慧十の起こした経済界を一新する大乱は大成功し……これまで不正をしていた財閥系の企業はほとんどが検挙されその中でも大御所と言える大坂や他の数社は厳罰が下された。


「お帰り、聖」

「只今、竹華」


 私は……慧十のお陰で普通科クラスに再び返り咲き、楽しい生活をしている。彼は……。


『聖がいいならそれでいいさ。俺はこの先にお前を幸せにしなくちゃいけない。俺は院麗クラスに残るよ、どうしてもって言うなら俺も普通科に戻るけど』

『慧十が決めたなら私は……何も言わない。さびしいけどね。私には竹華や美雪もいるもん。家に帰れば慧十と二人……あ、珠樹さんもいたか……』


 そんなこんなでアタシと慧十はまた少しの間離れ離れだ。でも、嬉しさはその分だけ増えたりする。珠樹さんは実は昼間の掃除や洗濯が終わると楽しいらしくNIGHT-KNIGHTに向かい慧十とアタシの世話をしてくれる。もちろん、チーフは松さんで彼女はサブチーフの感覚だろう。最近は慧十も本社の経営の方で手いっぱいになっているらしくここは実質的には松さんの店のようになっている。その松さんも来月、この店を珠樹さんに任せ私の家に養子として入り清名財閥に婿入りすることになっていた。この一年で目まぐるしい変化があった……アタシは……。


「奥様……」

「珠樹さん……その『奥様』っていうのは家でだけにできない?」

「いけませんか?」

「俺は構わないぞ。旦那様でも奥様でも呼んでくれるのはな」

「えー……。アタシはまだ嫌だよ。結婚してからがいいもん」

「そうか? まぁ、そうだな。なら、結婚の話も出たし。少し早いが」


 そこに竹華や魚町、剣一君と那流など、皆が集まってしまって……アタシとしてはやはり……少し恥ずかしい。慧十の指輪をアタシは既に返している。その代りに今日この場で細めで金製の指輪をケースと共に手渡されたのだ。その瞬間に姉と那流がアタシに抱きつき泳など……やっとかぁ……などとつぶやいている。剣一君は悪ふざけなのか真面目なのか……。


「これからよろしく頼むよ。姉さん」

「剣一君……」

「お姉ちゃんも遂にけっこんかぁ。……あれ? お姉ちゃんは結婚出来てもお兄ちゃんはまだ無理じゃない? だって、女の子は16歳でもいけど……男の子は18歳でしょ?」


 そう、アタシたちは法律の壁に悩まされていた。別にそこまで深刻に悩んでいる訳でもないがこうも長く同棲しているにも関わらずアタシたちはまだその先に段階を進めてはいない。付き合っているだけで……それ以降には踏み入れていない。いや、同棲してるから既にその域に入ってるかも。


「あぁ、そのことか。とりあえず、まずは……気休めかもしれないが、婚前のセレモニーみたいなことをしたいんだよ」

「あ、それ名案じゃん! 慧十君さすがだね……。抜かりないというか」

「そうか、それなら、いいか。聖は」

「え、あ、うん。……とっても恥ずかしいけど……」

「解った。今週末に手配しておくよ」


 そう、その式……アタシはあれから進展しない自分が少し悔しかった。何においても先にいかれてしまっている慧十と自分の立ち位置や精紳というか考えというか……。それに、アタシを包んでくれるのは嬉しいけれど慧十はアタシに柔軟過ぎて……どうしようもないぐらい優しくて……。少しはアタシを頼ってくれてもいいじゃない……。


「珠樹さん……慧十に勝つ方法ってないんですか?」

「え? あぁ、解りますよ。旦那様は奥様に対して全身全霊の愛をそそいでいますから。少しさびしいのですね。女としてはお相手の殿方に頼ってほしいと思うこともあるのも解ります。あのイベント以来、旦那様の奥様への抱擁的な動きは周りの群を抜いていますから」

「え、あ、そうなんだけど……なんというか……。慧十を困らせちゃうのは少し気が引けるのだからできればアタシも正攻法で慧十を助けていきたいの」

「……、これはこれは仲睦まじい事ですね。ですが、それならばもう十分ではありませんか?」


 アタシには少し解らない。あと四日後に慧十とアタシの式が執り行われる。まぁ、結婚式はちゃんとその年齢でするし、まだ、高校に在学してるからアタシも慧十も……それがゴールでありスタートでもある本当の『結婚式』だとは考えていない。周りはいろいろとからまわりしてるメンバーも多い。だけど……、あぁ、アタシは何を考えてるんだろう。最近……解らない。慧十のことはたまらなく好きだしこれからの未来に希望が持てることもアタシは既に肌で感じている。アタシは初期のアタシが感じた……『釣り合わない』を今頃本当の意味で深く心で感じているのだ。その時は恋愛小説の一ページでありアタシは慧十とここまでなるとは考えていなかった。でも、……。


「そうですねぇ、まずは旦那様に少しでも喜んでいただいてはどうでしょうか?」

「どういう意味?」

「はい、最近の奥様のお料理の腕は目に見張るものがございます。この勢いなら、旦那様が帰宅するときや御夜食などに温かい手製のお料理を御出しできるのでは? 旦那様は奥様と一緒に過ごされることに幸せを感じているようですし」


 そうかもしれない。考え過ぎだろう。うん、やっぱり考えすぎのアタシはアタシじゃない。その日は深く寝付くことができ慧十のバイクに乗せてもらい学校に入る。先輩の方々が最近は挨拶をすると返してくれる。院麗クラスで暴挙というか勝手で横暴な事をしていた上院や中院ランクの生徒が父親の失脚で多く退学に追い込まれたからだ。この学校も膿を出したと言えよう。そして、教室にアタシが入ると一足早い祝いの席が用意されていた。担任がまだ若い先生と言うこともあり彼女の監視というか参加の許でアタシと慧十を祝ってくれたのだ。


「でも、よかったぁ……、事故のこととかこの前の事件とかあったからどうなるかとひやひやしたけど、落ち着いてくれて嬉しいなぁ」

「竹華はどうするの? 泳君とは……」

「それは抜かりないもん。泳のご両親は『こんな不肖の息子にも好いてくれるお嬢さんが居たなんて。どうぞどうぞ、養子にでも……あ、お嬢さんが嫁入りでも二人の幸せを考えてください』だって」

「うわぁ、泳君酷い言われようだね」

「仕方ねぇよ。俺、水泳しか頭になかったし」

「そういえば慧十君はどうしたの?」

「え? 居ないの?」

「あ、慧十は理事長に用があるんだって。生徒会のことらしい」

「そうだねぇ、慧十君……このまま三年間全期の会長しちゃうのかなぁ」


 そこに示し合わせたように慧十が入ってきた。少し表情が明るい……何があったのだろうか……アタシには解らない。でも、慧十が入ると皆が……特に男子が彼をつつきまわしながら祝いの言葉を告げている。彼もそういう空気が肌に好ましいらしく少し歪んだ笑顔になっているが泳に小突かれながら周りのメンバーに答えている。


「へぇ、業績あがってるんだなぁ」

「あぁ、聖の服を題材にしてそろそろファッション関連の部署の開設をしようとしてる。その時はよろしく頼むよ。聖」

「え?」

「夢……なんだろ?」

「う、うん……ありがと」


 慧十は覚えていてくれた。少しの間、封印していたアタシの夢……。慧十の横に居るために少しの間だけ封印していた服飾デザイナーの夢を彼は忘れずにその温めた会社の図案に乗せていてくれたのだ。


「いいの? アタシが仕事しちゃうと。子供の世話とか……できないし。あ! ……、う~~~~……」


 自分で言って赤くなるようではダメダメだ。慧十は少し驚いている。アタシの口からそんな言葉が出ようとは思いもよらなかったというところだろう。額にキスをされ顔をさらに赤くしているのが自分でも解る程にアタシは赤くなっているのだろう。


「聖のしたいようにすればいいよ」


 その時、先生が咳払いをした。周りは顔を赤くしたりはやし立てるように口笛を吹くものや呆れているが笑ってくれている者、反応は人それぞれだが……皆、温かに対応してくれる。穏やかに朝の時間を過ごし、慧十は院麗クラスに帰って行った。昼休みにもなるのに皆はやはりアタシの話題で持ち切り……。


「でも……、私は少し興味わくなぁ。慧十君と聖ちゃんの娘か息子。どんな子になるんだろうね?」

「頭がいいのは確実じゃない? だって聖ちゃんはSクラス並の学力あるし」

「ま、それも旦那様仕込みなんだけどねぇ? 聖ぃ?」

「こ、こら! 竹華!」

「でも、慧十君も幸せ者じゃない? こんなに気建てもいいし可愛いし、胸もあるし頭いいし……オール5の優良物件の女の子をメロメロにして……子供の事まで考えてるんだもん」


 自分では解らないけれど慧十はそういうことは口にしない。慧十の初恋はアタシでアタシも慧十が初恋だった。それから幾年もの年月が経過して不思議な出会いをした。いや、再会だった……。女の子の友達はアタシの外面や人に見せるそぶりを評価の対象にしているが……それは違う。それは……あの時の約束から始まっている。……あ! 竹華! 暴露しないで!


「へぇ……、慧十君も一途なんだねぇ」

「私、その話を初めて慧十君と聖から聞いた時、涙ボロボロ流したもん。何年越し? えーと、五歳からだkらだいたい十年くらいかな?」

「確かに、いいなぁ。私にも幼馴染でカッコいい男の子……いたらなぁ」


 うん、アタシは恵まれている。本当に。慧十という信頼できるパートナーが居るのだから。たまに策士で何を考えているか解らないところもあるけれど。彼はアタシにとってとっても大切な人。そう、アタシは恵まれているのだ。そして、迎えた週末。アタシには……とっても大きなサプライズプレゼントが待っていた。

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