動き出すレジスタンス!
家族と友人だけでクリスマスを迎えたアタシ達。聖なる夜はやっぱり慧十と二人きり。この時間だけは誰にも渡さない。雪もちらつき幻想的な夜になった。慧十からのクリスマスプレゼントは慧十特製のクリスマスケーキだった。アタシが好きなチョコレートを使った食べきりサイズのものでいつもより気を使ったように几帳面に綺麗に仕上がっていた。アタシからのプレゼントは新しいnight-knightの制服をあげた。胸のところにnight-knightのマークを入れシンプルで動きやすく機能性に富んだ自信作だ。クリスマスが過ぎた今日、大晦日の夜にアタシと慧十は近くの神社にいた。あと三分程で新年を迎える。
「ねぇ、慧十。冬休み最初のこと覚えてる?」
「沢山ありすぎでわかんないな」
「もぅ、アタシねまだ完全に決めれた訳じゃないけど慧十と一緒に戦うことにしたの」
「聖に危険がなければ俺は敷いてくれたレールの上を行くよ。それに助けに行く」
「ありがと。来月、慧十が勝てば相手の中枢は崩れる。まだ図って作戦をすべて使った訳じゃないけどね。アタシはアタシの未来を慧十に託すのだから絶対勝ってね」
周りから元日へのカウントダウンが始まった。気づくと小柄な竹華が魚街に抱きつきながら右手は上に突き上げてるのが見える。その後ろには慧十の妹の雲英ちゃんと婚約者の正純君。笑いながら腕を組みいつも物静かな二人なのだが柄にもなく飛び上がっている。アタシの妹の那流と慧十の弟の剣一君は遠目の場所で手をつなぎながらこちらを見ていた。最後に姉の成果とその旦那さんの松さんははしゃいでいる面々を見ながらやれやれと眺めながら微笑みを浮かべて周りのテンションに合わせている。
「3!!」
竹華と魚街が叫ぶ。
「2!!」
続いて雲英ちゃんと正純君。
「1!!」
ここぞとばかりに那流が叫ぶ剣一君がそれにビックリしているのがはっきりみえた。
「A HAPPY NEW YEAR!!!!」
慧十の綺麗な発音の後にアタシと姉が声を揃え。日本語訳で叫び松さんがさらに呆れていたが顔は笑い楽しそうだ。
「あけましておめでとう!!」
すぐに初詣を皆で済ませ長い石段を降りて行く。アタシの首にはダイヤの指輪一緒にそれと同じデザインのエメラルドの指輪が揺れている。慧十がアタシにくれたものだ。エメラルドは預けてくれている。
「はぁ、やっと自由って感じかな?」
「確かに、俺たちは慧十にはめられて冬休みの半分を無駄にしたからな」
「赤紙ギリギリの連中がよく言うぜ」
「そうなの?」
「痛いとこ突くわね……」
「言葉も出ないな」
「なら文句言うな」
クリスマスが明けたある日に私は大坂 環に会いに行きやつの度肝を抜いてきた。ひとりで邸宅の環の部屋まで乗り込みすぐに帰って来た。
「失礼します」
「お! ついに来よったか! 入りや」
「環さん。お久しぶりです。今日はお伝えしたいことがありまして……」
「勿体ぶらんでええ……『これであのキザな男の泣き顔が……』」
「では、私は緋皇財閥の側につきます」
「なに?」
「アナタの悪行、スキャンダルネタなんかを消すためにこの会社かなり無理してますよね?」
「貴様! わいをおちょくっとるのか!」
「あなたに言われたくないですね。人の周りを引っ掻き回してなおも迷惑をかける……。そんな人物には誰も付きませんよ」
扉の裏側に慧十が待っていてアタシを迎えてくれた。そして、アタシの作戦の第一段階が発動されたのだ。
「竹華……ありがとう」
「ん?」
「海外の両親にまで……」
「いいの、いいの! どうせ小さな会社だし私にも協力させてよ。だけど……彼の手腕は恐ろしいわね」
慧十がアタシの作戦の要だ。この一週間に大小三十社以上がこちらの傘下に動いた。正純君の動きや雲英ちゃんの加勢で更に力をつけた。
「あのさ……こんなことしてていいの? 慧十……」
「何が? 相手を挑発したのはいいけどさ。これで戦線布告はしちゃった訳だしもっとこう……緊張感を」
「聖……。俺は負けないし今回の勝負は社長の手腕を求めるだけのさしにするのが目的なんだぞ? ここで焦ったところで動かないさ」
経済界でこの動かない戦争をただ触る程度にみている大企業や重鎮もいる。アタシの読みが当たれば大坂の動きは八方塞がりになる。そして……慧十の敵を……。
「雪か……」
「ん……。慧十、今……いやらしいこと……」
「何でそうなる!? 関係なくないか?」
「じゃぁ何でアタシを見たのよ。“雪か……”って言ったよね? 今!」
「悪い……何で“外に行こうか”と続けようとした奴に“いやらしいこと”なんだよ」
「うん……。そだね。ごめん」
「なんか今日はやけに素直だな」
「いつも素直ですぅ!!」
『え~~!?』といいたげな顔をしたが二人で笑い出した。今日は慧十から許しが出て三が日休みをもらった。アタシは赤紙をもらっていないためあまり関係ないが……。竹華と魚街は結構ギリギリらしくかなり驚いた。
「覚えてるか? ここの交差点」
「にゅぅぅ……」
「やっぱり覚えてるんだ」
「意地悪いよぉ」
「でもさ、この一年はこっから始まったんだぜ?」
「確かに……不思議な出会い。いや、再会だったね」
「まぁ、引きかけた俺からすればかなり罪悪感だったが……」
「その割にはへらへらしてなかった?」
「だって可愛い子だったからさ。結果的に聖だったから俺としては万々歳だったけどな」
そう、今を思えばアタシと慧十が再会してからだいたい一年の四分の三が過ぎた。1月……師走を思わせない緩やかな時間の流れに流されるままアタシ達の空間や時間は広がる。今はバイクの後ろに乗りNIGHT-KNIGHTに向かう。始まりの場所へ。
「いらっしゃいませ!!」
「みんなしっかりやってるか?」
「オーナー!」
「みんな列べ列べ!」
「楽にしてくれよ。みんな」
「慧十君。お帰りなさい」
「松さん」
竹華の兄の松さんはあたしの兄でもある。姉の成果の旦那さんで優しくおっとりしているがなかなかのイケメン。慧十と並ぶとかなり大きな人だ。
「ようこそ!! NIGHT-KNIGHTへ。お客様方をビップルームへお送りしなさい」
「お帰りなさい。オーナー!」
「お帰りなさい。オーナー!」
「……」
慧十に頭を下げる一同を見ながら松さんに視線を移すとウインクしながら前に進むように導かれた。いつもポーカーフェイスの慧十も今日は少し表情が明るめになり目の光が含まれアタシが握っていた手が少し強く握られた。
「慧十?」
「さぁて! 今週の週末は忙しくなるぞ! あの家を引き払って……もっと大きな家に住み替えだからな」
「へ!?」
「いきなり悪いな。俺も躊躇ったんだが爺さんの勧めで断りきれなくて」
「う、うん」
ビップルームに入ると待っていたのは見知った面々だった。アタシの家族を始め慧十の家族、協力者の家族が集まり戦前の志気を上げるために集まっているのだ。
「聖……ちょっとごめん」
「あ……、まっ……て」
アタシの父親に話をしているが何を話しているかはわからない。そして、アタシもまだ知らなかったが思わぬ人が次期清名財閥を継ぐことが決まった。アタシや姉の成果や那琉などは声も出なかったが周りに集まっていた同年代と見える少年達が集まり次から次へと羊皮紙に万年筆でサインをしている。
「皆さん! これより我々は大坂財閥や他のが利権を振るい取り仕切る社会を変えるために動く同盟を結成しました」
慧十の声とともに皆静まり返りそちらを見た。その後にグラスを高らかに上げ乾杯の声明は剣一君がしそこからは親睦会に近い形になった。アタシの横に慧十が来てアタシの父親に頭を下げてすぐに上げた。
「僕に……娘さんを。聖をください」
「慧十!?」
「ははは! ついにとられたか。君は信用に足る男だ。君なら幸せにできるだろう」
「もぉ! お父さんったら強がりを!」
「ホントは後継ぎいなくなるの寂しいんでしょう?」
那琉と成果姉が茶化しに入るが真剣な顔で慧十が呟いた。
「その件に関しては大丈夫ですよ」
「へ?」
「兄貴……また誰にも知らせずに!」
「松さんがそちらに養子に入ることで同意してくれました」
「まさか……」
タキシードに身を包んだ大柄な男性が父親に頭を下げ慧十からの動きを伝えた。確かに成果姉は駆け落ち同然に結婚していて父もその時はそうとう怒っていたが今はそうでもないらしい。
「成果が認めたなら本物だろう! これからよろしく頼むよ」
「で、お父さん……なんかお姉ちゃん達ののりに流されて言うけど」
「剣一君はまだまだ未知数の実力を持っている。お前は見極めなさい」
「それっていいのか悪いのかわかんないじゃん!」
「いいのよ、那琉」
成果姉が口をはさみ周りを見回した。アタシもつられて見てみたが何か格別変わっている訳ではないいつも通りの皆がいるだけ。
「慧十君……。君にかかってるんだからね」
「解ってます」
「兄貴……頼んだ」
「何言ってんのよ! 剣一! あんたはお兄ちゃんの最高の信用を持ってるのよ? いざとなればアンタも協力するの」
「そのいきだな。もう私から君たちにいうことはない」
慧十の腕をつかむとこちらに向かってやさしい目つきで視線を送り返してくる。するとまわりの仲間になるであろう人たちが集まってくる。アタシの方も興味深そうに見られた。そして、アタシの作戦が敵になる大坂 環に対し効果を上げ始めた。
「どういうことや! お宅んとこの会社は……ちょっ! こら! まちいや!」
「どうされました? 環様?」
「珠樹お前は知る必要はない」
「かしこまりました」
ここにスパイを送り込んでいたのだ。アタシの先輩で最近友人になりこちら側に歩み寄って来た人だ。この人のことはアタシも完全に信用している訳ではないがいまのところは二重にスパイされている心配はなかった。
「何故や……。何故……。 ! 清名 聖! あの女か……」
冬休み最後の日に二人で家に居た。勉強はもはや気にならない。竹華や魚町と一緒に慧十の鬼のような学習計画を受けていたからだ。ソファにかけてノートパソコンをいじっている慧十の横に並び何をしているか見ていた。英語の長文がかなり長く連続で打たれていて気持ち悪くなりそうだったがメガネをはずしてこちらに向き直った慧十がそれを閉じ一応は解消された。
「うげ……」
「大丈夫か? 聖」
「うん、それよりさ。明日から普通科クラスにはいられないんだよ?」
「大丈夫。俺と聖の教室は隣だからいつでも会える」
「そうなの?」
憎き大坂 環のせいでアタシと慧十は普通科クラスには明日からいられない。だが、慧十とは一緒に居られるらしい。院麗クラスの上院は一人に一つの部屋が支給され家を継ぐための学習や経験を積む。
「でも……竹華や美雪と会えないのはちょっとさびしいかも」
「それは仕方がないことだ。だが、あと一カ月だ。一か月でそれも変わる」
「…………?」
掛け布団をかぶり明日のことについて考えていた。あまりいい予感はしないがいざとなれば経済界屈指の天才がアタシを守ってくれる。彼は壁を挟んで隣に寝ている。そのまま目を閉じ眠りについた。
「ふぇ……。広い。落ち着かないかも」
「まぁ、もともと爺さんの土地だしな。あの人がここまで寛大に土地を譲るとはな。しかも……雲英や剣一にまでな」
「さ、いくぞ」
「うん」
上院の征服はレースや絹が使われているが私はあまり好きではない。慧十も着心地が悪いらしく同じで少しご機嫌斜めだ。それでも慧十はアタシに優しくしてくれる。授業は午前中で終わり慧十と合流し作戦の第二段階に移行をするため引っ越した家に向かった。
「聖……。これはすればお前にも本当に被害が出るかも知れない」
「うん。大丈夫だよ」
「……」
「アタシもそんなにアホじゃないのよ?」
第二作戦はかなり危険な部分も多いが正攻法としてはかなり有効な作戦だ。アタシの考えた作戦はこう……。まずは敵の外郭を落とし利益を吸収する。それをじわじわと続け向こうが音をあげるのを待つのだ。それがなくても既に大坂財閥は窮地に立っている。
「環! これはなんだ!」
「済まん親父」
「ここまでやられて何もできんとは……。何故対処をしないのだ!」
「図られたんだ! 清名財閥に!」
「秀造か……」
「いや……娘のほうだ」
「何?」
「社員が次々に辞表を提出し他社に流れてる。その後は運送、薬品、成果なんかが他の会社に次々に吸収された」
「仕方ないな。ここまで追い詰められたなら奴らを始末するしかないか」
本性を出してきた。その頃の敵の心中では珠樹が内部の極秘資料を探っていた。母親がこの家につかえていてその関係から彼女は自由にとまではいかないが簡単に機密などに触れることができる。
『TO KIYONA
極秘資料のデータを抽出。そちらに転送するのでお願いします。
FROM TAMAKI』
メールでの交換はリスクを伴うが敵はそこまで注意が向いていない。それに今は流通の情報などを流しこそすれどそれを利用してはおらず珠樹さんがスパイをしていることは知られていないのだ。
「来たよ。慧十」
「おう……。暗号解析っと…………これだ。時をみてこいつを警察に送ってやる」
「見つかったの?」
「あぁ、あれは本当にあったんだ。親父とお袋を機内で殺させ……そいつも始末した。なんでこいつが残ってるか知らないが……そうか! 爺さんか」
アタシには解らないが慧十の真剣な顔から解って来た。アイツの親子の悪だくみが……。そこで、慧十の提案した作戦が動くことになった。動く人員は六人だ。このメンバーがそろえば敵はいない。その夜行動に出た。慧十が過去に引かれた地点に雲英ちゃんが配置されその近いエリアんはさらなる増援が複数きている。最後に剣一君と那流がおとりをしあらかじめ正純君が呼んでおいてくれた警察が動くのだ。
「聖……今日はいつもみたいな安全運転はできない。だから……」
「しっかりしがみつくのね?」
「解ってるならよし」
バイクで外に出るとバイク二台に黒い車が一台……そのほかにもいるらしいが暗くて見えない。
「さぁ! 楽しいチェイスの始まりだ!」
上手いが速い。前が見えないほどスピードを出している。その後ろには必死についてくる車がいたが途中で道を変え曲がって行った。
「チッ……挟み打ちでもする気だな。聖。絶対腰を浮かせるなよ?」
「へ?」
「いくぞ!」
前輪が浮きあがり後輪も続いて浮きあがる。直線の道路で助かった。黒い乗用車をタイヤをかすめたが飛び越し増援が追い付いた。
「アンタが銀鬼の兄貴か?」
「あぁ、雲英の兄だ。手筈通りたのむ」
「了解したよ」
十代ほどの二人乗り大型バイクが後ろからきたバイク二台を足止めした。その後ろに居たのはワゴン車が二台だ。その後ろからパトカーが現れた。その頃の剣一君と那流は……。
「アンタ大丈夫なの?」
「大丈夫だ! ほら見えた!」
雲英ちゃんが引き連れているのは警察のバイクだ。位置関係からいえば前方には雲英ちゃんの怖い友達数十名が抑え真ん中に黒いワゴン車がいる。その後ろから白バイが現れ退路を断たれたのだ。
「君が緋皇くかな?」
「はい」
「捜査協力ありがとう。これは極秘で当事者にしか言えないことないことなんだが……容疑者親子はその時期から海外へ三年間わたっていてね。まだ時効は成立していないのさ」
「本当ですか?」
「君が提供してくれた証拠とこいつらを逮捕したおかげで証拠はつかんだが……奴は警視総監の弱みを握ってる。奴の金銭的な権威を地に落とさないと奴はまだ捕まえられない。私も長年奴を追ってきたからな悔しくて仕方がなかったんだ」
警察官と何かを話していた慧十をよそに私たちは次の作戦に着手した。剣一君と正純君が動き大坂財閥に協力している会社をつぶしにかかったのだ。
「くそ! ここまでされて……」
「親父……。まだ手があるで、俺がこの後にあるイベントでアイツを事故に見せかけて殺せば」
「ふむ……。だがな、それはリスクが高すぎるぞ」
「もう四の五の言える状態じゃないんや! もう、俺しか動ける奴もおらん!」
切羽詰まった敵の山は経済相が企画運営し開催する財界の若い社長やその子息の日本一を決めるというふざけた内容のイベントだ。これは経済界の大御所にして今生きている財閥系の社長が干渉し無理やり開かせた大坂財閥の死刑台であり。海外からも大勢のゲストが訪れる。優勝者には多額の報奨金がでるうえ海外からの取り引きなどにも幅を利かせるだけの知名度が手に入る。ここで力を付けて一発逆転を狙いたいのだろうが無駄なことだ。これをしている間に次々に仲間は消えアタシの減流操作で社員や土地を削られていくのだから。
「内容は運動能力、既知、洞察力などらしい。お題までは解らないが出るのは俺、剣一、正純、泳だ」
「なんで泳君も?」
「笹瀬家の推薦で……だ」
「理解しました。他には?」
「協力してくれている連中はみんな出場する」
「誰か一人が勝てばいいと……」
「剣一! 正しいことだが言い方を直せ」
「解ってるよ。一番勝ってほしいし勝てるのは兄貴だろうしな」
そこにメモリースティックを持った竹華が現れパソコンに挿入した。彼女のハ〇カー自慢が火を噴いたのだ。
「どんなもんよ! これぐらいチョチョイのチョイってね!」
「足はついてないよね?」
「抜かりはないわ! ほら! 二人とも確認して!」
「全く……いい大人が小学生のお遊戯会みたいなこと考えやがって」
「一日目……迷宮のスタンプラリー、二日目……大人の障害物走、三日目……ロードレース!?」
「面倒だな……三日もある上にかなり人数も多いはずだ」
「大丈夫ですよ。兄さん」
「正純」
「こちらの手勢は敵の十倍以上まかり間違っても勝てる訳が……」
「いい事教えてやるよ。戦に絶対はないんだ。お前らは関ヶ原の合戦でどうして西軍が負けたか知ってるよな?」
「裏切り……」
「俺も皆を疑っているようなことを言うのは正直心苦しい。だが、これは安全策だ」
「了解」
「わかりました」
「敵を疑う前にまずは味方か……策士様は大変そうよ。奥方様」
「そういう竹華姫にも殿がおいでになってるけど?」
二月の27、28、29日に開催されるこの大がかりなイベントはめんどくさいらしい。慧十はもっと大人な競技を期待していたがアタシでも思う……誰がこんなことを……。
「環、これで本当に勝てるのか?」
「確かに経済的な手腕では奴の方が数段上かも知れないが運動に関しては……俺には勝てない」
最後までスパイを続ける珠樹さんが今、密かにアタシと会っている。彼女がアタシに協力してくれる理由をついに打ち明けてきてくれたのだ。彼女はバトラークラスの三年生で来年はどこかの家に奉公しに行くらしい。
「聖さんってホントに面白いわね。普通なら私みたいなものは警戒するべきなのに」
「慧十が安全と判断したので」
「やっぱり彼には筒抜けだった?」
「あなたの過去は誰にも知られていませんよ。もちろんアタシにも慧十にも」
「じゃぁ、慧十さんと貴女にだけ話しておくわ。伝えておいてね」
彼女のお母さんは大坂財閥の現在の代表である環の父によって殺されたらしい。強欲なその男のせいで二歳になる彼女がいたお母さんは必死に抵抗したが……ストレスと過労で倒れそのまま帰らぬ人となってしまったのだ。そして、それは息子と自分の代にも引き継がれ耐えかねていたらしいがいつか、報復するために期を見ていたらしい。
「そんな……」
「そう、そういう心ない男が財界のトップって信じられる?」
「虫唾が走るな」
「慧十……」
「ちょうどいいので頼みがあります。私をこの件が終わったらNIGHT-KIGHTに入社させていただけないでしょうか」
「問題ない。アンタには大分世話になったしな」
「慧十さ。アタシはうちのメイドさんやってもらったらいいかなと……」
「それもいいな。ま、何にしてもあんたにはまだ大仕事が残ってるぞ?」
「あの……それは?」
「あんたも証言してくれ。あのクソから暴力を受けていたんだろ?」
「はい!」
アタシの味方達がコツコツためたチャンスを利用するべく私や慧十、そのほかのメンバーも覚悟を決め徐々に指揮も上がって行く。アタシは慧十に言われ出場しないことになった。昔の大名の奥方様はこんな感じだったのだろうか。とてもアタシに耐えられそうもない。慧十に内緒で考えた作戦を実行すべきか考えていたが……今はまだまとまらないから……。これから、天下分け目の合戦が再び起こるのだ。皆が心を一つにして戦う。男ばかりに任せられない。女にも戦う力はある。アタシにも……。