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出会いは突然に

 それは……その瞬間に起きた。大きなスリップ音のすぐ後にガラスが割れる音と金属と金属がぶつかる音が響きその事故は起こった……。それはアタシが原因だ……。


「眠い……。流石に三時起きはキツイかな……」

「うわっ!」

「へ?」


 真っ黒いかなり手の込んだ改造がされている大型バイクが交差点を横切ろうとした私を避けてくれたのだ。信号はこちら側が赤で明らかにアタシが悪い。それは確定だが彼は寸前でハンドルを切り直接の衝突を避けてくれたのだ。その彼は……。


「っ…………!」


 バイクの運転手の行方を探した。その時にアタシの目に飛び込んで来たのは頭から血を流しながら近寄ってくるバイクの運転手である。彼は右目を閉じ右手で頭を押さえながら話かけてきた。ライダーススーツを着ているその男の子はどう見てもアタシと同い年くらいに見える。それでも……対応が全くちがった。大人というか……この状況でアタシの心配が出来るなんて……化け物?


「おい……。お前……大丈夫か?」

「そちらこそ大丈夫ですか? う、腕が……」


 これがアタシと彼の凄まじい出会い……。正しくは再開であった……。お互いその時、その瞬間には気付かずにアタシは彼の指示で救急車を呼んでからこれも彼の指示でとりあえず実家に事故の報告をする。たまたま長期休暇で学校は休みだったから病院に親子共々お見舞いに行った。


「全く娘の不注意ですまない……。治療費は全額こちらが負担しよう……。怪我は最先端の治療方法で治療を加えているから骨折でも数日で回復するだろう。その説明は後から主治医からある」

「あ、わざわざそんな説明まで済みません。ですが……治療費に関してそんな事をしていただかなくても……」

「君は丁寧な性格だね。気にいったよ……。君の明快な判断能力ならば既に見当はついているだろう。……私の名前を聞けばわかる。娘の事とは言えスキャンダルは避けたいんだ。名前は清名 秀造という」

「……清名財閥の代表取締役さん? そうですか……わかりました。こちらも最大限努力します。幸い自分の感覚からだと後遺症は無いみたいですし、さっきの説明から左腕の骨折と額の右側を縫っただけですみそうです。あ……、出来れば医療費よりはあのバイクの方を……なんとか」

「うん、それは既に手配済みだ。新しいパーツとの交換作業を既にしている」


 父親と彼、緋皇 慧十の会話を聞いてわかった事とアタシが見た彼の容姿はこんな感じだ。身長は175センチぐらいで細身の筋肉質な体形。正直モヤシに見えるくらい細い。容姿は……アイドルみたいに整っているがきりりとした顔立ちをし銀髪の白っぽい瞳で俗に言うハーフとかクォーターの特徴が見てとれた。話を聞いていると彼のお祖父さんが北欧の出身のようだ。そして、進学のためにマンションに移り住むため今日、この街に引越して来たようだ。私も実は今日からマンションに移り住む……ルームシェアする相手と打合せがあったのだがその人とどうしても連絡が付かず困っているが契約者の父は慧十という男の子と話しこんでいて全くこちらに意識を置いてくれない……。


「すごいですね。骨折したはずなのにもう動かしても痛くない……。あ、あの退院したら一度ルームシェアするマンションに行きたいので送迎をお願いできますか?」

「うむ! グスン……わかった……。これからも頼りにしてくれここで会ったのも何かの縁だ。よろしく頼むよ。君のお父さんのことはよく知っているんだ。何でも何でも言ってくれ!」


 彼の両親は既に亡くなっているようだ。アタシの父は涙脆く、すぐに同情する。だが……今回はアタシは否定出来ない、アタシが起こした事故だから……。それに、彼の境遇にはアタシも涙したほどだ。だから今回の父のお人よしにはアタシも賛同している。見なれぬ白髪の男の子を車に乗せてアタシの住むアパートに向った。


「ありがとうございます。また本宅に後日伺わさせていただきます」

「ってここアタシのマンションじゃん……」

「やっぱりアンタか……。清名 聖さん? だよな」

「……ということは君がパートナー? え? 男?」

「そうなるな」


 父親にそれを連絡すると『仲良くしてあげなさい』と言われたアタシ……。年頃の娘を同じく年頃の男と生活させる親が何処に居ようか……。だが、彼も正式に父と話した事があると言っているため手違いでは無い。だとしたら……いや、考えないことにする。


「これから頼むよ。安心して寝込みをどうこうしようとか言う趣味はないから」

「当たり前だ!」

「じゃ……荷物の整理が有るから手伝ってくれない?」

「あ……。うん、わかった」


 衝突した左腕は回復していると言っても折れていて不自由なようだ。ここは原因を作ったアタシの出番らしい。箱を空けるくらいは何でもないらしいがそれを抑えるのに不自由が見てとれる。ギプスを邪魔そうに見た後にアタシに振り返って来た。


「でもさ、偉いね。金持ちなのに自活なんてさ」

「アタシがそういうのが嫌いなだけだ。それに……。嫁修行はしとかないとな! いつかはアタシもどこかに嫁ぐつもりだし」

「まぁ、未婚の女性も少なくないしそれは君の自由さ。でも、確かに片付けの手際は良いね。手は二、三日でギプスは取れるから学校までには間に合うよ」

「それはよかった……。で、その目はなんなんだ?」

「俺みたいに気付ける奴ばかりとは限らないから危ないし。早朝のバイトはもう辞めてね。顔はいいからウエイトレスなんていいんじゃない? 良いバイト紹介するよ?」

「馬鹿な事を言うな! なんであんなバイトをしていると思っている! 接客が苦手なんだ……」


 アタシの容姿も一応説明しておこう。身長はだいたい160センチで慧十とは違い生粋の日本人であるアタシは黒髪。長さは肩ぐらいまでのばしていて目標は健康骨まで。体系は秘密……友人には羨ましいと言われるがアタシは正直鬱陶しいし邪魔である。


「嫁修行はどうしたの? 旦那さんの顔が見れない奥さんなんて聞いたことないけど」

「嫌なところで蒸し返すな……。っと……この制服は。お前も『楼雅学院』なのか? 奇遇だな」

「そうだよ。奇遇って言ってもここからだと少し離れた工業系の専門学校くらいしかないでしょ? 俺は俺は普通学級ランクのSに行く。お前は院麗クラスだろ?」

「いや、アタシも普通学級だ。さっきも言ったが金持ちとしてチヤホヤされるのが嫌なんだよ。お前には解らんだろうが気持ち悪いのだ。そんな付きまとわれてもな」


 楼雅学院はこの地区にある中で最高ランクの高等学校だ。その学校は一般の高校とはカリキュラムや学科が全く違い進路を大きく左右する専門性で売れている学校でもアル。一学年400人で4クラス…100人クラスなのだ。振り分けは簡単目指す所や出身で違う。

 ……説明しよう。

 まず最初はこの学校の花形である『院麗クラス』。金持ちのお嬢様と御曹司を集めたクラスで学力のさが1~10まであるのんびりしたところ。校内での別名が高嶺の花クラス。

 二番目に有名なのは『院麗クラス』創設と共に併設された『バトラークラス』。執事やメイドを目指す生徒が集まるクラスで実技教養が大半。美形の生徒が多い事から他校から羨まれているらしい。

 ここからは普通の高校にも存在する。『普通学級クラス』。ここはアタシ達が通うことになるクラスで定期、実力、休暇明けの三大テストの結果による学力差によって5クラスにわけられている。学力はかなり高めで国有数の高学歴者が居るためカリキュラムは他の一般高校とは比にならないほど難しいものである。 最後に推薦枠の多い学科で有名な『スポーツ選抜クラス』。名前の通り体育会系の生徒が固まっている。クラス学力は低めだが運動能力と体格はかなり凄い。オリンピックの金メダリストを何人も輩出した栄光の実績が数多くあり全国からその高い壁を超えるため実技派のアスリートが多く集う。

 ……とこんなところだろう。因みにアタシは『普通学級クラス』の五段階S、A、B、C、DのAだ。実際のランクで言えば二番目のクラスなのだろう。生徒会や委員会は4の学部から代表が選抜されその中で再び震いにかけられる。だいたいは院麗クラスの高学力の生徒が会長副会長などを陣取る。


「ちょっと待て……今Sクラスに行くと言ったな?」

「言ったけど?」

「お前……。そんなに頭よかったのか? そんな馬鹿な……こんなちゃらんぽらんな奴が……」


 今は実質的には春休みの状態で学校は長期休暇になっている。今年からアタシも入学しクラスを振り分けられたがこんなに近くにSクラスのメンバーがいたとは……。だが、彼、慧十の洞察力からすればそれも頷ける。


「ありがとう。助かったよ。飯は俺が作れるから安心しな」

「ウッ……。いつから気付いて……」

「最初から。あと明日にはギプスの一番上が取れるからバイト先や学院の送り迎えもまかせなよ。洗濯と俺の部屋以外の掃除をお願い」

 率直な感想は物凄い几帳面な男だ。彼の生活リズムには合わせる事は出来ないだろう。アタシがバイトをしだしたのは趣味を継続するためだ。趣味や学業をするにも小金がいる。だから少しは父親の仕送り以外にも資金を作りたかったということもあった。


「慧十はどんなバイトしてるのだ?」

「いきなり呼び捨てか……。俺は説明するのが難しいバイトをしてる。それなりに稼げるバイトだがキツイし仕事の量もかなり多めだ……。一応聖が出来そうな仕事もあるにはあるが接客だから無理か……」

「ふーん。アタシが服を作るための布を買えるぐらい稼いでるのか?」

「怪我や事故を引き起こさないなら提供しよう。親父さんにはよくしてもらったしな」


 彼が来てまだ数時間だから性格がわかっていないし稼ぎ所もわからない。でも、性格は悪くは無いようだ。口調は固いしかなり厳しい性格だが優しいところもある。破廉恥なところも……。


「それから。コスプレするなら今度招待するよ……。俺の店に」

「コスプレじゃない! 普通の服だ!」

「メイド服やチャイナドレスがあるのは気のせいか?」

「ウッ……」


 アタシが家を出た理由……。それは服飾デザイナーに成りたかったからだ。父親には悪いが家を離れて仕事をしたかったし家を継げば自分の好きなようには出来ない。金持ちの柵に囚われたくはなかったのだ。それにしても慧十は不思議な少年だアタシのために稼いだ資金の一部を裂いてくれたし協力までしてくれた。しかもなぜか全てを見透かされている。確かに隠していることも多いがそこまでわかるものなのだろうか。いい例がこれだろう……。


「さらし……。苦しくないの? 別に胸があるのは悪くないと思うよ。服は全部そのサイズに合わせて作ってるから気になってたけど」


「う…うるさい! 慧十には関係ないだろ! 動きにくいし男どもから変な目で見られるし……。これまで良いことなかったんだよ!」

「学校ではそれでもいいけど俺の店に来る時はやめてね……。一応メイクとかも手伝うし。今夜行く? 飯ついでに」

「あ……あぁ、わかった」


 乗りで行くと返事をしてしまったが大丈夫だろうか……昼はそんな感じでうだうだするうちに終わった。昼食は早速、慧十が作り豪快に炒飯を仕上げてくれた。意外と美味しい慧十が作る料理は手際がよく工程が速いため温かいご飯が食べられそうだ。そして、その後も慧十のバイクの新しいものや何やら家具などのが運ばれ部屋に納まった。その中に特殊な形状のパソコンやギターなどの統一感のない家具が含まれていたのに見事にコーディネートされかなり整頓されている。


「聖! そろそろ支度するぜ。来いよ、服選んでから髪の毛セットしてメイクして……きりないか。

ま、いいや服は聖の親父さんに頼んだし先に盛っとくか?」


 身長差は大体頭一つだ。いきなり座らされ化粧や髪の毛の手入れをされていく。十分後にはアタシではなくなっていた……。濃すぎないメイクにメイクに合わせた髪型で統一しドレスまで合わせてくれた。流石に着替えはメモを書いてもらって自分でしたがその後のコーディネートは全てやってくれたのだ。まるでお姫様のようになってしまった自分が鏡に映るのをうっとり眺めていると慧十の声で現実に引き戻される。


「あんまりやりたくはないがヘルメットをかぶってくれ! 遅刻気味だ」

「まさかバイクで行くのか? 事故を起こしたあとなのによく乗れるな」

「そのまさかだよ。安全運転すれば俺は片手でも行けるの。それより振り落とされないようにちゃんとしがみつけよ」


 区画された道路を走る。街の事を言い忘れていたがこの街はセンターホールというシステムを取り入れ発展した街だ。アタシの父親と同期の仲間たちが開発を促進し店の売上、種類、大きさなどで区画化し中心の理事会を有するセンタービルである如月が統轄をし商業が発展した中枢型の市街地である。どの店も皆少しでもいい場所に店を構えようと必死なのだ。


「ちょっと! エアバイクって先に言ってくれないと! キャッ!」

「これぐらいで驚くなよ! この先でもっと驚くことが待ってんだからな! それと言葉使い戻ってんぞ!」


 巨大な店が並びキラキラと光る看板が宙に浮いている。街並みは人気店が並ぶ中心街に変わりネオンなどの綺麗な光は減り次第に落ち着いた雰囲気になりはじめた。石造りの物や木造の料亭などが増えてきてアタシは気後れし始めている。小さい時には父親によく連れて来てもらったが今度は二人でしかも同年代の男の子とだ。デート……いや、断じて違う。慧十には連れて来てもらっているだけだ。……あれ? こういうのがデート?


「着くぜ! しがみついとけ中に入る途中に段差があってそこだけ少し車体が浮くからな!」

「へ? ウワッ!」


 石造りの落ち着いた宮殿のような建物の前で止まりバイクで中に入って行った。中でも車やバイクが数台入っていき案内係に誘導されて次々に車庫に出入りしていく。慧十のバイクもタキシードの執事風の係り員が預かり別の方向に運んでいった。


「ここからは仕事柄いつもの喋り方は出来ません。お嬢様……お手を……」

「急になんだよ……慧十。改まられるとは、恥ずかしいじゃないか」

「シッ……聖、ここでは名前を隠してくれ。俺は皇太でお前は慧羅だ……。ここは学院の卒業生や学院の生徒が出入りしてる。名前は隠せその方がお前にもいいんだ。本来なら『院麗クラス』に入学するはずの人間が普通科に居ること自体おかしいからな」

「あ、おう」

「では、慧羅お嬢様……。こちらへ」


 建物の中にはたくさんの施設を取り入れたショッピングモールになっている。この店の企画は簡単で一組の客集団につき一人の執事やコスプレした職員が付き添い接客をしていく形の店だ。アタシはさっきよりも更に気後れして慧十、もとい皇太のエスコートを受けて店を歩いて行く。アタシの見たてではそんな所だ。平時は執事使用らしくイベントがある時はコスプレや内装を変えるイベントクラブ的な要素も含んでいるらしい。アタシの腕に通るしっかりした腕の感触は……。何を考えているんだ。一人で恥ずかしがっていると少しランクの高そうな大柄な男性がアタシの事について慧十……皇太に問うている。


「社長……。その方は?」

「俺の親戚が紹介してくれた方だ。名前は輝織 慧羅さん。俺が受け持つ事になった新しい娘だ」

「さようでしたか。ではごゆっくりお過ごし下さい。輝織様……」

「あ、はい!」

「慧羅お嬢様……。まずはお食事に参りましょうか」

「お……おう」


 気が狂いそうな感じがずっとしている。何故ならいつも楽なジーンズにタンクトップやパーカー、果てはスウェットのアタシがそれらに比べ露出度の高く豪華なドレスにハイヒールで髪の毛や化粧……こんな体験は初めてだからだ。しかもまだあって数時間の男の子とこんなに親しくしているのも初めてだから……。父の主催するパーティーにもっと出席しておけばよかったと今後悔している。


「お嬢様……ここの食事はバイキングです。何なりとお申し付け下さい。指定のテーブルにてお待ち頂ければけっこうです」

「あ……おう……」


 メニューで指定した物を手際よくとり運んでくる皇太を見ているといきなり皇太に似た同じくらいの少女が声をかけてきた。身長は165センチぐらいで皇太に似た白っぽい瞳に少しくすんで黒ずんでいたが彼女も銀髪だ。


「はじめまして、貴方が兄上の初めてのお客さん?」

「兄上って……妹さん?」

「えぇ……。ここでの名前は紫神で本名は雲英です。『この人は私達の正体を知らない……兄上も嫌味な方だ。いまは伏せておくべきでしょうね』」

「お待たせいたしました。ではごゆっくり。紫神様……ごひいきにしていただきありがとうございます」

「うふふ。ありがと。では、私はこれで失礼します」

「ごゆるりと……」


 皇太はアタシが食べるのを横に立ちそれとなく見ては確認をとり料理を運んでくる。デザートに入りアタシの疑問がついに爆発した。なぜ皇太は食べないのか?


「なんで皇太は食べないのだ?」

「お気遣いありがとうございます。ですが職務中にはお嬢様や他の御主人様からの命でなければ我々はそのような行為はおこないません」

「そう……じゃぁ皇太も食べてくれよ!自分だけ食べるのは気分悪いし」

「さようですか。では、いただきます」


 それからアタシはずっと皇太に付き添われ買い物を続けた。しかし、アタシはお金を持っていないのに次々皇太はすすめてくる。そして、アタシも買ってしまう。よく観察していると皇太が金を出している。いくら持っていたのかは分からなかったが買った量からしてかなりの金額だろう。アタシにはそんな資金は無いのだが……。

「この店はデパートのような形ですが他にも娯楽、多種ビジネス、医療、なども完備されています。そろそろ0時を回ります。今日はここまでにいたしましょう」

「うん……」


 彼は最後にアタシの誕生日を聞いてきた。アタシの誕生日は五月五日だった。子供の日に生まれたためアタシは男勝りになったのだとよく父に言われる。それを彼に伝えると彼は宝石店に入り何やら注文しすぐに帰ってきた。


「では、帰りましょう」

「うん、今日はありがと……」


 アタシは彼が運転している間に寝てしまったようだ。いつの間にか部屋に帰っていて軽くゆり起こされたあとシャワーを浴びてパジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。

………………………

   次の日

………………………


 アタシが起きたのは午前10時だった。慧十は既に起きていて勉強らしき事をしている。彼は勤勉で真面目な性格らしい。アタシの体力がないだけかもしれないが彼はかなり体力があるように感じる。昨日はかなり歩いたはずなのだ。


「おはよう……。よく寝れたか?」

「あぁ、あれだけ歩いたからな。そりゃグッスリと寝られたよ」

「よかった。よかったついでに渡したい物がある」


 慧十は大きなダイヤのついた指輪とほぼ同じ大きさのエメラルドの着いた指輪を机の上に置いた。彼はダイヤの指輪をアタシに渡すように机の上をスライドさせる。唐草の模様の入った綺麗なデザインの指輪だ……。そして同じデザインのエメラルドの指輪を自分の薬指にはめた。エンゲージリングなのだろうか? いや、婚約などしていない。


「どういうことだ?」

「あの店……名前はNIGHT-KNIGHTって言うんだ。親父が創って一番お気に入りの店でさ。意味は名前の通り『夜の騎士』決まった主人を人知れず抱擁するように守るのさ。で、各社員の最初の客にはこうやって誕生石のついた指輪を渡すのがしきたりなんだ。忠誠の証に……な。俺はオーナーやってたが専属の客はいなかったんだ」

「じゃ……。アタシが最初なのか?」

「そういうこと。指にするのが邪魔ならネックレスにしなやってやるから」


 慧十に加工してもらい恥ずかしいが首に提げている。アタシもお礼がしたくてとっさに彼の誕生日を聞いてみた。慧十の誕生日は四月四日だと教えてくれる。彼は店の仕事と勉強を両立させているためすこし疲れがたまっているように見えた。それに何故か最初と……昨日と扱いが変わってきている気がするのは気のせいだろうか。その日の昼は二人で宿題をはじめ教え合いながら素早く済ませた。慧十は頭がいいと言うよりも回転がいい。アタシが問題を解いている間に次々に解いていき同時に始めたはずなのに休憩用の菓子やお茶を用意しているしまつだ。

「何でそんなに解くのが速いのだ?」

「いや、速く解いている気はないんだが……、方針は簡単だぜ? あらゆるパターンの思考を読む事が大切なのさ俺達の生活をしていく上ではな」

「ほう、これでまた勉強になった。ありがとう」

「聖さ、もっと女の子らしくしたら?言葉使いとかさ。せっかくルックスもビジュアルもいい訳だしさ。普通にさらしとか使わないほうがモテると思うけどねぇ」

「う、うるさい! 小さいころからこういう性格だったんだ。今更そんなことを……」


 呼び鈴が鳴りアタシはその場から逃げるように玄関に急いだ。アタシも一応女の子だからああいう事を言われると恥ずかしいのだ。慧十はそんなことお構いなしに次々に聞きたいことを聞いてくる。全く……デリカシーの欠片もない。別の言い方をすれば意志の疎通に壁が無いのだ。また、別の言い方をすれば馴れ馴れしい。


「聖! 久しぶり~!」

「お姉ちゃん! 久しぶり! 首から何提げてるの?」

「成果お姉ちゃん! 那流! なんでこんなに急に……。来るなら連絡してよ」


 この二人はアタシの姉妹で姉の成果と妹の那流といい。姉の成果は既に結婚していて極度の暇人。妹の那流は私立中学に通う二年生で春休みの課題を終えたらしく、たまたま里帰り中の姉の車に乗ってアタシの新居を見に来たらしい。二人と天真爛漫な性格でいつでも呑気に行動しアタシが止めても聞かないのが日常。そのくせ姉は感が鋭く嫌な事をすぐに当てられる。那流は正直で扱いやすい。


「じゃぁ、お邪魔しまぁす」

「ちょっと! 待ってよ!」

「あ……。彼氏居たの? 邪魔しちゃいけなかったかな?」

「彼氏じゃない!」


 至って普通に部屋に戻り再び外に出て来た慧十が一度会釈して居間に消えた。その後、二人とも上がり込み姉妹三人の話を始めたのだが話題は大体慧十の事だ。確かに美形で髪が銀色の男の子が男っ気のないアタシの部屋に居れば二人はそれに食いついてくるだろう。


「で、彼のことどう思ってるの? お姉ちゃん?」

「そうよ、聖……お姉ちゃんには秘密はなしよ。でも彼どっかで見た顔なのよね……」

「それは雑誌でしょう。お茶はご入り用ですか?」

「あ、ありがと」

「それから、聖さんのお姉さまと妹さんですか? 自己紹介がまだでしたね。俺の名前は緋皇 慧十です。以後よろしくお願いします」

「こちらこそ、姉の成果です」

「妹の那流です! お姉ちゃんと付き合っていないならあたしと付き合ってくださいよ! 今ちょうどフリーだし」

「また別れたの? あんたこれで何人目よ……」


 慧十は終始にこやかにいた。妹の那流が抱きつても姉の成果が聞いては行けないアダルト系なエリアの話しをしても平然と答えていた。正直、彼にはアタシなど普通のルームメイトとしか思ってないのだろう。だが、妹や姉と扱いが違うのもわかる何か親しみのような物が違うのだ。


「じゃぁ、私たちは帰るわね! 聖にもいいお婿さん候補が出来た訳だしね」

「慧十さん! さよなら! 今日のことは考えておいてね!」


 二人が帰り午前を終了した事をつげる時報が聞こえてきた。慧十が立ち上がり声をかけてくる。白い瞳は最初は怖かったがだんだん慣れが生じて来てもう何のことない。それに……それに慣れると少し彼の全体像が見えて来たから……。


「飯は何がいい?」

「何でもいいよ……食べれれば」

「わかった。じゃぁ、ピーマンメインの炒め物と白米な」「ピ、ピーマン。それだけはやめてくれ」

「えー、さっき何でもいいって言ったよな?」


 本当に回鍋肉を作り白米の入ったお茶碗をアタシの目の前に置いた。意地悪い所もあるらしい。彼の観察日記を付ける気はないが……なかなか彼の生体は面白いのだ。


「ピーマンが三種類……」

「いただきます」


 アタシは大体のものは食べられるがただ一つ……宿敵ピーマンのみが食べられないのだ。口に入れた時のあの何とも言えない渋みが嫌で嫌で仕方がないから全部避けてしまう。本能だろう。


「やっぱりな……。やるとは思ったが見事にピーマンだけしかも緑だけ残したな」

「しかたないだろう……。嫌いなんだから」

「ほら白米と一緒に食えよく噛まずに飲み込むと渋みは出ない」

 そう言ってアタシの目の前にご飯で包んだピーマンを突きだしてくる。ここまで来ると流石に食べない訳には行かない。恥ずかしい。だが、悪い気もしない。


「仕方ない食べてやるよ」

「まったく、世話の焼けるお嬢様なことで」


 笑いながら次々に口に入れてくる。アタシは赤ちゃんに戻った気分だったが何故か嫌ではなかった。彼の笑顔は……温かで何故かそれがみれた時のアタシも笑っていた気がする。その後残りの春休みの機関にも数回NIGHT-KNIGHTに二人で行った。人気店らしくたまたま姉や妹と遭遇することもあったが楽しかった思い出の一つだ。慧十とであって数日、アイツは入学式当日に誕生日を迎えアタシより先に16歳になった。そしてクラス分けでは早速別のクラスから始まってしまうのだ。

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