第98話 二つの核
甲冑の上から傷がないか見てから、お互いに傷がないか確認する。
クロエとパーシーに大きな怪我は見当たらない。
「危なかったが大きな怪我はないか」
俺は大きく息を吐く。
「グリムリーパー、強かったわね」
「ああ。名前付きダンジョンを討伐する大隊の編成であれば倒せるとは思っていたが、グリムリーパーは想像以上に強かった」
ベヒモスダンジョンを討伐するための人数は多い。6に分けられた大隊一つで普通のダンジョンを討伐する人数を超えている。しかも俺が所属している大隊はスカーレットドラゴン王国から来た第二騎士団を中心とした精鋭。
グリムリーパー1体であれば倒せなくはないと思っていた。
おそらくベアトリクス様も同じ考えで他の大隊を待たなかったのだと思う。
「二人ともグリムリーパーの攻撃をもう少しで受けそうだったよ。無茶しすぎだよ」
パーシーが腰に手を当てて声が怒っている。
確かに俺も深追いしすぎてパーシーとモンタギュー卿に助けられた。
クロエと顔を合わせる。
「気をつけます」
「気をつけるわ」
頭を下げる。
パーシーがため息をつく。
「今回戦ったグリムリーパーは状況判断ができた上に誘うような動きまでしていた。二人とも誘い込まれていたよ」
グリムリーパーとの戦いを思い出す。
モンタギュー卿の一撃で念動力の出力が下がるという考えには違和感がある。
パーシーのいう通り、グリムリーパーが後ろに下がったのは誘いか。
ユニークモンスターは大量に死者が出ても不思議じゃない相手。
決して油断していたつもりではなかったが、グリムリーパーの誘いに乗せられて死にかけた。
「でもグリムリーパーは最後まで本気を出していなかった気がするわ」
クロエのいう通りではあると思う。
「確かに吸血鬼の時とは違って気迫を感じなかった」
吸血鬼もグリムリーパーと同様に最初は遊んでいたが、攻撃が入ると遊ぶという雰囲気が一切なくなった。
吸血鬼に対してグリムリーパーは一撃入れてもカタカタと音を立てるだけだった。動きは多少変わったが、まだ遊んでいるという雰囲気のままだった。
遊ばれているにしろ、グリムリーパーは移動速度が早すぎて俺にはやりにくい相手だった。しかも最後には飛んだ。
「ところでグリムリーパーは飛ぶって記述はなかった気がするんだが?」
「私も記憶にないわ。飛ぶとは思っていなかったわ」
クロエが首をひねる。
「クロエのように翼で飛んでいるわけではなく、念動力で飛んでいたんじゃないかな?」
「念動力だとは思うが、飛ぶという記録はあったか? ユニークモンスターについて調べた時になかった気がするのだが……」
「僕も飛ぶと書かれていた記憶はないかな。だけれど全てを覚えているわけじゃないから自信がないや」
「確かにな」
飛ぶという記述があれば忘れなさそうではあるが……。
「本体は液体状の物体だと予想だと書かれていたのは覚えているけど……」
「それは俺も覚えている」
グリムリーパーは寄生生物のような存在。
生態について話していて、倒したグリムリーパーの亡骸がいまだに打ち捨てられているのを思い出す。
「体に異常はないのだし、グリムリーパーの素材を回収しておくか」
負傷者の治療が行われているため、すぐには動けない。
治療が終われば撤退になるだろう。
撤退前にグリムリーパーの素材は回収しておきたい。
「僕はどこかに転がっている足を探してくるよ」
「頼む」
グリムリーパーの本体と言われる液体はスライムのように形を保っているため回収できる。ベアトリクス様の攻撃で多少蒸発していると思われるが、残った素材を回収する。
大雑把に素材を分け、袋に詰め込んでいく。
回収できたのはデスサイズ、骨、液体、ユニークモンスターの核。
「ん……? ユニークモンスターの核?」
あれ? さっきベアトリクス様が核を持っていなかったか?
「核? トリスが回収していなかった?」
「ああ。ベアトリクス様が持っていたよな?」
核を手にクロエと顔を見合わせる。
「トリスを呼んでくるわ」
「頼む」
クロエがベアトリクス様を探しに行った。
クロエと入れ替わりにパーシーがきた。
「アイク、グリムリーパーの足とアイクの盾を回収しといたよ」
「ああ、ありがとう」
盾、最後に手放したんだった。忘れていた。
受け取ろうとパーシーが持っている俺の盾を見ると酷い状態。盾はえぐられてぼろぼろ。
「盾を使うのはお勧めしないけどね」
「……よく貫通しなかったな」
「本当にね」
金属をえぐるって……。
盾ごと断ち切られてもおかしくなかった。
吸血鬼に盾を貫かれた経験から、盾は何度も作り直して強化を続けていた。戦っている間はさらに魔力で強化していたというのに、えぐるほどの傷をつけられたのか。
「直すにしてもこれは作り直したほうが速そうだな……。直さずに予備を使うか」
「予備に変えたほうがいいと思うよ」
テラパワーで予算を気にせず開発した盾で壊れかけ、他の騎士が持っていた盾は壊れていないか?
騎士は装備にお金をかけているため、そこまで差はないと思いたいが……。
「アイザック、クロエからユニークモンスターの核を見つけたと聞いたが?」
盾を持った騎士を心配しているとクロエがベアトリクス様を連れてきた。
忙しいベアトリクス様の話を優先する。
「はい。頭の中に入っていました」
「妾が回収した核とは別にもう一つ?」
ベアトリクス様が核を取り出す。
「自分が回収した核です」
俺も先ほど回収した核を見せる。
「二つあるな」
白く濁ったユニークモンスターの核が二つ。
間違いなく二つある。
「ユニークモンスターの核は一つだったと記憶しています」
「普通はそうであるな」
「名前付きのダンジョンゆえに核が二つあるのでしょうか?」
他に核が二つある理由が思いつかない。
ベアトリクス様が首を横にふる。
「わからぬ。名前付きのダンジョンでユニークモンスターを倒した過去の記録を探すしかない」
「帰ってから調べるしかありませんか」
ベアトリクス様が頷き、大きく息を吐く。
「核が二つであれば普通のグリムリーパーより強いであろうな」
「コアの多いモンスターが強いように、核が多いユニークモンスターも強くなると予想できます」
グリムリーパーが飛んだのも核が多かったからかもしれないな。
「盾を持った騎士の負傷者が多い理由がよくわかった」
「死者は出たのですか?」
「幸い追撃を防げたおかげか今のところ死者は出ていない。ただ死にはしていないだけで戦わせられないほどの重症でな」
戦わせられないほどの重症。吸血鬼と戦った時の俺と同じか。
何日かは絶対安静でいなければ死ぬ。
「ダンジョンを進むのに支障が出ますか」
「支障が出るであろうな。今も魔力が空になった騎士が大半で先には進めない」
魔法をあれだけ打ち込めばな。
俺のように魔力が少なく魔法を打てない騎士は魔力が多少は残っているが、戦えい続けられるほどの魔力が残っていない。交代まで時間があるが66層で止まるしかない。
「アイザックは何度もグリムリーパーの攻撃を受けていたが怪我は?」
「盾が使い物にならなくなった程度です」
「攻撃を受けて無傷か」
「連続で攻撃を受けたわけではありません」
「重症の騎士も一撃しか受けておらん」
ベアトリクス様から頑丈だと言われている気がする。
「自分ではなく盾が犠牲になりました」
パーシーが持ってきてくれたぼろぼろの盾をベアトリクス様に見せる。
「一撃でこの状態に?」
「はい。買い揃えた素材とテラパワーの技術を使って作った盾です」
「体の強さもありそうではあるが、盾の差もあるか」
ベアトリクス様は一応納得してくれた様子。




