第96話 グリムリーパー
ダンジョンから撤退という考えはない。
俺を含めた盾持ちが前に出てゆっくりと進む。
ユニークモンスターがいるであろう部屋にもコアの色に似た草、木、岩が生えている。
木と岩で視界が遮られ緊張がます。
俺の母が死んだのはユニークモンスターが原因だと父から聞いた。
俺自身も吸血鬼を相手して死にかけた。
ユニークモンスターはダンジョンが怖い場所だと理解させられた存在。
二つの理由が合わさって体が強張る。
「いたぞ!」
深層の岩の上にモンスターが座っている。
人のような形をしているが人ではない。
骸骨が擦り切れた黒いローブを着て、手にデスサイズを持っている。
「グリムリーパー!」
死神のような見た目をしたグリムリーパーは骸骨の顔をこちらへ向ける。
目玉のない瞳は穴が空いており何を見ているのかわからない。
グリムリーパーは俺たちに顔を向けたまま動かない。
強者として悠然とかまえているように見える。
吸血鬼も最初から全力を出さなかった。
普通のモンスターは人を見れば全力で襲いかかってくる。
ユニークモンスターと普通のモンスターは明らかに違う。
「魔力を使い切るつもりで戦え!」
ベアトリクス様の魔力が荒々しく動く。
俺も魔力を活性化させる。
グリムリーパーはまだ余裕を見せており岩の上に座っている。
グリムリーパーは動かず、俺たち騎士も動けない。
硬直状態を終わらせたのはハルバートを持った騎士、ベアトリクス様。
ベアトリクス様は盾を構えている俺たちを飛び越し、グリムリーパーに突っ込んでいく。
ハルバートが振り下ろされる。
岩の上に座っていたはずのグリムリーパーが立ち上がっている。
ハルバートが岩を砕いて止まった。
グリムリーパーがゆっくりとデスサイズを振り上げる。
体と盾を強化した状態でベアトリクス様の前に出て盾を掲げる。
盾を掲げる前に見えたのは、ゆっくりと振り下ろされるデスサイズ。
威力のなさそうなデスサイズが盾に当たる。
金属同士がぶつかる凄まじい音が響く。
盾から膝をつきそうになるほどの重さを感じる。
「サンダーインパクト」
パーシーが魔法を唱えたと同時に盾からの重さが消える。
「早い」
パーシーの悔し気な声に慌てて盾を退ける。
先ほどまで目の前にいたはずのグリムリーパーが10メートル以上離れた場所にいる。
今の一瞬で移動したのか。
一瞬で移動する速度に、明らかに手を抜いた攻撃。
吸血鬼と同じようにグリムリーパーに遊ばれている。
「くるぞ」
ベアトリクス様が警告を発する。
グリムリーパーが今から動くと合図を出すように肩を左右に揺らす。
盾を構えながらグリムリーパーを注視する。
動いた。
残像を残しながらグリムリーパーが駆ける。
あまりに早すぎる。
動くとわかっているから目で追えているが、前兆もなく動かれれば目で終える自信がない。
「狙いは妾か」
ベアトリクス様がハルバートを振るう。
グリムリーパーもデスサイズを振るう。
ハルバートとデスサイズがぶつかり、鉄筋同士がぶつかったかのような音を発する。打ち合った衝撃でハルバートとデスサイズが離れる。
「フレイムランス」
ベアトリクス様が魔法を使う。
ハルバートの先端が炎に包まれる。
グリムリーパーがハルバートをギリギリで避けようとする。
「サンダーボルト」
パーシーの魔法がグリムリーパーを襲う。
雷がグリムリーパーに落ちるが動きは途絶えない。
ベアトリクス様のフレイムランスまで避けてしまう。
「薄氷」
空から近づいたクロエの一撃がグリムリーパーを襲う。
背後からの攻撃であるのにグリムリーパーは見えているかのようにクロエの攻撃を避ける。
瞬く間に魔法が使われたが、パーシーの魔法以外は避けられている。
足を止めなければまともに攻撃が当たらない。
しかし、俺の盾とバトルアックスという組み合わせは動きが速度が早いわけではない。何かしらのきっかけがなければグリムリーパー相手に攻撃がかすりすらしない。
「エクスプロージョン」
騎士から魔法が放たれる。
広範囲を爆裂させる魔法にグリムリーパーの体が若干浮く。
「ガアアア」
すかさずバトルアックスをグリムリーパーの背中に叩きつける。
硬い手応えをバトルアックスから感じる。
髑髏が背中側にまで回転する。
グリムリーパーの背中側にバトルアックスが当たったが、避けずにあえて当たったのだと理解させられる。
「モオォォオオ!」
モンタギュー卿が突っ込んでくる。
バトルアックスを思いっきり振りかぶってグリムリーパーに振るう。
モンタギュー卿のバトルアックスはグリムリーパーの正面側にあたり、俺のバトルアックスと互い違いではあるが挟み込むように当たる。
グリムリーパーは俺とモンタギュー卿のバトルアックスに挟み込まれても断ち切れずに止まる。
「グラアアア」
「モォオオオ」
止まったバトルアックスを押し込む。
俺の叫びとモンタギュー卿の叫びが重なる。
互い違いであったため、力が分散してしまいグリムリーパーが回転しながら飛んでいく。
「メテオストライク」
グリムリーパーを追いかけるように巨大な岩が降る。
岩がグリムリーパーとダンジョンの地面に当たり砕ける。
砂煙が舞い上がる。
「ウィンドカッター」
風魔法が砂煙を切り裂いて飛ぶ。
ウィンドカッターがグリムリーパーに直撃して砂煙が晴れる。
メテオストライクとウィンドカッターが直撃したであろうグリムリーパーは健在。
「カタカタカタ」
グリムリーパーは手を広げながら髑髏の口を開け、骨を鳴らす。
声は出していないが笑っているかのよう。
「硬すぎる」
後先など一切考えていない魔法の連打を受けてもグリムリーパーは健在。
グリムリーパーがあえて避けているベアトリクス様やクロエの魔法が当たりさえすれば違うかもしれないが、足を止められるような状況に持ち込めない。
「エクスプロージョン」
再び広範囲を爆裂させる魔法が放たれる。
魔法が爆裂すると同時にグリムリーパーが高速で移動する。
爆裂を背にグリムリーパーが走り、エクスプロージョンを使った騎士にデスサイズを振るう。
盾を持った騎士が立ち塞がり、デスサイズを受け止めた。
盾ごと騎士が吹き飛んでいく。
グリムリーパーが吹き飛ぶ騎士を追う。
まずい。
「ウィンドカッター」
騎士に追撃しようとするグリムリーパーに魔法が飛ぶ。
ウィンドカッターがあたり、一瞬だがグリムリーパーの動きが止まる。
その隙に盾を持った別の騎士が割り込む。
デスサイズが振るわれる。
「フレイムランス」
デスサイズを振るうためグリムリーパーが立ち止まったところにベアトリクス様が突っ込んだ。
ハルバートが肋骨を抉るようにグリムリーパーの右側から差し込まれる。
見えていないであろう視覚外からの攻撃をグリムリーパーは避ける。かするような避け方に、グリムリーパーの着ている擦り切れた黒いローブにベアトリクス様の攻撃が当たる。
ローブが少し燃え上がる。
「サンダーインパクト」
パーシーがグリムリーパーに突っ込む。
ベアトリクス様とは反対の左側からパーシーのメイスが振られる。
グリムリーパーの頭部を狙ったであろう攻撃を、グリムリーパーは背中を逸らしてパーシーの攻撃を避ける。
「薄氷」
さらにクロエの追撃。
背中側からクロエの大剣が振るわれる。
グリムリーパーの体勢では避けられない。
「カタカタカタ」
グリムリーパーが再び骨を鳴らす。
背中を逸らした状態から、背中をさらに足に近づけ人間なら背骨が折れた状態になる。折り畳まれたような状態で、パーシーと騎士の間をすり抜ける。
肉のない骨だけの存在でなければできない動き。人には絶対真似できない。
タイトル変更前ですがタイトル微修正
脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜
作中で蒸気世界を最低限しか描写していないため削除しました。
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