第95話 ダンジョン65層、66層
深層65層。
モンスターが復活しなくなってからベヒモスは出てきていない。
出てこなくなった理由を色々と考えたが、答えは出ない。
ベヒモスは出てこなくなったが、深層に入ってから1日で4層しか攻略できなくなった。
1日に4層だとアックスオッターの時が3層だったため1層多くはある。
1日4層を続けられる前提であれば13日で100層まで到達する。深層に到達するまで4日かかっている。4日と13日を合わせて17日。
1日で攻略できる階層が減ったとしても、モンスターが復活する目安である一ヶ月以内での100層到達は可能。
100層からどこまで続いているかが問題になる。
色々と考えてしまうが、モンスターを討伐して前に進むしかない。
「戦っている部隊と交代するため合流する」
俺を先頭に前へと出る。
深層には草だけでなく、木と岩がある。
木と岩はモンスターのコアと同じ緑色。
深層に入ってから戦車と大砲が予定通りに使われなくなったため、煙が消え周囲を見渡しやすい。
深層のモンスターが強いため、戦車と大砲を操作する兵士を守るのが難しい。さらに深層のモンスター相手では砲弾の効果が薄い。
戦車と大砲の修理をやめたテラパワーの社員は武具を整備している。
周囲を警戒しながら歩いていると一定の魔物が多いのに気づく。
「8本足のヘルハウンドが多いな」
「65層はヘルハウンドが発生する階層だったのかも」
「そうかもな」
パーシーの予想に同意する。
65層から外にまで出てきていたのか。随分と遠征するな。
「アイク、空を飛ぶわ」
「気をつけろよ」
クロエは空を飛んでヘルハウンドの注意をひくつもりのようだ。
「下に続く通路が見えたわ」
空からなら通路を見つけやすいか。
慌てて通路に突進してしまいそうなクロエを止める。
「クロエ、まだヘルハウンドを倒しきれていない。次の階層に進むのは無理だ」
「……ヘルハウンドを倒して進むしかないのね」
返事までの間がクロエの悔しさを物語っている。
「ヘルハウンドを片付けて次の階層に行くぞ」
クロエが返事の代わりにヘルハウンドに突っ込んでいく。飛んだ状態から滑空してヘルハウンドに一撃入れると再び上空に飛び上がる。
一撃入れられたヘルハウンドはまだ健在。
クロエは注意をひくために攻撃したようだ。
思ったより冷静だな。
クロエが気を引いている間にヘルハウンドへ素早く接近する。
ヘルハウンドは跳躍しようと足を曲げており、姿勢が低くなってバトルアックスを振り下ろすのにちょうどいい。
魔力を多くこめて首にバトルアックスを振り下ろす。
「サンダーインパクト」
パーシーは俺が倒したのとは別のヘルハウンドを倒している。
クロエが注意を引いたのは俺が倒した一体だけではなかった。
俺とパーシーが倒したヘルハウンド以外にも注意を引いており、跳躍の予備動作が終わったヘルハウンドが飛び上がる。
俺の身長以上にヘルハウンドが跳躍する。
空を飛んでいるクロエに迫りそうなほどだ。
クロエがさらに高度を上げてヘルハウンドの攻撃を避ける。
「パーシー、着地の瞬間を狙う」
「うん」
ヘルハウンドには翼などない。
飛び上がれば落ちてくるのはわかりきっている。
高く飛び上がったヘルハウンドが体制を整えながら地面へと降りてくる。上ばかり見ていたヘルハウンドが着地のために下を向き視線が合う。
「ガアア」
ヘルハウンドが威嚇してくるが意味はない。
前足から着地してかがみ込んだところにバトルアックスを振り下ろす。
ヘルハウンドの首が飛ぶ。
「はああ!」
クロエがヘルハウンドの首を落とす。
クロエが気をひいたヘルハウンドの数は多く、俺とパーシーが倒してもまだ残っている。
ヘルハウンドの注意が再びクロエに向いたが、クロエは再び高く飛ぶ。
学習能力がないのか一部のヘルハウンドはクロエを追おうとする。俺とパーシーが飛びあがろうとするヘルハウンドを倒す。
一部の学習したヘルハウンドは飛び上がらず、俺たちを襲おうとする。俺たちを襲おうとするヘルハウンドはクロエが倒す。
お互いが囮になってヘルハウンドを効率よく倒す。
「深層のモンスターにしては倒しやすいか」
「僕たちの魔力が増えて安定したのもあるとは思うけど、作戦がうまくはまっているね」
アックスオッターの時は獣化していたのが俺だけだった。
今はクロエとパーシーも獣化しているため安定感が違うのは確かにありそうだ。
「跳躍までの動作は遅いけれど、飛ぶと随分と高く飛べて邪魔よ」
「確かに随分と高く飛べて驚いた。だが、邪魔程度ならいいんじゃないか?」
「そうね」
息が整ったところで会話を終わらせ、次のヘルハウンドへと襲いかかる。
中層と違って会話をしながら倒し続ける余裕がない。
65層のヘルハウンドを倒しきった。
騎士たちの甲冑がところどころに焦げている。
俺の盾も煤けている。
ヘルハウンドの体毛に触れると燃え上がる。ヘルハウンドが死ねば火は消えるが、焦げまでは直らない。
「66層か」
「まだ時間があるわね。交代せずにこのまま進むのかしら」
「おそらくな」
次の階層に向かう時が一番緊張する。
入り口付近にモンスターが固まっているため激戦となる。
「クロエ、アイザック、パーシー」
ベアトリクス様が呼びにきた。
ハルバートを持ったベアトリクス様は血に塗れている。
「66層へ切り込む」
「了解しました」
最初に次の階層へ進む人は毎回同じような騎士が集められる。
大隊の中でも魔力が多く力が秀でたものが選ばれている。
66層へ降りるための通路前へ、ベアトリクス様やモンタギュー卿など顔馴染みが揃う。
「準備はいいか?」
「はい」
ベアトリクス様の言葉に騎士たちが同意する。
「行くぞ」
66層へと続く下り坂を降りていく。
66層の地面が見え始めた。
変だ。
普通なら地面が見えた時点でモンスターが見えているはず。
「モンスターがいない?」
「全てのモンスターが他の階層に出ていった?」
「いや、今までそんな階層はなかった。それにさらに下の階層からモンスターが移動してくるだろう」
「確かに……」
違和感についてパーシーと話しながら、さらに緊張を高める。
自然に歩みが遅くなる。
「モンスターがいない」
パーシーの予想した通りモンスターがいない。
全てのモンスターが他の階層へ移動した……?
全て移動するなどあり得るのか?
「天井が高くない?」
クロエの言葉に天井を見上げる。
名前付きのダンジョンはそもそも天井が高いのだが、確かに65層の天井よりさらに高いように思える。
ダンジョンで部屋の形が変わるなど、ボスモンスターが出る階層でしか経験がない。
「天井が高い? …………ユニークモンスターか!」
ベアトリクス様が叫ぶ。
モンスターがいない。部屋の形が違う。
条件に当てはまるのはユニークモンスターだけ。
「気を緩めるな!」
盾を何がきても対処できるように構える。
静寂に包まれる。
俺を含め皆が緊張しているのがわかる。
しかし、見渡す限りモンスターらしき存在が見当たらない。
今までベヒモスダンジョンでユニークモンスターが外に出てきたとは聞いていない。
実はユニークモンスターはあまり外には出てこない。俺が獣化したきっかけとなった吸血鬼は外に出てきた珍しい事例。
そもそも深層モンスターが外に出るのも珍しい。ダンジョンボスや深層モンスターが大量に出てくるベヒモスダンジョンは異常なダンジョンと言える。
「ユニークモンスターが存在している可能性があると伝えに戻れ」
「了解」
ベアトリクス様の指示で騎士が65層へと戻っていく。
「前進する」
タイトルを16日に変更します
変更後のタイトルは『蒸気世界で脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜』に変更予定です。
タイトルは以前から変えたいと思っていたのですが、いい案が思いつかずに変えられませんでした。まだ新しいタイトルに納得いっていませんが、修正する前提で変更いたします。
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