第94話 ベヒモスダンジョン21層
先ほどから剣を持ったオークをよく倒している。
どうやら今いる21層は通常より大型のオークが本来発生していた階層らしい。
モンスターは階層を移動しているが、全てのモンスターが移動するわけではない。もともと階層いたモンスターが多い傾向がある。
次に煙の中から出てきたのは深層のモンスターであるとバーゲスト。
オークが多いとはいえ、オークだと思って油断していると深層のモンスターが出てくる。中層とはいえ油断はできない。
「バーゲストだ!」
バーゲストの首を狙って切り掛かるが片腕を犠牲に逃げられた。
深層のモンスターは一撃では倒せないか。
バーゲストは二足歩行の犬のような姿で頭部が2つある奇形。残った右手に持った鎖を振り回してきた。
盾を構えて鎖の攻撃から身を守る。
「サンダーインパクト」
パーシーが煙を見にまといながら飛び出してくる。
バーゲストからパーシーは完全に死角。
魔法の乗ったメイスがバーゲストの首にめり込む。メイスが首に触れた瞬間バーゲストの毛が膨らみ、電気が放電する音が鳴り響く。バーゲストが白目を剥いて気絶した。
パーシーがメイスを振り切ると、バーゲストの首が音を立てながら曲がらぬ方向へと曲がった。
「パーシー、後ろだ」
横に回ったパーシーの後ろからオークが現れる。
俺がパーシーと入れ替わる前に、パーシーが振り向きざまにメイスを振るう。
オークの頭部が砕け散る。
「意外に砲撃を抜けてくるね」
「それでも普通のダンジョンより少ないと思うぞ」
まだ喋りながら戦うだけの余裕がある。
パーシーと会話をしながらもクロエから離れないように動き続ける。
「足が8本もあってよく素早く動けるわね」
クロエが相手しているのはヘルハウンド。
濡れた黒い犬のような姿で、噛まれたり濡れた体毛に触れると燃え上がる。本来なら4本足で素早く動き回るのだが、今は8本の足を忙しく動かしている。
「動きが気持ち悪いな。犬ではなく虫のようだ」
「ええ。しかも動きが読みにくいわ」
ヘルハウンドは深層のモンスターであるためかなり強い。
動きが読めないというのはかなり厄介。しかも体毛に触れると燃え上がるという特性があるため、接近戦がやりにくい。
クロエが距離をとって逃げながらヘルハウンドの隙を狙っている。
「クロエ、飛べ」
クロエが空に飛ぶとヘルハウンドは跳躍しようと足を曲げるが、足が多いためか跳び上がるまでに時間がかかる。
身体強化に多めの魔力を込め、ヘルハウンドとの距離を一気に詰める。
ヘルハウンドの首へとバトルアックスを振り下ろす。
跳び上がって空中で避けられないところを切るつもりだったが、足の多さが跳躍動作の遅れになるとは思わなかった。
結果的には上々。
「アイク、オーガよ」
「オーガは巨大化しているのか」
オーガは元々3メートル近い身長があるのに、5メートル近い大きさになっている。
手には槍を持っており厄介。
「飛んで首を狙うわ」
「それなら気を引いておこう」
オーガに駆け寄る。
当然オーガから気づかれており、槍が鋭く突き出される。
オーガは中層のモンスターであるのに体が大きいのと槍を持っているため、腕の長さと槍の長さが合わさってやりにくい。しかし、深層モンスターよりは力が強くないため受け流すのは簡単。
体制を崩すように槍を受け流し、槍を踏みつけて使えなくする。
俺が槍を踏みつけたため、オーガが前屈みになった。
オーガは頭が下に向いて俺を見下ろしている。
俺を見下ろすという状態であれば首がさらされている。さらされた首を狙ってクロエが降りてくるはず。
予想通りに翼を折りたたんだクロエが上空から降ってくる。
オーガ越しに見えるクロエは翼を広げて止まり、大剣を上段から振り下ろす。剣の切っ先が線を引いてオーガの首に吸い込まれる。
オーガの首が落ちる。
素早くオーガの側から離れる。
わざわざ血をシャワーのように浴びたくはない。
「モンスターが途切れないけどまだ余裕だね」
俺とクロエがオーガを倒している間にパーシーがオークを倒している。
オークに気づいてはいたがパーシーに任せていた。
「中層のモンスターは倒すのにそこまで苦労しないが、深層のモンスターが混じっていると倒すのに時間がかかる。深層まで4日か5日かけないと到達しなさそうだな」
「アックスオッターのダンジョンは3日程度だったよね」
「ああ。それでも中層は戦車と大砲があるからか、事前の想定より早く進んでいる。本番は深層からだな」
アックスオッターは深層に入ると1日で3層しか進めなくなってしまった。しかも進むごとに魔力の回復量が落ち、怪我人が増え進める階層数が減っていった。
今回はセレストドラゴン王国の精鋭が揃っているため、もう少し早く安定して進めると思いたい。
「なんとしてもベヒモスを倒してダンジョンを討伐するわ」
クロエがオークを切り飛ばしながら宣言する。
「そうだな」
名前付きのダンジョンは100層を超える。
ベヒモスダンジョンが何層あるのかはわからないが、100層を超えた先にいるベヒモスを倒すしかダンジョンを討伐する方法はない。
前へ進むためモンスターを倒し続ける。
2層進んだところで別の部隊と交代する。
20層にある拠点へと戻る。
まだ外で休める範囲ではあるが、今回のベヒモスダンジョンでは討伐に動いている部隊とあまり離れないようにしている。
「まさか本当にダンジョンで草むしりをするとはな」
「僕たちは草むしりしていないけどね」
「まあな」
拠点の地面はダンジョンに生えている草がむしられている。
「ダンジョンに草が生えてこなくなったのなら、草が生えてきた場合はモンスターが復活する合図になるとはよく考えたよね」
「合図になるかもしれないだがな。テラパワーの皆が気づいてくれて助かった」
名前付きのダンジョンであっても、モンスターが外に出てくる状態で復活するのは前例がない。
今もモンスターが再び復活しないとも限らない。
「ダンジョン内で寝られない場合、毎回外に出るのも計画されていたからね……」
「低層、中層ならまだしも深層で外に出るのは時間がかかりすぎるからな」
「うん。それにベヒモス出てきた場合、戦っている部隊とあまり離れるの問題だしね」
「まだベヒモスは出てきていないがな」
1日の進みが遅いのはベヒモスとの戦闘を警戒して魔力を多めに残しているのもある。
「ベヒモス、そろそろ出てきてもおかしくないよね」
「ああ、日数的には今出てきてもおかしくはない」
パーシーと話しながらテラパワーの社員たちが集まっている場所へ向かう。
「ハーバート、調子はどうだ?」
「一日中明るい以外はダンジョンの外と変わりませんよ」
ハーバートは大砲を修理している。
師匠は寝ているのか、戦車の修理で車内にいるのか周囲にはいない。
周囲には大砲と戦車以外にも装甲車が並べられている。
装甲車はテラパワーの社員が使うためにセレストドラゴン王国が用意してくれた。
テラパワーの社員は装甲車をテントの代わりに使っている。装甲車の中であればモンスターが復活してもテントで寝ているより安全。
「俺だけでなくライナスも戦いに出ているから、何かあればセレストドラゴン王国の兵士に相談するんだぞ」
中層はまだ様子を見にくる余裕があるが深層に到達すればそんな余裕もなくなる。
「承知しております。兵士が何度か問題がないか聞きにきていますので、何かあればすぐに相談できる状態にあります」
「それは良かった」
かなり気を遣ってもらっているようだ。
テラパワーの社員たちはセレストドラゴン王国に任せ、ダンジョンを討伐するのに集中できそうだ。




