第93話 燃えるダンジョン
ダンジョン内に火が燃え広がっていく。
燃料に加工した魔石が燃えてうっすらと甘い匂いが漂う。
ダンジョンの草は魔法ではなく魔石で燃やすのが決まった。魔石を使った燃料は一度火がつけばそう簡単には消えない。
甘い匂いから焦げ臭い匂いへと変わっていき、凄まじい量の煙が出てくる。このままダンジョン内にいれば草だけではなく、自分たちも燻され焼かれてしまう。
事前に戦車も退避させており、ダンジョン内には燃料に火をつけるための騎士しかいない。
「退避せよ」
ケルヴィン国王陛下の指示が出る。
燃え広がるダンジョン内を後にして外に出る。
「これで状況が変わるといいんだがな」
「そろそろダンジョン内を進みたいところだね」
「ああ」
ダンジョンの入り口から煙が空に上がっていく。
時間を追うごとに煙の量は増える。
「モンスターが出てきた」
「火の中を通ってくるのは丈夫としか言いようがないな」
「さすがに無傷ではないけどね」
パーシーのいう通り出てきたモンスターは火傷を負っている。
火傷を負った状態でも人を見ると襲いかかってくる。
モンスターが発見された時点で戦車から砲弾が撃ち込まれるため、襲いかかってきても大半は即死するのだが……。
燃え盛る炎の中を通ってくる場合、酸素や一酸化炭素など平気なのかと不思議だが、そもそもモンスターは食事を必要としないと考えられているからな……。モンスターに内臓はあるが、内臓の中に何か入っているのは稀。
モンスターは水に溺れるため酸素は必要なのだと思うが、平気な様子でダンジョンから出てくる。酸素が相当薄い状態でも活動できるのか? いや、火事は一酸化炭素中毒で気を失うのだったか?
ダンジョンとモンスターには謎が多い。
「アイク、火が消えるまで3時間ほどだったわね?」
真剣な表情でダンジョンを見ていたクロエが尋ねてくる。
「ああ、おおよそ3時間燃える量の魔石を加工した燃料をばら撒いてきた。広範囲を燃やすような使い方はしないから時間は大体だがな」
「誤差はダンジョンの入り口から煙が出ているか見ればわかるわ」
「そうだな」
ダンジョンの入り口から上がる煙は凄まじい量で、入り口からダンジョン内が見えない。
魔石だけでは大量の煙は上がらず、草が燃えて煙を上げているのだろう。
「それなら一度拠点に戻るわ」
「そうするか」
3時間後、煙の消えたダンジョンへと再び入る。
「酸欠を心配したがそもそも焦げ臭くすらないな?」
「どうなっているんだろ?」
燃やしたあとは一切残っておらず、不思議な状況。
パーシーも首を傾げている。
「本当に効果があるのかわからなくなってきたな」
「そうだね」
草を抜いてみるが以前と変わらない。
「1日で効果が出るとは考えていない、仮で一週間は燃やし続けると決まっている。燃やし続ければ効果があるかわかるか」
「そうだね」
再び燃料に加工した魔石が地面に撒かれ火がつけられる。
4日燃やし続けたところで変化が訪れた。
燃えた地面がそのまま残っており、ホーンラビットがまばらにしかいない。
「成功した」
4日目で成功するとは……。
効果が出るにしても時間をかけなければならないかと思っていた。
「ようやくダンジョン攻略ね」
クロエの魔力がうねる。
魔力の動きは好戦的に見える。相当鬱憤が溜まっていそうだ。
そして鬱憤が溜まっているのはクロエだけではない、セレストドラゴン王国の騎士たちの魔力がうねる。
ただ立っているだけであるのに威圧されるほどの迫力を感じる。
クロエやセレストドラゴン王国の騎士ほどではないが俺も鬱憤が溜まっており、ダンジョンを進むにしても注意する必要があると思考する。
焦りは最初にベヒモスと戦った時のように死につながる失敗になる。
「ダンジョンへ侵攻する!」
ケルヴィン国王陛下が侵攻宣言するとセレストドラゴン王国の騎士が叫ぶ。
叫び声で体が揺さぶられる。
ダンジョンボスを倒した時のような叫び声。騎士たちの凄まじい気迫を感じる。
心強いと思うのと同時に、やはりクロエを含めた騎士が焦りすぎないか心配になる。心配になっても俺が止められるのはクロエくらい。あとはケルヴィン国王陛下が決めた作戦がうまく機能するのを祈るしかない。
騎士の叫び声が途絶えるとケルヴィン国王陛下の命令が再び聞こえる。
「第一大隊は準備が完了次第ダンジョンの討伐にかかれ!」
アックスオッターの時と同じくダンジョンを進む部隊と休む部隊に分かれる。
「事前に決められた大隊編制は6大隊だったか」
「そうよ。アックスオッターの時より騎士の人数が随分と多いわ。戦車と大砲を数に入れたらもっと増えるわね」
戦う人数と戦車や大砲は増えているが、モンスターも深層から上がって生きている。しかも奇形になったモンスターは強く、少しの油断が命取りとなる。
「クロエも戦車と大砲をうまく使うんだぞ」
「飛ばしすぎないようにするわ」
心配ではあるが俺とパーシーでクロエが行きすぎないように見るしかないか。
俺はアックスオッターのダンジョンで世話になっているからな。クロエに恩を返す必要がある。
たとえクロエが恩を返す必要などないと言ったとしても俺なりに恩を返したい。
「僕たちの大隊の出番はまだ先だし、一度戻って準備しよう」
パーシーの意見はもっともだな。
「そうだな」
「そうしましょう」
ダンジョンから外に出て準備が終わったら、戦闘の順番が回ってくるまで体を休める。
休むのもまた重要な仕事。
戦車や大砲から砲弾が飛んでいく。
低層を抜け中層に達しても砲弾は中層のモンスターを一撃で爆散させる。下半身に当たった場合は上半身が残るため、爆発するのは砲弾の威力というよりもモンスターのコアが破裂しているからだろう。
「低層が想像より早く突破できた理由がよくわかるわ」
「使い潰すつもりで戦車や大砲を使っているからな。倒しているモンスターの数は相当多い」
砲身が熱で曲がってもテラパワーの錬金術師が修理する。
大砲で使う砲弾はダンジョン討伐まで一ヶ月以上の時間があったため、スカーレットドラゴン王国から大量に運ばれてきている。それに深層では大砲の効果がほぼなくなる。中層で使い切るつもりで打ち続けている。
視界が砲弾の火薬によってうっすらとした緑色の煙で充満してくる。
視界が徐々に悪くなっていく。
「すごい煙ね」
「外と違って逃げ場がないからな」
視界が数メートル先しか見えなくなる。
煙の中、砲弾を避けたか耐え切ったモンスターが抜け出してくる。
抜け出してきたモンスターは大砲や戦車の射線に入っていないため、倒す必要がある。
「きたわね」
クロエが前に出る。
「クロエ、味方の砲弾に当たるような失敗はしてくれるなよ!」
「砲弾の飛ぶ位置は把握しているわ!」
把握していると言いながらもクロエの動きは砲弾を掠めるような動きで大胆不敵。大剣を振り回してオークを両断する。
見ているこちらの方が冷や汗をかくような動き。
身体強化しているクロエならば砲弾に当たったところで死にはしないだろうが、怪我は負うだろう。
「俺たちとの距離感は守っている。クロエを信じるしかないか」
俺とパーシーもクロエと離れないよう移動する。
煙の中から現れたオークをバトルアックスで切り飛ばす。霧の中で戦っているようで相手を視認するのが難しいが、視認するのが難しいのはモンスターも同じ。先に発見して攻撃できれば驚くほど呆気なくモンスターを倒せる。
逆にモンスターに先に発見されると一旦は守りに徹する必要がある。
「先に発見されないためにもお互いの連携が重要だな」
「そうだね」
パーシーが返事をしながらオークの頭部を潰す。




