第92話 ダンジョンに生えた草
師匠を含めた皆の視線がモンスターから下がって地面に向く。
「アイザック様、爆発しないのであれば草を取ってこられませんか?」
「調べたいのか?」
「コアと似た色の草は何か関係があるのでは?」
もっともな推測。
だが草は装甲車の外にある。
草の採取を護衛にお願いしてもいいが、どちらにせよ受け取るのに装甲車の扉を開ける必要がある。装甲車の扉を開けるなら俺が採取してもそう変わらないか。
「ハーバート、俺が草を取ってくるが絶対に外に出るなよ」
装甲車の扉を開ける前にハーバートに注意する。
「わかっています」
ハーバートが同意したところで装甲車の扉を開け、素早く目の前に生えている草をむしる。固い地面から生えているためか結構力を入れて引き抜く必要がある。
力の強い俺でも力を入れる必要があるのなら普通の人はむしるのが相当大変そうだな。
草を手に入れると、すぐに装甲車の中に戻って扉を閉める。
「これがダンジョンの草だ」
引き抜いた草を師匠とハーバートに手渡す。
「ほう」
「ほほう」
テラパワーの社員を含めて草に夢中になっている。
「草のようだが葉脈はない」
「下から引き抜いているのに根もありません」
アックスオッターのダンジョンで調べようとは思ったが、後回しになってしまったのだよな。
ダンジョンの討伐後に採取しようと思ったら消えてしま——。
「思い出した。ダンジョン討伐後にモンスターと同じように草も黒い粒子になって消えていた」
皆の視線が俺に集まる。
「つまりこの草はモンスターと同じ存在?」
「ジェームス、ですがこの草は爆発しませんよ?」
「モンスターと同じではあるが、コアとは別物ではないか?」
「つまりコアのないモンスター?」
「色からしてモンスターというよりコアになり損ねたのでは?」
師匠とハーバートが議論を繰り返している。
ハーバートがコアを魔石にかえる液体を取り出して草を詰め始めた。少して取り出すと、柔らかな草が入れた時の形状で取り出される。どう見ても固まっている。
「ジョームスの言う通り、コアに近そうです」
「面白い」
ダンジョンの中であるのに師匠とハーバートはテラパワーの社員を含めて草に夢中になっている。
「アイザック様、追加の草をください」
俺が取らないとハーバートが自力で草をとりにいきそうだ。
軽くため息をつく。
「外に出ようとするなよ」
「わかっています」
二度目の同じような会話を繰り返し、装甲車の扉を開ける。
先ほどとは違う場所の草を素早くむしって扉を閉める。
ハーバートに草を渡す。
「ありがとうございます」
俺も議論に参加したいが、ダンジョン内という環境で研究に集中できない体になっている。常にモンスターに気を配っていないと落ち着かない。
「アイザック様、もう少し草が欲しいです」
「……わかった」
こうなってしまっては諦めるしかない。
草を欲しがる師匠とハーバートに従って何度も草をむしりとる。
「もう少し」
「ああ……」
何度目かもわからない採取のため装甲車の扉を開けようとする。
装甲車周辺の草はむしり終わってしまったため、装甲車から離れなければならない。どう採取するか考えながらも装甲車の扉を開ける。
もう一度草が生えている範囲を確認すると、なぜか装甲車に一番近い位置の草が生えている。最初にむしった位置だと思うのだが……。疑問に思いながらも草をむしって素早く扉を閉める。
草を持ったまま師匠とハーバートに話しかける。
「師匠、ハーバート。草が復活した気がする」
師匠とハーバートが顔を見合わせる。
「草とモンスターは同一の存在である可能性が高いのでは?」
「ジェームスの意見に同意します」
テラパワーの社員たちも頷く。
「モンスターを倒し続ければモンスターの復活速度は落ちると聞いた」
「師匠のいう通りです」
「地面に生えている草をむしればモンスターと同様の効果があると予想できる」
モンスターとコアが同一の存在であれば効果は同じか。
「ダンジョン討伐だが、穴掘りの次は草むしりか?」
ブルドーザーなどの重機を作っておくべきだったか……。
水路作りであれば便利ではないかと考えていたため、案だけは伝えてあるが実際に作ってはいない。
まさかまたダンジョン討伐でまた土木作業するとは想像できない。
「草をむしるのではなく、燃やすなり凍らせるなりして破壊すればいいのでは? 大量に魔石も余っていますから燃料に変えて火をつけてもいいと思います」
「そうか、燃やせばいいか」
ハーバートの案に納得する。
大砲や戦車でモンスターを倒してしまうとコアごと爆発してしまったりもするが、それでも回収できている魔石の数はかなりの量になっている。セレストドラゴン王国がためている魔石の量も凄まじいだろうから大量に使っても問題はないだろう。
「ハーバートの案だと燃えるかが問題になるな」
師匠が提言するとテラパワーの皆が頷く。
「次は燃やしますか?」
「装甲車の中で火は使いたくない」
「それはそうですね」
草がどういう反応するかわからない上に、燃え広がれば酸欠になってしまう。
「アイザック、実験のために大量の草が欲しい」
「大量に必要ならば後で取ってきてもらいましょう」
装甲車を守っている護衛に採取を頼むのは間違っている。
とりあえず今は俺が何回か実験ができそうな量の草を採取していく。身体強化を使って高速で草むしりをして両手で持ちきれないほどの草を採取した。
「一旦帰りますよ」
「ああ」
師匠やテラパワーの社員は草に夢中で返事がおざなり。
まあ、いいか……。
装甲車の運転手に帰還するようお願いする。
ダンジョンから拠点に帰還する。
「皆、拠点に戻った。降りるぞ」
夢中になっているテラパワーの社員に声をかけて装甲車から降りる。
装甲車から降りてすぐに実験を始めようとするため、テラパワーのために用意されている場所にまで連れていく。
「まずは燃やして」
「いや、消化用の水を用意する必要がある」
楽しそうに師匠やハーバートを含めた錬金術師が動き回っている。
他の装甲車に乗っていたパーシー、クロエ、ライナスとテラパワーの社員が合流してくる。
「アイクの方は何か進展があったの?」
パーシーが動き回る師匠を含めた錬金術師を見ながら質問してきた。
「ダンジョンに生えている草がモンスターのコアと同一じゃないかという話がでたんだ」
「確かにモンスターのコアと色は似ているけど……同一?」
「パーシーの疑問はもっともだと思う。草を抜いてしばらくすると復活したから同一の可能性は高いと俺は考えている」
クロエが俺に近づいてくる。
「つまり草を刈り取ってもモンスターを倒したのと同じ効果があるの?」
「まだ確定ではないが可能性は高いと思う。実験次第だな」
「草を刈ればいいのね」
クロエが自らすぐにでも草を刈りに行ってしまいそうなので止める。
「クロエ、今から草が燃えないか実験する。騎士が草を刈り取ったり採取するのは時間がかかるだろう」
「そうね。燃やしてしまった方が早いわ」
「燃やす以外の実験もしたいから草を採取してくれると嬉しい」
「お父様に頼みに行ってくるわ」
クロエがケルヴィン国王陛下の天幕がある方向へと走っていく。
ダンジョンに向かっていかず安心する。
「アイザック様、少々燃えにくいですが草は燃えますよ」
ハーバートが燃えかすになった黒い粉を指さしている。
「効率よく燃やせるか実験を続けてくれ。草は追加で取ってきてもらう」
「楽しみですね」
ハーバートの言葉にテラパワーの社員たちが笑顔で頷く。




