第90話 波打つダンジョン
戦車の砲身から砲弾が飛んでいく。
砲弾はモンスターに直撃すると後ろにいるモンスターも含めて倒していく。
「低層のモンスターであれば、砲弾1発で複数体を倒せるとはな」
「深層のモンスターが混じっていると砲弾が止まる場合もありますが、低層のモンスターであれば複数体倒せます」
ベアトリクス様と砲撃音に負けないよう大声で会話する。
ダンジョンの中は広いといえ四方を壁で囲まれているため音が反響する。うるさくはあるが毎日のように聞いていれば慣れてくる。
長期間、砲撃音を聞いていると難聴になるだろうが魔法で治療してしまう。大きな欠損でなければ身体強化で体は治せる。
「戦車を普通のダンジョンで使いたいところではあるが……」
「入り組んだ通路のある普通のダンジョンでは戦車を入れるのは不可能ですね」
「残念ながら無理か」
もし戦車をダンジョン内に入れられれば、低層のダンジョンであれば戦車のみで攻略できるだろうな。騎士がいらない状態で低層のダンジョンを攻略できるようになれば騎士団は中層以降のダンジョンに注力できる。
実際には不可能な話なのだが。
「アイク」
「パーシー、どうした?」
「ダンジョンが波打ったように見えた。ベヒモスが出てくるかも」
ダンジョンが波打つのはベヒモスが出てくる前兆。
2層へと続く通路があるといわれているダンジョンの奥を見つめる。
10分ほどじっと観察しているとダンジョンが波打つ。ダンジョンがまるで内臓のような動きで波打つ。
「波打った」
「撤退せよ!」
カール殿下が戦車の砲撃を直ちに中止させる。
戦車のエンジンが稼働して大量の水蒸気を上げる。ダンジョン入り口に近い戦車から直ちに撤退してく。
騎士は戦車の撤退後にダンジョンを出るため待機になる。
「ダンジョンが波打つのは気持ち悪いな」
「はい。前回は大砲の修理に回っていたため、自分も初めてダンジョン内で確認しましたが気持ち悪い」
ダンジョンが波打つ姿は何かを吐き出そうとする生物的な動きに見える。
転生してから存在していたため違和感を抱かなかったが、ダンジョンとはなんなのだろうか。
ダンジョンは何もない場所に発生して階層を増やしていく。
普通のダンジョンは光っているのは不気味だが、他は洞窟のような岩肌の見た目をしている。しかし、成長するという点ではただの洞窟でないのはわかっている。
「立っている場所まで波打ち始めたか」
徐々にダンジョンが波打つ周期が短くなってくる。
セレストドラゴン王国が経験した話によると、波打つ周期が短くなるとベヒモスを含めたモンスターがダンジョンから出てくるらしい。時間的な余裕はまだあるが戦車の撤退を急ぐ。
戦車の進路を邪魔するモンスターを騎士が倒していく。
「全ての戦車が撤退した! 我々も撤退する!」
カール殿下の合図でダンジョンから撤退する。
ダンジョンの外に出ると拠点にまで一目散に走る。騎士の撤退が終われば大砲や列車砲から砲撃が再開される。
大砲からの砲撃が再開される。
退避時のダンジョン内の様子から、ベヒモスがすぐにでも出てくるだろう。
「あれがベヒモスか」
丘の上に小山のようなベヒモスが現れた。
相変わらず凄まじい大きさ。
「パーシヴァル。初手は任せる」
「はい」
セレストドラゴン王国の戦い方ではスカーレットドラゴン王国の騎士が役に立たない。薄氷のような魔法もスカーレットドラゴン王国にはありはするが、薄氷との相性が悪いらしい。
どうするか考えた結果、最初に傷を与えて倒しやすくすると決まった。
ベヒモスを含めたモンスターが丘を下ってくるのに合わせて再進行する。
頭上を砲弾が通り過ぎ、モンスターに降り注ぐ。
ベヒモスとの距離が近づいてきた。
「我、スカーレットドラゴンの子なり。ウォールナットスクワローに轟く雷鳴は大地を揺らし、稲妻の雨を降らせる」
パーシーの詠唱がはじまた。
魔力が魔法へと変わり、空気が帯電したかのように弾ける。
「サンダーボルト」
落雷がベヒモスに落ちる。
ベヒモスは体から煙を上げている。
「クガアア」
ベヒモスは苦しむかのように声をあげる。
だが一瞬立ち止まったが、再び歩き始める。
「膝すらつかないか。聞いていたとおり体力が化け物か」
再び歩みを始めたベヒモスを見てもベアトリクス様は動じない。
「我、スカーレットドラゴンの子なり。天をも焦がすドラゴンの息吹は全てを燃やし尽くし、盟友の進む道をつくらん」
今度はベアトリクス様や周囲の騎士が詠唱を始めた。
凄まじい量の魔力が周囲に放出される。
「紅焔」
ベヒモスだけではなく周囲を巻き込んで炎が広がる。
基本的に広範囲魔法は味方も巻き込んでしまうため使い勝手が難しい。ダンジョンの中だと範囲も狭める必要があるが、ダンジョンの外であれば全力で使っても問題ない。
「クガアア」
複数人からの広範囲魔法によって燃え上がるベヒモスは頭を振って苦しんでいる。
ベヒモスといえども複数人からの魔法はさすがによく効くようだ。
「火を消そうと転げ回りすらしないとは化け物め」
魔力がなくなり魔法が消えてもベヒモスは立ったまま。
体を覆う毛は焦げてしまい、所々から皮膚が破れ血が流れている。かなり重症に見えるがまた歩き始めた。
「あれで歩くのか……」
「やはり接近して倒すしかないか」
「行きます」
俺は一部の騎士とベヒモスに向けて駆ける。
ベアトリクス様の魔法によってベヒモス周りのモンスターは全て排除された。あとは接近するだけでいい。
「アイザック卿」
「モンタギュー卿」
俺の隣をモンタギュー卿が走る。
ベヒモスほどでないにしても巨体が駆ける様は迫力がある。
「作ってもらった装備の真価をお見せする」
「楽しみにしております」
ベヒモスの攻撃範囲に入ると前足を使って攻撃してくる。
今回は囮に徹するわけではなく、攻撃してくる左の前足を無視して右の前足へと向かう。
片足で支えている右前足の前に立つ。
バトルアックスを両手でもつ。
「グラアアア」
叫びながらバトルアックスをベヒモスの右前脚に全力で叩きつける。
俺がバトルアックスを振ると同時に、モンタギュー卿のバトルアックスもうなりを上げて振られる。
「モォォオオ!」
モンタギュー卿も叫ぶ。
ベヒモスの足にバトルアックスの刃が食い込みはするが、完全に切断するのは不可能。
俺が切るのを諦めて前足を払おうとすると、モンタギュー卿のバトルアックスが食い込んでいく。モンタギュー卿はそのまま前足を切り飛ばしてしまう。
支えを失ったベヒモスがどうするかといえば攻撃に使っていた左前足で体を支えようとするだろう。当然、左前足にも別の騎士が殺到して両方の前足を払うように計画されている。
左前足も払われ、前足の支えがなくなったベヒモスは頭から地面に突っ込んでいくのが見える。
ベヒモスから急いで距離をとる。
地面にぶつかる凄まじい音とともに、大量の土と石が舞い上がる。
「やはり土はかぶるんだな……」
汚れた甲冑を手入れする手間を考えて面倒に思いながら振り返る。
砂埃の中でベヒモスが頭部を地面につけている。
セレストドラゴン王国の騎士が頭部に駆け上がって剣を振り上げるのが見える。薄氷によって伸びる氷の剣がベヒモスの首に叩き込まれる。
かわるがわるに魔法が使われ、ベヒモスの首が落とされる。
「ベヒモスの攻撃を受け止める必要がなくなった分は安全になったか」
土で汚れてはいるがな。
しかし、ベヒモスを倒しやすくなったところでダンジョンの討伐自体は進んでいない。
ここからどうするべきか……。
「アイザック卿、残党のモンスターを排除しましょう」
「そうですね」
悩むのは後にして、モンタギュー卿とダンジョンから溢れ出てくるモンスターを倒してく。




