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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第88話 ベヒモスダンジョン

 見える範囲のモンスターは討伐された。

 クロエとパーシーには戦闘が終わるまで合流できなかった。

 周囲の騎士に続いて、拠点となっている陣地に戻る。


「甲冑を脱いで整備したいな」


 甲冑が血と土で汚れている。

 自分の見た目が酷い状態だと自覚がある。

 ダンジョン内だと地面が石で土が舞い上がるほどないため、ここまで汚れるのは初めてかもしれない。

 いや、深層ダンジョン討伐の時、ユニークモンスターのバンパイアと戦った時の方が酷いか。汚れるどころか甲冑すらなくなっていたからな……。


 拠点に戻るとヘルムを脱ぐ。

 ヘルムをかぶっていたというのに、髪の毛まで埃っぽい気がする。

 全身が砂まみれになった気分。


「体を洗いたいが難しいだろうな」

「ダンジョンに水を流し込めないなら周辺に水がないんだと思う。体を洗うには後方に下がらないと難しいだろうね」


 気づけばパーシーが横にいる。

 パーシーもヘルムを脱いで眉尻を下げて困り顔。甲冑がひどく汚れており、俺と同じようにベヒモスが舞いあげた土をかぶったようだ。


「パーシーも土をかぶったか」

「舞い上がった土をかぶっていない人はいないんじゃないかな……」


 パーシーの隣にはクロエが立っている。

 無事な様子でよかった。


「そういえばクロエを注意したが、ベヒモスと戦いながら俺も焦っていたと気づいた。作戦を聞いて様子を見るべきだった」


 自分の失敗を伝えると、パーシーとクロエが頷く。


「僕もベヒモスが起き上がったところで気づいたよ。途中から様子見に徹していた」

「そうね。どう戦えばいいのかわからなかったわ」


 スカーレットドラゴン王国から一週間ほどで到着したが、どうやら一週間という期間は気づかないうちに焦りを生み出していたようだ。役に立ちたいという気持ちが先行しすぎていた。

 今回の戦い方だと死ななかったのは運がいいだけだ。


「まずは戦い方を聞こう」

「ええ、そうしましょう」


 クロエが素直に同意する。

 お互い、今回の戦闘で冷静になったようだ。死ぬ前に気づけて良かったが、もっと冷静になるべきだな。


「ところで誰に聞くべきだろうか?」

「お父様に誰か紹介してもらいましょう」


 ケルヴィン国王陛下がいた天幕に戻る。

 拠点の中を騎士がまだ慌ただしく動き回っている。ベヒモスを倒して一段落したように思えるが、まだ何かあるような動きに見える。やはり戦いの順番を聞いた方が良さそうだ。


「お父様」


 天幕の中でケルヴィン国王陛下が血を拭い取っている。

 ケルヴィン国王陛下の動きから怪我を負っている様子がないため、おそらくベヒモスの血。薄氷でベヒモスを切ったうちの一人なのだろう。

 薄氷自体が大量の魔力を必要とするため、騎士の中でも扱える人が限られる。

 王族であるケルヴィン国王陛下は魔力が多いため薄氷を確実に扱える。


「クロエ、ろくに説明もせず戦わせてすまなかった」

「いえ、私も気が急いていました」

「カールもクロエと同じように気が急いていたと言っていた」


 ケルヴィン国王陛下の近くにいるカール殿下も焦っていたか。


「お兄様も焦っていましたか……。お父様、ベヒモスとの戦いについて聞ける騎士を紹介してくださいませ」

「騎士か……」


 ケルヴィン国王陛下が迷った様子を見せる。


「問題があるのですか?」

「ベヒモス討伐後、ダンジョン内に入ってモンスターを間引く。私は魔力を使い切ってしまったため休むのだが、他の騎士はダンジョンへと向かう」

「これからダンジョンの中へ……」


 それで拠点の騎士は忙しそうに動き回っていたのか。

 まだ討伐は終わりではなかったわけだ。


「ダンジョン内部のモンスターを倒した後であれば騎士を紹介できる」

「……お父様、ダンジョン内での戦いを見にいくのは可能ですか?」


 ケルヴィン国王陛下が黙り、血を拭いながら考えた様子を見せる。


「……ベヒモスとの戦いのように手順が決まっているわけではない。入り口周辺のモンスターを狩るだけであり、見るだけであれば問題ないだろう」

「見るだけにするわ」


 ダンジョンへ行こうとするクロエを止めるか迷ったが、ケルヴィン国王陛下の説明で止めるのをやめる。ベヒモス以外は倒すのにそこまで苦労していたわけではない。戦闘を見ているだけであれば俺やクロエの実力なら問題はない。

 それに俺もダンジョン内部がどのようになっているかは気にならないといえば嘘になる。


「ダンジョンへの侵攻は砲撃が止んでから始まる」

「ベヒモスを倒してすぐに中へ向かわないのね」

「ベヒモスが引き連れてくるモンスターは一度に全てが外に出てくるわけではない。しばらく砲撃でモンスターの数を減らした方が騎士の体力を温存できる」


 魔力や体力を温存して継続的な戦闘を続けるため、騎士は一度拠点に下がったのか。

 一度下がってダンジョンに向かうのは普通のダンジョンとは違う戦い方。ベヒモスダンジョンができてから戦い方を模索した結果か。少しでも戦闘を楽にしようとする苦労がうかがわれる。


「砲撃が止むまで待つわ」

「呼ぶので休んでいるといい。それと戦いについて話せる騎士を選んでおく」


 ケルヴィン国王陛下の言い方からして時間があるようだ。




 予備の甲冑に着替え、汚れた甲冑を磨いていると砲撃音が止む。


「砲撃音がないと静かだね」

「そうだな。音がないのが正常なんだが、違和感がすごい」


 パーシーと喋っていると騎士がダンジョンへ向かうと呼びに来た。

 ダンジョンに見学に向かうのは俺たちだけではなく、カール殿下と一緒にダンジョンへと向かう。

 今回は戦闘に参加しないと決めているため、前を進む騎士の後ろをついていく。


「アイザック、ベヒモスの気を引くために囮になっていなかったか?」


 カール殿下に声をかけられる。


「はい。怪我はしませんでしたが、戦い方について聞いてから参加すべきだったと後悔しています」

「後悔しているのは私もだ」


 カール殿下と喋りながらも、ベヒモスと戦った時とは違って周囲を警戒しながら観察する余裕がある。

 セレストドラゴン王国の騎士は皆が歩いている。

 どうやら装甲車を使っていないようだ。というか戦車も見当たらない。


「カール殿下、自分の記憶違いでなければ戦車もスカーレットドラゴン王国から輸送されていませんでしたか?」

「確かに戦車が見当たらない」


 大砲と違って戦車は砲弾の飛距離がないが、自走できるため移動させるのが楽。


「戦車はダンジョンの構造によっては直接ダンジョン内に入れられます」

「ベヒモスダンジョンがどうなっているか見る必要があるな」

「はい」


 大砲や戦車を送ったスカーレットドラゴン王国でも運用方法の手引きなどなく、まだ試行錯誤している段階。急に新しい武装である大砲や戦車を渡されたセレストドラゴン王国が戦術の中に大砲を組み込めている方がすごいといえる。

 さらに効率的に運用するためにできる助言をした方が良さそうだ。


 緩やかな丘を登ってベヒモスダンジョンの入り口にたどり着く。


「ベヒモスより明らかに小さな入り口……どうやってベヒモスが出てくる?」


 ダンジョンの入り口は大きいが、10メートルは余裕で越えるであろうベヒモスよりは小さい。

 皆とヘルム越しに顔を見合わせて首を横にふる。

 カール殿下の疑問に答えられるものはいない。


「父上に後で尋ねておくか」


 疑問を残したままダンジョン内へと進む。

 ベヒモスダンジョンの内部はアックスオッターの時と同じで、入り口から降りると大きな空間が広がっている。足元にはモンスターのコアと同じ色の草が生えている。

 このダンジョン構造であれば戦車を内部に入れられる。


「カール殿下、戦車を入れられそうです」

「そのようだ」


 カール殿下の顔はヘルムで見えないが、声から上機嫌なのが想像できる。

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