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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第86話 ベヒモス

 寒気がするほど異質なベヒモスダンジョン。


「ベヒモス出現!」


 叫ぶような声が拠点に響く。

 天幕にいる人の顔がこわばる。

 ケルヴィン国王陛下が天幕の中から外に出ていく。


 クロエやカール殿下が続く。

 俺もまた皆の後ろをついて天幕を出る。


 天幕から出て丘の上を見上げる。

 小山のようなモンスターが丘の上を歩いている。

 ベヒモス。

 息を呑むほどの存在感と大きさ。


 拠点から大砲を撃ち込んでいるため、今いる位置が2キロ以内の場所だと思われる。

 遠目にでも異常に大きいのがわかる。


「あれがベヒモス」

「大きい」


 大砲の連射速度が一気に上がる。

 大量の砲弾が丘に向かって放たれる。

 当然ベヒモスには効果がないと思われる。しかし、先ほどケルヴィン国王陛下がベヒモスはモンスターを引き連れて外に出ると言っていた。つまり砲弾はベヒモスに向けて撃ち込んでいるわけではないのだろう。


「騎士たちよ! ベヒモスを討伐する!」


 ケルヴィン国王陛下が声を上げ、ヘルムを被りながら前に出ていく。

 クロエを見て分かっていたが、セレストドラゴン王国もまた王族が先頭に立つのだな。


「第二騎士団と合流する前に戦闘か」

「クロエに同行してよかったね」

「そうだな」


 盾と斧を取り出し、獣化する。

 魔力のそう多くない俺が魔法を使うより、少しでも身体能力が上がる獣化を優先した方が力になれる。


 大砲から数百メートル離れたところで止まる。

 頭上を大砲や列車砲の砲弾が飛び越えていきベヒモス周辺に落ちる。砲弾が直撃した場所は土が弾けて土埃が舞い上がる。

 ダンジョンがある丘の周辺は草がなくなり、地面が捲れ上がって土が露出している。


『グオオォォゥ』


 列車砲の1発がベヒモスに当たった。

 ベヒモスが起き上がるようにして咆哮を上げている。

 列車砲の砲弾が直撃しても咆哮を上げる程度か……。予想はしていたが、列車砲では致命傷にはならないか。


「大砲の砲弾は気にもとめていないけど、列車砲なら多少は効果があるようだね」


 俺の考えとパーシーの考えは違った。

 確かに砲弾で痛みを感じて咆哮を上げているのであれば、多少は効果があるのか。


「引き付けて魔法を使う!」


 ケルヴィン国王陛下が指示にセレストドラゴン王国の騎士たちは落ち着いた様子。

 どうやら討伐には手順があるようだ。


「お父様、魔法はベヒモスに使うのですか?」

「いや、まずは取り巻きを倒す。深層のモンスターも混じっているため弱い魔法では倒せない。ベヒモスとの戦いに魔力を残す必要もあり、広範囲に凍らせるに止めている」

「分かったわ」


 クロエとケルヴィン国王陛下が話している間にもモンスターが丘の上から近寄ってくる。おそらく大砲の音によって来ているのだろう。

 砲弾がモンスターに直撃するのが見える。低層のモンスターであれば一撃で倒され、中層のモンスターは吹き飛んでいく。深層のモンスターは大砲では効果が薄いのかよろめく程度。


 先行するモンスターの後ろをベヒモスがゆっくりと近づいてくる。

 焦茶色の毛に覆われ、口から鋭い牙が生えている。猛獣のような体つきをしており、動きが遅いようには見えない。

 何よりありえないほど大きい。


「フリーズ」


 モンスターが目前になると魔法が発動する。

 クロエだけではなく、セレストドラゴン王国の騎士が同じ魔法を使うとモンスターが凍っていく。


「ベヒモスを倒せ!」


 ケルヴィン国王陛下がさらに前に出ていく。

 俺も前へと進む。

 ベヒモスを倒す手順まで教わる時間がなかったため、若干後方の位置でどう戦うかを確認する。


「クロエ、離れすぎるな」


 早速クロエが守れる範囲外に進んでしまったため止める。


「うん」


 クロエは焦っているのか口数が少ない。動きに注意しておかねば。

 しかし、クロエばかりを見ているわけにもいかない。魔法の範囲外だったモンスターが襲いかかってくる。


 見える範囲だけでもモンスターの種類は様々。低層のクローベアー、グレイトウルフ。中層のゴブリン、オーガ。深層のヘルハウンド、ナイトメア、バーゲストなど。

 低層中層のモンスターはバトルアックスを振り抜いて倒し、深層のモンスターは盾で攻撃を受け止める。攻撃を止めたモンスターは周囲の騎士たちがモンスターにとどめをさしていく。

 周囲と連携しながら少しでも前へ進む。


「大きすぎだろう」


 徐々にベヒモスに近づいてきた。

 遠目でもベヒモスが大きいのは分かっていたが、近づくと大きさが際立つ。

 ダンジョンボスのヘカトンケイルとどちらが大きいのだろうか……。見上げる状態で比べるのは難しい。


「近づいているけど、どうやって倒すんだろう?」


 パーシーの疑問はもっともだ。


「魔力の回復は後方に下がれば早い、ベヒモス1体なら複数人が魔法を全力で使えば倒せそうだがな」

「足を一本切ったところで意味がなさそうだしね……」

「ああ。四つ足で歩いているからな。ヘカトンケイルのように倒れはしないだろう」


 ベヒモスの足元に近づくと足に凶悪な爪が生えているのが見える。

 足の爪や牙を見るとマンモスとは似ても似つかない存在に思えてきた。体はマンモスというより、どちらかというと熊や猫のような猛獣に近い体つきをしている。


「ヘカトンケイルより足が太いよ」

「しかもベヒモスが動いている上に爪もある。足を切るのが相当難しそうだな……」


 ベヒモスが一歩動くと地震のように地面が揺れる。

 本当にどうやって倒すんだろうか……。


 セレストドラゴン王国の騎士はまだ進み続ける。

 前に進む騎士が長く伸びたベヒモスが作る影の中に入る。

 ベヒモスは一歩、一歩ゆったりとするような動きで進んでいたが動きが変わる。前足にあたる前足を横に振り回す。

 まだ距離があるというのに、腕が振られた風圧で体が押される。


「甲冑を着込んでいるのに吹き飛ばされそうだよ」

「前足の一撃を受け止めるのは難しそうだ」

「セレストドラゴン王国の騎士は受け止めるみたいだよ?」


 パーシーの言った通り、盾を持った騎士がベヒモスの前に出ていく。

 ベヒモスの一撃を受け止めると大量の魔力を持っていかれそうだ。


「攻撃を受け止めずに避けて攻撃した方が良さそうだがな」

「盾を持った騎士以外は後ろ側に回っているよ」


 パーシーに言われて全体を確認すると、大半の騎士が大回りしてベヒモスの背後に回ろうとしている。

 前方で盾を構えているのは注意を引くためか。


「意味があるのなら俺もいく」

「僕はクロエを連れて背後に回るよ」

「ああ。今回は倒し方を見て覚えた方がいい、前に出過ぎないようにな」

「アイクこそ無理しないんだよ」

「分かっている」


 一度注意してからクロエは前に出過ぎるのはなくなった。

 それでも口数が少なく、余裕がないのがわかる。


「クロエ、自分の動きがいつもと違うのは理解しているか?」

「そうね。アイクに注意されてから前に出過ぎないよう注意しているわ」

「ベヒモスは1体で魔力を気にせず使えば確実に倒せる。ここはダンジョンの奥ではないため魔力の回復も容易。そこまで焦る必要はない」

「……言われてみればその通りね」


 魔力の回復については先ほどパーシーと同じ話をしたのだが、クロエは聞いていなかったようだ。

 今のところ戦闘には余裕がある。

 襲ってくるモンスターの中に深層のモンスターが混じってはいるが、全部が深層モンスターではないため倒すのはそう難しくない。今も戦いながら会話する余裕があるほどだ。

 クロエはそれでも戦闘に集中してしまっていたようだ。


「クロエは視野が狭くなっているように思える。今日はパーシーの指示を聞いておくんだ」

「分かったわ」


 クロエの悩む様子のない返事を聞いて安心する。

 返事を少しでも迷うようなら俺も後方に回っていた。パーシーのみで暴走するクロエを制御するのは難しい。

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