第85話 バッファローヒル
列車は2日かけてバッファローヒル近くまで来た。
聞いていた通りにバッファローヒル行きの線路は混んでいたようで、近くまで来るのに時間がかかった。
というか現在も目的地の近くで列車が動かない。駅でもない場所で列車が停車してしおり、カール殿下の元に騎士が立ち替わりに来て報告している。
「荷下ろしに手間取っているようで、列車から降りて車で移動した方が早いようだ」
目的地は目前であるのに数時間待っている。
このまま列車に乗っていてもすぐには動かないようだ。
「お兄様、乗り換えましょう」
「そうだな」
どう動くか決まると早い。
列車から降りると線路が引かれている場所から近くの道まで移動する。
遠目には山が見え、周囲は草の生えた小高い丘があって地面が波打っている。ダンジョンまでまだ距離があるようで戦闘している様子は見えない。
「車両が到着するまで待機」
待機していると花火のような音がまばらに鳴り響いているのに気づく。
上空を見てもまだ明るい。花火を打ち上げるにしても今はダンジョン討伐中で相応しいとはいえない。
周囲を見回しても近くには音がするようなものはなく、見える範囲外から音が聞こえてきている様子。
「ああ……これは大砲の音か」
「あ、そうだね」
今まで近距離から中距離でしか大砲の音を聞いていなかったため、遠距離で音を聞くのは初めてかもしれない。
時々大きい音が響くのは列車砲だろうか。
外だとよく聞こえるが、列車内だと車両の防音性と機関車の駆動音もあって聞こえていなかったか。
「列車砲らしき音と大砲の音が同じ方向から聞こえてくる。まだダンジョンまで10キロ以上あるのか?」
「歩いて行けない距離ではなさそうだけど、近くはなさそうだね」
大砲の音を聞いていて気づく、音が続いているのは戦闘が続いている証拠。しかもダンジョンの中にはまだ入れていない。
現地が一体どうなっているのか想像もできない。
クロエとカール殿下は大砲の音がする方向を向いている。
セレストドラゴン王国の騎士たちも同じ方向を向いており、全員から焦りを感じる。
全員で暴走されるとパーシーと二人では止められない。少々心配である。
口数が自然に少なくなり、焦れるような時間が経過すると蒸気を上げながらトラックが走ってくる。
「乗車せよ」
トラックは複数あるが数は多くない。
一台のトラックに詰めて乗車する。クロエやカール殿下も騎士と同じトラックに乗り込む。
しばらくするとゆっくりとトラックが動き出す。
道中、列車砲の近くを通り過ぎる。
耳栓も何もしていないため、凄まじい音が鼓膜を震わせる。
外を確認すると列車砲の砲身が3つ見える。1つは試験用に送られたもので、残り2つは追加で送ったものだろう。
ゆっくりと1時間ほど走ったところでトラックが止まる。
大砲の音が近くなり、砲弾が飛んでいるのが遠くに確認できる。
トラックから降りると甲冑を着て前線へと向かう。
緩やかな丘の麓に陣地が組まれていた。
大量のモンスターがいるのを想像していたが、思ったよりは数が少ない。戦っている騎士の数はそう多くはない。
騎士の汚れた姿から、疲労しているのは間違いなさそう。
なぜダンジョンに侵攻しないのか不思議な様子で、想像していた最悪の状況には見えない。
砲弾が丘の頂上付近に飛んでいく。
大量に並べられた大砲から砲弾が飛び出ている。
「ダンジョンは丘の上か?」
「そうかも」
周囲を見回しながらもカール殿下は拠点を進んでいく。
立派な天幕の前にまでくる。
「ケルヴィンお父様」
「クロエ、カール」
クロエの父、つまりセレストドラゴン王国国王。
ケルヴィン国王陛下はクロエと同じ青い髪に白い角。背丈は2メートル近くあり、着ている甲冑の大きさから筋肉が発達しているのが想像できる。
年齢はルーファス国王陛下より若いように見える。
他国の国王の前であるが、ダンジョン討伐中であるため跪く必要はない。むしろ跪けないのが逆に落ち着かない。
大人しく紹介されるまで待つ。
「新しい名前付きダンジョン、ベヒモスダンジョンが発生したときいて帰ってきました」
「スカーレットドラゴン王国で発生した新しい名前付きダンジョンは討伐されたと聞いたが、戻ってくるのはまだ先になると思っていた」
「ルーファス陛下が配慮してくれました」
カール殿下ではなくクロエが話す。
クロエは国に帰るのが久しぶりなのもあって父親に久しぶりに会うのだよな。ダンジョン討伐でなければもっと楽しい再会であっただろうに。
「スカーレットドラゴン王国のダンジョンはどう討伐した?」
「ダンジョンに水を入れ、ダンジョンボスを溺死させて倒しました」
「溺死か。ベヒモスダンジョンでもできればな……」
ケルヴィン国王陛下が顔をしかめる。
どうやらダンジョンの周辺には大きな水源がないようだ。
「私とお兄様が先行していますが、スカーレットドラゴン王国から増援が来ます」
「さらに増援を送ってくれたか。大砲を含め非常に助かっている」
「大砲をメンテナンスするため、大砲を作ったテラパワーの社員も来てくれます」
「助かる。大砲は修理しているが、精度が落ちたと報告を受けている」
大砲を使い続ければ熱で歪んでいき、精度が落ちていくのが予想できる。
セレストドラゴン王国にも錬金術師はいるだろうが、技術について伝達する前であるため修理するにも難しいのだろう。
「ケルヴィンお父様、アイザックとパーシヴァルを紹介します」
「クロエのパーティーメンバーだったな」
「はい。アイクはテラパワーの代表でもあります」
クロエの紹介後、ケルヴィン国王陛下と挨拶を交わす。
「私はケルヴィン・オブ・セレストドラゴン。助力を感謝する」
「ケルヴィン国王陛下、自分はアイザック・オブ・アックスオッターと申します」
「パーシヴァル・オブ・ウォールナットスクワローと申します」
ダンジョン討伐中であるため、簡単な挨拶で終える。
「ところでケルヴィンお父様、なぜダンジョンに攻め入らないのですか? モンスターがそこまで多いようには見えません」
クロエのいう通り、攻められそうな数のモンスターしかいない。
「定期的にベヒモスダンジョンに入っている」
「定期的? 入って戻ってくるんですの?」
「倒してもモンスターがすぐに復活する。ダンジョンの奥に行けば死ぬだけとなる」
「ダンジョンからモンスターが出てくるようになっても復活速度が速いですの!?」
ダンジョンに核を与えると、核の効果が続く限りはモンスターの復活速度が上がる。大量に与えるとモンスターは動きすらしなくなる。
竜騎士学院にあった資料によると、核を与えた効果が続いたまま成長が終わると動かなかったモンスターが動き出して外に出てくる。モンスターが出てくるようになると復活速度も元に戻ると書いてあった。
「さらに定期的にベヒモスがモンスターを引き連れてダンジョンから出てくる」
ベヒモスがモンスターを引き連れてダンジョンを出てくる!?
30体ほどのベヒモスがいるという話だったが、今周囲にはベヒモスがいる様子はない。
30体以上を既に倒しているのか。
「ケルヴィンお父様、スカーレットドラゴン王国で発生した名前付きのダンジョンと違いすぎます」
「セレストドラゴン王国にある文献とも合致しない。普通の名前付きダンジョンであれば様子を見るが、ベヒモスダンジョンはどのような被害を出すかわからず討伐する必要がある」
説明を聞いただけで放置できないと判断したのも理解できる。
ベヒモスダンジョンは名前付きのダンジョンにしても異質すぎる。




