第84話 セレストドラゴン王国
船がシープウィードを出港して大海原を進む。
船は大きな煙突から大量の蒸気を上げながら波を切り裂いていく。
船員に聞いたところ、セレストドラゴン王国までは天候や海流にもよるがおよそ4日。通常大陸を移動するには倍ほどの日数がかかるが、海流の流れと半島の先にあるシープウィードからだと4日で移動できる。
帆船の時代であれば航海は日数が安定せず大変であったらしいが、今はエンジンの動力によって船が動いているため基本は4日以内に到着できる。
日数が大幅に狂う場合は嵐など起きた場合。昔だと転覆の危険もあったとか。
「サウスリング大陸が見えてきた」
晴天の海は遠くまで見通せる。
船首が向いている方向にセレストドラゴン王国があるサウスリング大陸が見えてきた。
航海中に嵐などもなかったため、予定通りに到着しそうだ。
遠目でも多くの船が停泊しているのが見える。
「帰ってきたわね」
クロエが真剣な表情で大陸がある方を見る。
俺とパーシーはセレストドラゴン王国の船に乗り込んでいる。
テラパワーや第二騎士団は別の船に乗っており、俺とパーシーだけクロエと行動を共にするため特例で乗船している。いや、正確にはパーシーの従者も乗り込んでいるか。
俺の従者であるライナスはテラパワーと行動を共にしている。テラパワーといえばハーバートにサブリナの話聞けていない。
「セレストドラゴン王国を見たのは初めて。クロエ、港がある街はゴートストーンだったっけ?」
パーシーがクロエに尋ねる。
「ええ。セレストドラゴン王国最大の港がある街、ゴートストーンよ」
シープウィードがスカーレットドラゴン王国で最大の港だったように、ゴートストーンもまたセレストドラゴン王国最大の港。大陸から陸地が半島のように飛び出ているのも似ており、海を跨いで二つの港は対のようになっている。
シープウィードとゴートストーン二つの港は、国同士を移動するのに最短。両国の往来を考えると港が大きくなるのは当然である。
大陸が見えてから数時間走ると船がゴートストーンの港に入港していく。
シープウィードも凄まじい混雑であったが、ゴートストーンも同じように人で溢れている。
船の上から見るゴートストーンはシープウィードと作りが似ている。港の中まで線路が引かれており、列車が港の中を走り回っている。
中には列車砲を運ぶ列車の姿も見える。
「このままダンジョンがある街の近くに行くんだったか?」
「ええ。大砲などを船から降ろして運搬するのは任せるわ」
船が着岸すると船にタラップが設置される。
荷物を持って船から地上に降りる。
地上に立ったというのにまだ体が揺れている。
初めてセレストドラゴン王国に来たが港の様子はそう変わらない。
様々な獣人が忙しそうに動き回り、働く人の声で騒がしい。
港であるため潮風の匂いも変わらない。
船の前に魔石列車が蒸気を上げながら停車する。列車の車両に使われている色合いがセレストドラゴン王国の青と白で統一されているのが、列車自体は見た目はそう変わらないように見える。
列車に使用されている色の違いから国を移動したのだと感じる。
「列車の規格はスカーレットドラゴン王国とセレストドラゴン王国で同じなんだったか?」
「そうね。列車が発明された時に規格を合わせたと聞いているわ」
「おかげで列車砲も直さずに運べるわけか」
線路の幅など列車に関する規格が違ったら直す手間が大変だった。
普通の車両でも大変だというのに、列車砲の改修となれば大事。
「アイク、パーシー、乗るわよ」
俺が返事する前にクロエは列車の先頭車両に乗り込んでいく。
パーシーの方を見ると、パーシーが俺を見ている。
「クロエが焦っているな」
クロエはスカーレットドラゴン王国では冷静そうであったが、セレストドラゴン王国についてから焦るのではないかと思っていた。
「予想はしていたけどね。一人でダンジョンに行かないように船を同じにしてもらったからね」
「ベアトリクス様も危惧していたのか別行動の許可が出たからな」
パーシーと話しながらも列車に乗り込む。
スカーレットドラゴン王国と同じように先頭列車は前半分に会議できるように机が置かれている。後ろ半分にはボックス席が設置されている。
ボックス席にクロエが座っている。
クロエの対面に俺とパーシーは座る。
「目的地はバッファローヒルだったか?」
「ええ。ゴートストーンからそう遠くない侯爵領よ」
「他国ではなく侯爵領か」
侯爵領で名前付きのダンジョンを発生させたのには驚いている。
ただアックスオッターで名前付きのダンジョンを発生させてしまったため、絶対にないとは言い切れない。
デレクのような存在がセレストドラゴン王国にいないとも限らない。
「まだ名前付きのダンジョンが発生した理由はよくわかっていないけれど、バッファローヒル侯爵がダンジョンに核を与えるとは思えないわ」
「デレクのような後継がいたりは?」
「私がスカーレットドラゴン王国に留学する数年前に代替わりしているの。次の代に変わるには早すぎるわ。それにカールお兄様が侯爵はダンジョン討伐に熱心だと言っていたわ」
やはりエリクサー・ラボラトリーが暗躍しているのだろうか。
クロエと話しているとカール殿下が車両に乗り込んでくる。
先頭車両は騎士団の役職を持つ人が乗る車両であるため、俺とパーシーは場違いに思えてくる。
後ろに移るわけにも行かないため邪魔にならないようにする。
「クロエ、バッファローヒルまで2日以上かかるそうだ」
カール殿下の表情が硬い。
焦っているのはクロエだけではないようだ。
「お兄様、駅を無視する専用列車であれば1日で到着できませんでしたか?」
「バッファローヒルに向かう列車の数が多いため、遅れが生じているようだ」
「数が……仕方がないわね」
バッファローヒルに向かうための話だけでダンジョンについて話が出ていない。
邪魔しないようにと思っていたが、ダンジョンについての情報は欲しい。
「ダンジョンはまだ討伐されていないのですか?」
カール殿下は小さく口を開けてから頷く。
「すまない、伝え忘れていた。まだダンジョンの討伐はされていない。地上のモンスター掃討に苦労しているらしい」
「掃討に苦労しているのはダンジョンボスのベヒモスですか」
「随分とダンジョンから出てくるモンスターが多いようだ」
モンスターの数が多い?
タートルジェイドとはまた違うのか?
「名前付きのダンジョンは出来たばかりなのですよね?」
「私の記憶にはバッファローヒルに名前付きのダンジョンがあるとは記憶していない」
カール殿下の言葉にクロエも頷く。
新しく発生した名前付きダンジョンなのは間違いないようだ。
「タートルジェイドにできた新しい名前付きダンジョンではそこまで数は多くなかったと思いますが」
「私もそう記憶している。ベヒモスが出てきているため、普通の状況とは大きく違うのかもしれない」
ダンジョンボスが外に出てくるなど初めて聞いた。
名前付きダンジョンがそもそも特殊であり、毎回同じような結果になるとは限らないか。そもそもダンジョンに核を与えるような状況は普通あり得ない。どのような状況になるか知っている人はいない。
「バッファローヒルに行って確かめるしかありませんか……」
「私も直接確認するしかないと考えている」
カール殿下が少し間を開けて再び口を開く。
「バッファローヒルの名前付きダンジョンはベヒモスダンジョンと名付けられた」
「ベヒモスダンジョン……」
ダンジョンの名前を聞くと同時に列車が動き始める。




