第83話 テラパワーの社員たち
皆の到着が遅いと思っていると、トラックが目の前に止まる。トラックの荷台には人が乗っており見覚えのある顔が揃っている。テラパワーの社員だ。
幌すらない荷台に乗るのは危ないが、港内は低速でしか走れないほど混んでいる。そこまで危険はないか。
「アイザック、呼んでいると聞いたが何かあったか?」
荷台ではなくトラックの運転席から師匠が降りてくる。
トラックを運転していたようだ。
師匠はテラパワーの出資者の一人で、共同代表の立場なんだがな……。
一応共同代表と言ってしまいそうになる感じではある。
「テラパワーがセレストドラゴン王国へ向かって欲しいとルーファス国王陛下にお願いされました」
「……大砲のメンテナンスか」
さすが師匠、すぐにセレストドラゴン王国へ向かう意味に気づいた。
「その通りです。騎士の俺だけであればすぐに頷くのですが、社員は一般人ですから意思を聞く必要があります」
「堅苦しいが会社の規模を考えると仕方がないか」
俺は頷く。
師匠もまたテラパワーが小さな会社だった時の感覚が抜けきっていないようだ。
「アイク、テラパワーがセレストドラゴン王国に行くの?」
隣にいたクロエが尋ねてくる。
「ああ。ルーファス国王陛下から頼まれた。タートルジェイドと同じように希望者を募って向かう」
「民間人であるテラパワーの社員が有志になるのは当然ね」
クロエが頷く。
「アイクはどうするの?」
「俺は第二騎士団としてセレストドラゴン王国に行くのが決まっている」
「第二騎士団が行くのね」
クロエはテラパワーと第二騎士団がセレストドラゴン王国に行くのを知らなかったようだ。
連絡の齟齬があったのか、クロエがシープウィードに行ってから決まったのか……どちらにせよスカーレットドラゴン王国が慌てているのがよくわかる。
クロエと話しているとトラックが集まってくる。
トラックの荷台にはやはりテラパワーの社員が乗っており、荷台から降りたテラパワーの社員が周囲に集まる。
会社が経営統合や買収で大きくなって以降、会社の工場が分散してしまった。社員全員が集まるような機会もなくなり、会社の社員数が数字上増えたのは知っていたが実際に集まったところは見ていない。
周囲に社員が増えていくと、テラパワーが大きくなったのだと理解させられる。
「こんなに大きな会社になっていたのか……」
おおよそ一万人がテラパワーに所属している。
弾頭や弾薬の生産はまだ王都で続いており、シープウィードにいるのは半数に満たないと思われる。
それでも数千人が集まると凄まじい。
「追加で企業を買収したため以前より規模が大きくなっております」
「サブリナ」
いつの間にかサブリナが隣にいた。
サブリナの隣にはハーバートがいる。
「全ての製品の注文が減るどころか増え続けており、追加で条件の良い企業を買収いたしました」
「サブリナの決定に異議はない。俺は経営を放り投げてタートルジェイドにいってしまったからな……」
「経営を放り投げるのは錬金術師の祖父や父で慣れています。バレットアームズは私と母が経営していましたから」
テラパワーの共同創設者であるライナスと師匠を見る。
俺、ライナス、師匠。三人とも錬金術師。
「錬金術師は経営者に向いてない」
俺の言葉と同時にライナスと師匠が頷く。
サブリナが顔に手を当て、ため息をつく。相当苦労させられた記憶がありそうだ。そして今後は俺たちが苦労させる。
すまないサブリナ……。
直接言ったら怒られそうな気がしたので、心の中で謝っておく。
「アイザック様、そろそろ呼んだ理由を説明してください。人が集まりすぎて迷惑になります」
「そうだな」
俺の姿が見えるようにトラックの荷台に立つ。
「皆、よく集まってくれた」
全員に聞こえるように声を張ると、社員たちの視線が俺に向くのがわかる。
「セレストドラゴン王国に新しい名前付きダンジョンが発生した。新しい名前付きのダンジョン討伐にテラパワーが開発した大砲が有用であるとルーファス国王陛下が考えておられる」
社員たちの顔に笑顔が浮かぶ。
俺もそうだったが、大砲の有用性をルーファス国王陛下が認めたというのが嬉しいのだろう。
「セレストドラゴン王国に列車砲、大砲、戦車などを送っているのは、シープウィードの港で点検している皆が知っているところだろう」
社員たちが頷く。
「現在、シープウィードからセレストドラゴン王国に列車砲などを送った後、誰が送った列車砲を整備するのかが問題となっている。友好国であるセレストドラゴン王国にテラパワーの支社を作るという話も出てはいるが、現在まだ支社はない」
社員たちの顔が強張る。俺が何を言いたいのか察したようだ。
「ルーファス国王陛下はテラパワーに強制ではなく協力を願った。タートルジェイドの時同様にセレストドラゴン王国へ向かう有志を募る」
明らかに安堵した様子を見せる社員もいる。
鍛えていない一般人がダンジョン討伐に向かうとなれば怖いのは理解できる。テラパワーの社員は自分たちが作った大砲やガトリングの威力を知っており、モンスターがガトリングに耐えられるのも知っている。
怖くないわけがないだろう。
トラックの荷台にクロエが乗り込んでくる。
軽く飛び上がって荷台に乗るのはさすがの身軽さだ。
「私はクロエ・オブ・セレストドラゴン。セレストドラゴン王国第二王女」
一部の社員がざわつく。
なんでざわつくのかと不思議に思う。
すぐに会社が大きくなり、俺とクロエが同じパーティーなのを知らない人が増えたのだと気づく。会社の共同代表が騎士なのも異質だが、パーティーを組んでいるのがセレストドラゴン王国の王族というのは想像もできないか。
「セレストドラゴン王国に来てくれる皆を絶対に守るとは言えません。ダンジョンに絶対はありません。それでも私たちセレストドラゴン王国の騎士が、死ぬまで皆を守りましょう。セレストドラゴン王国に力を貸してください」
クロエが頭を下げて願う。
「アイザックをダンジョンから連れ帰ってくれたのはクロエ様。師として弟子の受けた恩はお返しいたします」
最初に声を上げたのは師匠。
「私もいきますよ。次はもっと強いモンスターに大砲を撃ち込みます。楽しみですね」
トリガーハッピーのハーバートが冗談めかして参加を告げる。
次々とテラパワーの社員が参加を表明する。
「皆、ありがとう」
テラパワーの社員が落ち着いたところでトラックの荷台から降りる。
「アイザック様」
「サブリナ、すまないがテラパワーをまた頼めるか?」
「承知しております。それと全員連れて行かれては会社が回りません。セレストドラゴン王国に送る物資の生産に滞りが出ます」
クロエが前に出たため想像以上に社員がやる気になった。
全員がセレストドラゴン王国に向かうとテラパワーの生産能力が落ちてしまう。セレストドラゴン王国に拠点がないため製造も難しい。
「あー……選別を頼んでいいか?」
「やっておきます」
「連れて行きたいのは、師匠のジェームス、大砲を整備する錬金術師……」
サブリナがメモをとっている。
「それとハーバート」
「ハーバートも連れていくのですか?」
「ダメか?」
「いえ」
サブリナが首を横にふる。
「ハーバート」
なぜかサブリナがハーバートを呼ぶ。
「サブリナ、なんだ?」
ハーバートはタートルジェイドでよく寝ていたからか、テラパワーの研究所に篭っていた時より健康そうな見た目をしている。
少し若返っているようにすら見える。
「ハーバートはセレストドラゴン王国に行く気があるのね?」
「クロエ様とはアイザック様がテラパワーに連れてきて以来の付き合いです。力になりたいですね」
「そう。なら帰ってきなさい」
「もち——」
サブリナがハーバートにキスする。
恋人同士だったのか。
そういえばバレットアームズが倒産しかけた時、最初に相談したのがハーバートだったな。
「私は王都で待っているわ」
そう言ってサブリナは離れていった。
なぜかハーバートはサブリナが離れても固まっている。
……あれ? もしかして恋人同士じゃなかった?




