第81話 騒がしい王都の駅
魔石列車が王都の駅に到着すると喧騒が聞こえる。
王都の駅は騒がしくはあるが、列車の中まで騒ぎ声がするのは珍しい。
「なんだ?」
「わからない」
パーシーと顔を見合わせる。
列車に騎士が乗り込んでくる。
「列車で待機せよ」
普段であれば列車から降りるところであるが待機命令が出る。
本格的に何かあったのだとわかるが、何が起きているのかまではわからない。周囲を見回すと、ライナスが真剣な表情で車両の窓から外を見ている。
「アイク様、駅構内に騎士団関係者が多いように見えます」
「待機命令が出ているのにか?」
「おそらく王都に残っていた騎士団ではないかと……」
窓から駅構内を見ると確かに騎士団の制服を着た人が動き回っている。
駅を見ているとなぜか列車砲が駅構内を通って外に出ていく。
「列車砲が出ていく?」
「駐機場所に向かったんじゃ?」
「いや、列車砲は俺たちより先に王都に帰っている。そもそも駐機場所は方向が反対だったはず」
ライナスに視線を向けると頷く。
「列車砲の工場にしても駐機場所にしても反対方向です」
列車砲を運び出すほどの騒動。
深層ダンジョン、いや、名前付きのダンジョンが発生したか? 自分の予想に顔が強張る。
ベアトリクス様が通路を通って車両に入ってくる。
「第二騎士団は予定を変更し、このままシープウィードに向かう」
……シープウィード?
俺はいったことがないが、シープウィードにはスカーレットドラゴン王国で最大の港がある。
ベアトリクス様が俺を見る。
「アイザック、申し訳ないがテラパワーの社員もシープウィードに同行してもらいたい」
「え?」
騎士団だけではなくテラパワーの社員まで……?
「アイザックが戸惑うのもわかる。妾も先ほど概要を聞いただけでまだ詳しく説明できない。妾と一緒に詳しい話を聞きに行くか?」
「自分が聞いてもよろしいのですか?」
「妾が聞き終わった後、騎士団全員に伝える。……いや、アイザックとライナスはテラパワーに伝えるため一緒に聞くべきであるな」
ベアトリクス様は相当焦っているのか、聞くかと尋ねてきたのに、今度は聞くべきだと断言する。話す内容にまとまりがない。
ベアトリクス様が焦るほどの内容か……。
「了解しました。話を聞きに向かいます」
「アイザック、ライナス、それとパーシーと従者も一緒で構わない」
パーシーが目を見開いて驚いている。
テラパワーと無関係なパーシーまで一緒?
「急ぎ移動する」
ベアトリクス様はこちらの返事を聞く前に車両を移動していく。
俺たちは荷物を持ち、慌ててベアトリクス様の後をおう。
ベアトリクス様は次々と車両を進みながら予定変更の案内を告げていく。
最後尾の車両までたどり着くと外に出て、機関車の後ろについている先頭車両まで移動する。
最後尾の車両まで同行せず、先に先頭車両に行っていればよかったな。ベアトリクス様やお付きの従者も普通なら一緒に行動する必要がないと気付きそうだが、焦っているようで気づいていないようだ。
従者まで焦っているとはな……。
「父上、戻りました」
なんで同じ列車にルーファス国王陛下がいる?
俺たちが乗り込んでいる列車は第二騎士団が使用しており、ルーファス国王陛下は別の列車で先に王都へ帰っていたはず。
「ベアトリクス、急がせてすまない。アイザックとライナスもきたか。座るといい」
先頭車両は他の車両と作りが違う。
車両の後ろ半分は向かい合わせのボックス席があるのは変わらないが、前半分には大きな机の周りに椅子が設置されている。
ルーファス国王陛下は机の周りに設置された椅子に座っている。ルーファス国王陛下以外にも複数の騎士が座っている。
俺はいくつもある椅子のうちの一つに座る。ライナスは迷ったようだが俺の隣に座った。ライナスは従者ではなくテラパワーの代表として動くべきだろう。
「余も少々混乱しておる。何から話すべきか……」
「父上、まずは目的地を伝えるべきかと」
「そうだな。第二騎士団とテラパワーにはセレストドラゴン王国へ行ってもらう」
セレストドラゴン王国!?
国外!?
あ、それで港のあるシープウィードに向かうのか!
いや、しかし、テラパワーまで連れてセレストドラゴン王国に行く? 俺まで混乱してきた。
何が起きているのか理解するために尋ねる。
「なぜセレストドラゴン王国へ向かうのですか?」
「セレストドラゴン王国に名前付きのダンジョンが新しく発生した」
新しく名前付きのダンジョンが発生!?
「まさかエリクサー・ラボラトリーが関係しているのですか!」
「エリクサー・ラボラトリーについてはセレストドラゴン王国まで情報がいっていない。そのため、エリクサー・ラボラトリーが関連しているかの確証はない」
他の大陸と情報を伝達しようとすると時間がかかる。
スカーレットドラゴン王国とセレストドラゴン王国の移動時間を考慮すると、セレストドラゴン王国で名前付きのダンジョンが発生したのはタートルジェイドのダンジョンを討伐した前後ではないだろうか。
エリクサー・ラボラトリーについての情報はまだセレストドラゴン王国についていない可能性が高い。
「ですがダンジョンに核を与えるような存在はエリクサー・ラボラトリーしか知りません」
「余もエリクサー・ラボラトリーが何かしら関係しているのではないかと予想はしている」
エリクサー・ラボラトリーはスカーレットドラゴン王国のあるノースリング大陸でしか活動していないと思っていた。まさかセレストドラゴン王国があるサウスリング大陸でも名前付きのダンジョンが発生するとは思ってもいなかった。
想定していたよりも組織が大きいのか?
それにしてはエリクサー・ラボラトリーの情報が少なすぎる。
「ルーファス国王陛下、テラパワーの社員を連れていく理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
俺に代わり、ライナスが質問する。
「ダンジョン周辺のモンスターを掃討するため、列車砲と大砲をセレストドラゴン王国へ運ぶ。列車砲と大砲のメンテナンスをテラパワーに願いたい」
「メンテナンス……なるほど。技術を伝えていない現状ではテラパワーの社員がセレストドラゴン王国へ向かうしかありませんか……」
「その通りだ。余も本来はテラパワーに出動を要請したくはない」
第二騎士団が出動するのも俺がテラパワーの共同代表であるからだろうな。
普通は王都に残っていた騎士団がセレストドラゴン王国へ向かう。
「しかし、列車砲までセレストドラゴン王国へ運ぶのですか?」
大砲に比べると列車砲は大きすぎる。
急ぎ運ぶほどの利益があるとは思えないのだが……。
「セレストドラゴン王国のダンジョンから深層のモンスターが外に出ている。深層のモンスターは大きさから、ダンジョンボスだと予想されている」
「ダンジョンボスが外に!?」
「それもダンジョンボスはベヒモスだと聞いている」
「べ、ベヒモス!?」
ベヒモスはマンモスをさらに大きくしたような見た目で、ダンジョンにいるモンスターの中でも最大に近い巨体を持っている。
ベヒモスはダンジョンの入り口より確実に大きい。
驚き固まっているライナスに変わって質問する。
「ベヒモスがどうやってダンジョンから出てきたのですか?」
「どう出てきたかは、わかっておらん。しかし、地上に出て暴れ回っているのは事実らしく、何十体ものベヒモスを倒すのに苦労している」
「1体ではないのですか……」
「30近いと聞いている」
「30!?」
アックスオッターのダンジョンで21体のダンジョンボスだった。それが30体も!?
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