第80話 帰路
魔石列車に乗り込む。
タートルジェイドから王都へ帰る。
街の復興はダンジョン討伐が専門の騎士団ではなく、復興専門の人材が派遣される。
騎士団はバンブータイガー共和国の首都を滅ぼしたダンジョンの討伐には向かわない。スカーレットドラゴン王国内に発生するダンジョン数は多く、バンブータイガー共和国のダンジョンだけに集中するわけにはいかない。
バンブータイガー共和国の首都近くにできたダンジョンは二つ合わせてバンブータイガーダンジョンと名前がつけられた。
討伐の難易度は現在存在する名前付きのダンジョンでも最難関。
線路をバンブータイガー共和国の首都近郊まで伸ばし、列車砲を増やさなければ討伐するのは不可能だと分析されている。
実質、現状では討伐不可能。
タッカー卿も状況を説明すると理解してくれた。最初の取り乱した印象が強いが、冷静であれば判断は間違えないようだ。
今後、モンスターによって国土を荒らされたバンブータイガー共和国が存続できるかは怪しい。
タッカー卿が生き残ってはいるが、共和政のバンブータイガー共和国では元老院の決定を通す必要がある。タッカー卿一人では国を動かせない。
タッカー卿はバンブータイガー共和国の存続を諦めていないようだが、実際に存続するのは相当難しそうだ。
バンブータイガー共和国について考えていると魔石列車が走り始める。
俺とライナスは行きと同じように椅子に溶けるように座る。
「疲れた」
「はい。とても」
ダンジョンの討伐がうまくいくか不安であった行きとは違い、帰りの列車は充実感がある。
それに今回のダンジョン討伐は騎士というより錬金術師だった気がする。
「久しぶりに錬金術を思いっきりしたな」
「楽しくはありました」
「そうだな……」
書類仕事がなかったわけではないが、錬金術師として動いていた時間の方が長かった。
ダンジョン討伐後、テラパワーは使用した武装の修理や補修に追われた。
王都に帰ってから修理する案もあったが、避難していたタートルジェイドの住人を輸送するため列車が使えなかった。タートルジェイドから出られないのであればと、修理していた。
結構な時間があったため、列車砲から無限駆動まで使える状態にまで修理した。
「二人ともお疲れ様。今回のダンジョン討伐はテラパワーが発明したものがなければもっと大変だったよ」
対面に座るパーシーが随分と褒めてくれる。
クロエはカール殿下と一緒に行動しているため帰りは別行動。
「パーシーがそう思ってくれるのなら、準備を頑張った甲斐があったものだ」
「今回はダンジョンに水を注いだとはいえ、僕は一度も戦っていないからね。それに騎士団から死者も出ていない」
「討伐の結果は上々か」
今回はルーファス国王陛下が総指揮を取り、セレストドラゴン王国に支援を頼むほどのダンジョン討伐。
ルーファス国王陛下からテラパワーは随分と褒められ、報酬を約束されている。
錬金術師としての矜持を示せた。
「テラパワーは十分すぎるほど活躍したよ。今回は水を注ぎ込む討伐方法だけど、名前付きのダンジョンが討伐される時は英雄と呼ばれるような騎士が現れた時だけだよ」
「名前付きのダンジョンには二つ名の英雄がつきものだったな」
回数は少ないが、名前付きのダンジョンが討伐されたという話はある。
話は残っているが最近ではなく随分と古い。
「二つ名のついた英雄で有名どころだと、業火、一閃、剛腕とかかな。英雄たちが出てくる童話は小さい頃によく聞いたな」
名前付きのダンジョンが討伐されたというのは歴史上の出来事。今回のダンジョンが童話になるかは微妙なところだが、竜騎士学院に討伐記録が詳細に残されるだろう。
そもそも今回のダンジョンは実質名前付きのダンジョンだったが、名前がついていないからな。
「今回は英雄がいないから童話にはならなさそうだな」
今更だがそもそもダンジョン討伐が童話になるって物騒だよな。
地球の感覚からすると、子どもに読み聞かせるには向いていないように思える。
「童話になりそうな部分だと、大砲は結構すごかったけどね。ああ、けれど記憶に一番残っているのは、ダンジョンから出る大量の水かな」
「大量に噴き出て街を流してしまう話は噂になるかもな」
やはり大砲にせよ水にせよ、童話向きではない気はする。
せめて英雄がいないと童話にならないな。
「噂といえば、アイクはタートルジェイドで噂を随分と気にしていたよね?」
俺は深く頷く。
「エリクサー・ラボラトリーの名前が広がると、錬金術師の風当たりが強くなりそうだと心配してな」
ダンジョンに核を与えていたエリクサー・ラボラトリー。
錬金術師が目指すものの中にエリクサーがある。
エリクサーは賢者の石とも同一視される錬金術の霊薬。
エリクサー・ラボラトリーが名前の通りの集団であった場合、錬金術師の集団である可能性が高い。ディランが錬金術師であったという情報はないが、関係者であったのは間違いない。
今は錬金術師の評判を上げておきたい。
「錬金術師とエリクサー・ラボラトリーを混同する人はいないと思うけどね」
「それでも警戒しておく必要がある。それに、錬金術師であればエリクサー・ラボラトリーを知っている可能性がある」
「テラパワーの錬金術師はエリクサー・ラボラトリーを知ってたの?」
俺は首を横にふる。
「タートルジェイドに来ていた錬金術師全てに尋ねたが、知っているものはいなかった」
「そうなんだ……」
俺とライナスは錬金術を習いに学校に行ったわけではない。どうしても他の錬金術師と繋がりが薄く、界隈の噂話などに疎い。
俺とは違い、師匠やハーバートなどテラパワーに所属する錬金術師は大半が学校で錬金術を教わっている。エリクサー・ラボラトリーについて噂でも知らないかと尋ねたが、知っているものはいなかった。
「王都に残っているテラパワーの錬金術師の中にもしかしたら知っている人がいるかもしれない」
「そうなの?」
「色々と企業を買収した結果、錬金術師の出身地が様々になっている。横のつながりまで含めれば集まる情報は多い」
王都に進出する地方の会社は多い。
テラパワーもアックスオッターで作られた会社だが、現在は王都を拠点とする会社になっている。テラパワーのように王都に拠点を移したのが最近でなくとも、地元とのつながりはそう簡単には途切れないものだ。
地方の学校を卒業した錬金術師が、地元に関連する企業に就職して王都にやってきたりする。
「エリクサー・ラボラトリーを知っていて隠す可能性もあるけどね」
パーシーの考えに俺は頷く。
「情報を隠される可能性は考慮している。だが、エリクサーを研究するには資金や場所が必要で、完全に秘匿した状態では研究できないはず。実際、バンブータイガー共和国やアックスオッターで報酬をもらいながらダンジョンに核を与えていた。どこかから情報は漏れている」
必ずエリクサー・ラボラトリーを見つけ出して報いを受けさせる。
アックスオッターの貴族であり騎士、錬金術師として、決してエリクサー・ラボラトリーは許せない。
「アイクが因縁のあるエリクサー・ラボラトリーについて色々思うところがあるのはわかるけど、あまり思い詰めないようにね」
パーシーの優しい声で体に力が入っていたのに気づく。
拳を握り込んでいるだけではなく、いつの間にか椅子の背もたれから背中が離れている。
今から怒りに任せても意味はない。
意識して力を抜き、再び背中を椅子に預ける。
「冷静になった。パーシー、ありがとう」
「気にしないで。調子が戻ったようで安心したよ」
王都までの間、パーシーと雑談したり、行きと同じように睡眠をとったりする。
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