第78話 バンブータイガー共和国の被害
スプリガンの回収後、タートルジェイドに戻ってきた。
今のところスプリガンは合計で4体が発見されている。ダンジョンの核を4つしか与えていないとは思えないが、水に流されて海に沈んでしまった可能性がある。
「見える範囲のタートルジェイドは問題なさそうか」
空を飛んで被害のない地域に案内されたため、被害がないのは当然ではあるのだが、実際に変わらぬ街並みを見ると安心する。
スプリガンの回収に同行しなかったパーシーと合流する。クロエは再び空から被害状況を確認するため飛んでいった。
「街中にいるとわかりにくいけど、今いる位置は少し高くなっているらしいからね」
「国境に近づくほど低くなっているんだったか」
今いる位置はタートルジェイドの中でも国境から離れている。
これから国境を越えてバンブータイガー共和国の街へと向かう。空から見えない地上の被害がどの程度かを確認しにいく。
国境だという位置まで徒歩で移動する。
「この道が国境らしいけど、街が繋がっていてわからないね」
「道に線が引かれている程度か?」
道は灰色の石が敷き詰められているが、中央部分に色違いの赤い石が線を引くように設置されている。
「国境って街同士が離れているものだと思っていた」
「俺もそう思っていた」
スカーレットドラゴン王国とバンブータイガー共和国の国境は非常に曖昧なようだ。
国境を越えてバンブータイガー共和国の国内に入り、進むと道が水で濡れ始めた。
「泥が積もっているね」
パーシーが言った通り、泥で石畳の道が見えなくなっている。
泥の上を歩くと足に泥がこびりつく。
「この周辺はまだ建物は残っているのか」
「まだ住めるかはわからないけどね。
「そうだな」
何軒かは家が傾いている気がしなくもない。
家に関しては完全に専門外であるため、家の中を見たりはしない。家が崩れる可能性も否定できない。
泥だらけの街を歩き進む。
進んでいくと泥の積もっている量が足首ほどにまでなる。
さらに歩くと建物が急になくなる。
目の前には干潟のような光景が広がる。
「ひどい……」
「……ひどいな」
少し離れた場所に川らしきものがみえ、上流に視線を移動させると湖があったであろう位置に繋がっている。川の対岸に建物らしきものが見えるのだが、随分と離れた位置にある。
街は川を挟んで存在していたが、今は街が二つに分かれてしまっている。
「いやでも、ダンジョンは今立っている位置よりタートルジェイドよりだった。ダンジョンの位置からすると被害は随分と抑えられた気がするよ」
「水路を掘った意味はあったか」
ダンジョンとの位置関係を考えると、泥が積もっていた位置から建物がなくなっていても不思議ではない。
ダンジョンからモンスターが溢れ出していれば、街全体を破棄する必要があった。街全体を破棄するよりは被害が少ない。
損害は建物だけで人は全て避難させているしな。
「この先進むのかな?」
「泥深くなっていそうだな」
少し前に進むと膝ほどまで泥がある。
これ以上進むのは危ない気がする。
「アイク、船だ」
泥と格闘していると、パーシーが海を指差す。
海には船が浮かんでいる。船の船首はタートルジェイドの方向を向いており、大量の蒸気を吐き出している。
「スカーレットドラゴン王国の船じゃないぞ」
「なんでわかるの?」
「スカーレットドラゴン王国の船は赤い旗をつけ、セレストドラゴン王国であれば青い旗をつける。あの船には黄色と黒の旗が取り付けられている」
港があるような地域でないと知らない知識。
アックスオッターには他国の船も入港していたため、船に関する知識がある。
「つまりあれはバンブータイガー共和国の船?」
「バンブータイガー共和国の船があげる旗の色まで覚えていないが、多分そうじゃないか。第三国がこの場にいる可能性は低いだろう」
パーシーと話している間にも、船はタートルジェイドに向けて進んでいく。
船を見ていると引き返す指示が出る。
これ以上歩いて進むのは無理だと判断したようだ。
再びタートルジェイドに戻ってきた。
泥で汚れた体を洗い、汚れを完全に落とす。
「アイク様」
「ライナス」
ライナスと久しぶりに会う。
ダンジョンに注水できる状態になると、ライナスは俺の従者として動かず、大半の時間をテラパワーの代表として動き回っていた。
「バンブータイガー共和国から人が来たようです」
「やはり先ほどの船はバンブータイガー共和国のものだったか」
「バンブータイガー共和国との話し合いに参加しても構わないと言われたのですが、どうされますか?」
「え? 俺が参加していいのか?」
「バンブータイガー共和国についてはアックスオッターも無関係ではないと誘いを受けました」
テラパワーの代表として話を聞くのかと思ったが、アックスオッターとして話を聞くのか。
「聞いて構わないのなら聞きに行く」
「では参りましょう」
ライナスが用意した車に乗り込み移動する。
車内でライナスに行き先を聞くと、バンブータイガー共和国との話し合いはタートルジェイド子爵の屋敷で行われるようだ。
屋敷に着くとタートルジェイドに来た日、ルーファス国王陛下と会った部屋へと向かう。
部屋の近くまでくると、部屋の中から大きな声が聞こえてくる。
「バンブータイガーの街がなくなっているのはなぜです!」
ライナスと顔を見合わせる。
どうやらすでにバンブータイガー共和国の人が部屋の中にいるようだ。
部屋の前で見張りをしている騎士に入室の許可をもらう。
静かに部屋の中に入ったが、ルーファス国王陛下やベアトリクス様と視線が合う。
「スカーレットドラゴン王国の不手際ではないのですか!」
大声をあげている男は興奮しているのか目が血走っている。
「バンブータイガー共和国元老院のタッカー・オブ・トラヴィス卿だったか。こちらが全員揃ってから話をしたいのだがな」
「はぐらかさないでいただきたい」
「タッカー卿が動揺しているのは理解しているが、余は人が揃うまで待ってほしいと言っているだけ」
ルーファス国王陛下がタッカー・トラヴィスと呼んだトラ人の男性を睨む。
タッカー卿が口をひらくが言葉は続かない。
ルーファス国王陛下があからさまにため息をつく。
「最初の不手際はバンブータイガー共和国からであろう。スカーレットドラゴン王国はダンジョンに核を与えた場合、すぐにダンジョンの討伐に乗り出すよう助言をした」
まだ人が揃っていないであろうに、ルーファス国王陛下が話を進める。
「そもそもバンブータイガー共和国の首都近くにあったダンジョンはどうなった?」
ルーファス国王陛下の問いに、タッカー卿の顔が青くなる。
沈黙が続いた後、タッカー卿が口を開いた。
「ダンジョンからモンスターが溢れだし、バンブータイガー共和国の首都は壊滅しました」
バンブータイガー共和国の首都が壊滅、壊滅か……。
思わす上を見上げて息を吐き出す。俺だけではなく、部屋の中にいる人たちが一斉に息を吐く。
少し間を開けてルーファス国王陛下が口をひらく。
「どれだけの人が首都から逃げ出せた?」
「私が乗ってきた船の他には港から数隻海に出るのを見ました。正確な人数は分かりませんが、生き残っているのは一万人以下、下手すれば数千人程度です」
「それほどまでに少ないか」
小国とはいえ首都の生き残りが一万人以下……少なすぎる。
タッカー卿は崩れ落ちると、涙を流し嗚咽をあげる。
「私は首都に残り戦おうとしたのですが、気づけば船の中に……。私は、私は——」
先ほどまで怒っていたのに今は泣いている。
感情の起伏が激しく、精神がかなり不安定に見える。
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