第77話 討伐
ダンジョンから噴き出る水の音が夜中に聞こえなくなった。
夜中であるため、ダンジョンがどうなっているかわからない。朝まで待って被害を確認すると決まった。
朝になると徐々に周囲が明るくなる。
「暗闇で聞こえる水の轟音は怖かった」
「そうだね……」
朝日が昇ると息を吐き出して安堵する。
ほぼ睡眠を取らずに朝を迎えたが興奮からあまり眠たいとは思わない。
安全を考慮して距離を取ったが、もし水が来た場合には逃げ出す必要があった。そもそもテントは置いてきた状態で、寝る場所がなかったのもある。
「飛んで拠点の確認からか」
ルーファス国王陛下からの命令が騎士団に行き渡る。
「安全かどうか調べながら進むしかないね」
拠点の無事を確認した騎士団は前進を始める。
走れば一瞬の距離だが、時間をかけ移動していく。
拠点は報告通りに無事であったが、拠点から見る光景は様変わりしている。ダンジョン周辺は砲弾により穴だらけではあったが、緩やかな勾配がある程度の平地であった。
何より昨日までなかった湖がある。
水たまりや池と呼ぶには大きすぎる。
「タートルジェイドから見てダンジョンの奥側に湖があった。ダンジョンの下に湖はなかったよな?」
「ダンジョンから出た水で削れたんだろうね……」
ダンジョンから出た水によって地形が変わってしまった。
唖然としていると、地形が変わった場所へ翼を持った騎士が飛んでいく。
飛べる騎士は新たな指示を受けたようで、ダンジョンが完全に討伐できたか、タートルジェイドの街を含めた全ての被害を空から確認しに行ったようだ。
「ダンジョン方向に行った騎士が戻ってくるな」
「本当だ」
騎士はルーファス国王陛下がいるあたりに降りて行った。
「ダンジョンは討伐された!」
ルーファス国王陛下が叫ぶ。
騎士団の団員たちが勝ち鬨をあげる。
「ダンジョンの討伐は完了か」
「名前付きのダンジョン討伐なのに楽ではあったけど、最後の最後でとんでもない被害が出てそうだね」
「本当にな……」
街に住む全ての人は避難させたため、死者が出ている可能性はないが、街はどう考えても壊れているだろうな。
「アイク」
「クロエ?」
空からクロエが降りてくる。
「アイク泳げたわよね?」
「ああ、水の都と呼ばれたアックスオッターは泳ぐ場所が多かったからな。他の騎士に比べたら泳げると思う」
「新しくできた湖にモンスターが沈んでいるようなの。水中から持ち上げるの手伝ってくれない?」
「海に流れずに残ったモンスターがいるのか。ベアトリクス様の許可は?」
「トリスから許可はもらっているわ」
「それなら向かう」
ダンジョンが討伐されているため、甲冑を脱いで身軽になる。
甲冑を着たままでは泳げないからな。
「パーシーは泳げたんだったか?」
「泳げるけど、そこまで得意じゃない」
「ならクロエといってくる」
「うん」
新しくできた湖に向けて歩き出す。
水が通った場所は泥になっており、歩くだけでも全身が泥だらけになる。水に入る前提であるため、気にせずに歩き続ける。
足元に注意しながら歩くと随分と時間がかかる。
「うーん、泥だらけ」
湖の脇で止まるとクロエが降りてくる。
「飛んでいるからわからなかったけれど、地面は泥なのね」
「まだ乾いてすらいないからな」
新しくできた湖は予想通りそう大きくはない。
形が縦長になっており、水の勢いで地面を削ったのであろう。
「それでモンスターはどこに?」
「飛んで場所を指示するわ」
「頼む」
湖の透明度はそこまで高くないが、底がなんとなく見える程度には透き通っている。透明度が低いとモンスターが沈んでいるとはわからないか。
「こっちよ」
クロエが指示したのは、湖の中でもダンジョンに近い場所。
うっすらと大きなモンスターが見える。
ダンジョンボスのヘカトンケイルほど大きくないか……?
「大きくないか?」
「大きいから空からでも発見できたのよ」
飛んでいてもわかるほどの大きさか。
「湖から引っ張り出せるか?」
「最悪もっと人を呼びましょう」
「やってみるか……」
無理そうと思いながらも水の中に入る。
水中に潜るとモンスターは土に半分ほど埋まっている。水中で見てもモンスターは大きい。地面に足をつけて持ち上げようとするが、埋まっているのもあって動きすらしない。
予想はしていたが持ち上がらない。一度水面に浮上する。
立ち泳ぎでクロエに話しかける。
「無理だ」
「引っ張り上げるしかないかしら?」
「チェーンを縛りつけて装甲車で引っ張り上げよう」
「いい案ね。呼んでくるわ」
「頼む」
クロエが飛んでいくともう一度水中に潜る。
チェーンがつけやすそうな場所を確認しておく。
「アイク、呼んできたわよ」
「無事来れたか。チェーンをくれ」
「はい」
クロエからチェーンをもらって水中に潜る。
モンスターにチェーンを巻きつけ、装甲車にチェーンを取り付ける。
もう1本チェーンを巻きつけ、俺とクロエが握る。
「引っ張る」
装甲車が大量の蒸気を噴き出す。
俺も合わせて力を入れると、太いチェーンが軋む。
手応えからモンスターが動きすらしないのがわかり、もう一台装甲車がいりそうかと思ったところで徐々に動き始めた。
泥から抜け出したのか、動き始めるとすんなりと上がってくる。
「このモンスター何かしら?」
「これはスプリガンじゃないか?」
コボルトのような顔をしているが、大きさがダンジョンボスのヘカトンケイルに匹敵するほど大きい。
「スプリンガンにしても大きすぎじゃない?」
確かに。
スプリガンは大きくなっても5メートルほどだと聞いた。それが10メートルを超えるような大きさになっている。まるでダンジョンボスのように大きさが倍。
……ダンジョンボスのように?
「このスプリガンがダンジョンボスかもしれない」
「あ。ダンジョンボスの可能性があったわね」
ダンジョンの核を取り出すまでダンジョンボスかはわからないが、ダンジョンボスである可能性は高いのではないだろうか。
「なんにせよ、スプリガンの素材は貴重。全て回収した方がいい」
モンタギュー卿の装備を作った時に使った素材はスプリガンの骨。
スプリガンというモンスターは小さい状態でこちらを油断させ、近づいたところで大きくなる。スプリガンの素材は巨大化や小さくするのに使える。
「鞄に入れるため解体する必要がありそうね」
「解体はしておく。拠点から特大の鞄を持ってくるのと、他にもスプリガンらしき影が見えないか確認しておいてくれないか」
「分かったわ」
クロエは空へと飛び立つ。
装甲車に乗っていた兵士と協力してスプリガンの解体を進める。鞄からバトルアックスを取り出し、腕や足にバトルアックスを振り下ろす。
解体を進めていると、クロエが戻ってくる。
「鞄持ってきたわ。それとスプリガンらしき影が他にもあるらしいの」
「全て回収したいな」
「拠点から騎士が出発したわ。全て回収する予定よ」
「そうか。他の騎士が向かうなら、ダンジョンの核を確認しておくか」
ダンジョンの核はモンスターのコアと同じような位置にある。
胸から腹。もしくは頭部。
スプリガンを切り開いていくと、胸からダンジョンの核が出てくる。握り拳ほどの水晶のような塊。
「やはりダンジョンボスだったか」
「ダンジョン討伐は確実に終わったわね」
「ああ」
ダンジョンの核を手に取ると本当にダンジョンが討伐されたのだと実感する。
ダンジョンの入り口は消え去り、ダンジョンボスは水の中で死んでいた。核を与えたダンジョンはボスが複数いるが、他のダンジョンボスも溺死していると思われる。
アックスオッターでは死力を尽くし、なんとかヘカトンケイルを倒したのとは大違い。
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