第75話 会議
俺は会議に呼ばれている。なぜかテラパワーの社員も一緒。
ダンジョンへの注水は問題がないのだが、あまりに順調で別の問題が発生した。水路作りという穴掘りもなくなった騎士は仕事がなく暇。正確にはダンジョンの監視はあるのだが、監視の数はそういらない。
暇になってもダンジョンの討伐まで撤収するわけにもいかず、今後どう動くか会議が開かれた。
「体が鈍っていけない」
ルーファス国王陛下が肩を回す。
側近の騎士が苦笑する。
「また穴でも掘りますか?」
「穴掘りも悪くはない。ただ掘るのは避けたい……この周辺は農地に向かないのだったか?」
「はい。河口から海水が入ってくるため、土壌に塩分が多く農地に向いた土地ではないようです」
海が近すぎるのか。
緩やかな勾配がある程度で農地の良さそうな場所に思えたが、土壌に塩分があっては作物が育たないか。
水に関しても大きな湖もあって水に困らないように思えたが、実際のところは真水を手に入れるのが大変な地域だったわけか。
「ふむ……」
ルーファス国王陛下にもいい案がないようだ。
いい案があったら最初から会議など開かれていないか……。
「陛下、皆様から案をいただくため、現状をお話ししても?」
「構わん」
騎士がルーファス国王陛下から視線をこちらに向ける。
「ダンジョンについては全てお伝えしてあるため、タートルジェイドとバンブータイガー共和国の現状をお伝えします。まずタートルジェイドに残っていた住人の避難は完了しております」
タートルジェイドに意地でも残ろうとした住人や、騎士団を手伝うためだったりと残っていた住人が少し存在した。ダンジョンからモンスターが出たのに合わせ、完全に避難を完了させたか。
「タートルジェイドの隣にあるバンブータイガー共和国の街はモンスターの被害があったようです。バンブータイガー共和国の市民がタートルジェイドに逃げこみ、一時混乱しましたが今は落ち着いております」
スカーレットドラゴン王国の国土であるタートルジェイドを守るために騎士団は動いている。大砲はタートルジェイドを守るように配置されていたため、バンブータイガー共和国側に進むモンスターは逃がしやすい。
あまり街に近い方向へ大砲の角度をつけると、街に砲弾を撃ち込んでしまうしな。
なんにせよ他国より自国優先なのは当然と言える。
「バンブータイガー共和国の街は機能不全となっており、タートルジェイドに逃げ込んだ住人たちはスカーレットドラゴン王国へと亡命を願っております。バンブータイガー共和国次第では街をスカーレットドラゴン王国に吸収する可能性があります」
スカーレットドラゴン王国はダンジョンの核について忠告していたのに無視されていたからな。損害の賠償をバンブータイガー共和国に求めるのが筋であろう。
しかし、当のバンブータイガー共和国どうなっているんだ?
「バンブータイガー共和国については状況が分かりません。首都に近いダンジョンからもモンスターが出てきている可能性があり、スカーレットドラゴン王国から首都に人を送るのは憚られる現状です。そのため街を吸収するかについては保留となっております」
タートルジェイドの隣にある街から、バンブータイガー共和国の首都に向かった人が一人もいないとは思えない。首都までどれほどかかるか知らないが、バンブータイガー共和国の国土である半島は小さい。
一週間以上経っており、首都から人が来ていてもおかしくないように思える。
嫌な予感しかしないな……。
「バンブータイガー共和国が存続している前提ではありますが、亡命者の住居問題があるため、街を賠償として吸収する前提で動いております」
スカーレットドラゴン王国は広い。
各地に散らばってもいいのであれば住居問題は解決するだろうが、亡命者は住み慣れた街から離れたくはないだろうな。
「余がバンブータイガー共和国で情報を集めていたものを撤収させたため、現在は情報が少ない。報告できるのはこの程度だったな」
「はい」
ルーファス国王陛下の側近が頭を下げる。
情報はこれだけか。
騎士に何をさせるか迷うのも納得する情報の少なさだな。
「諸君、質問や意見はあるかね?」
俺を含めた集められた人々が近くの親しい人と顔を見合わせる。
元々は騎士が無駄に動き回るのを止めたいという話だったが、今後どう動くかという話になっている。いや、全体の動きが決まれば、騎士も忙しくなって無駄に動き回る必要はなくなるか。
「タートルジェイドの隣街に入り込んだモンスターの討伐は完了しているのですか?」
「はい。街に入り込んだモンスターは当国の騎士が参戦した結果、全て討伐されました。しかし、討伐されるまでに被害が出ております」
騎士が質問するとルーファス国王陛下の側近が答える。
バンブータイガー共和国にも騎士と同等の強さを持つ人もいるだろうが、モンスターは強い相手だけを狙って動くわけではない。無差別に人を殺すため、目についた人に襲いかかったであろう。
相当被害が出ただろうな……。
「亡命者以外は街に残っているのか?」
「少数ではありますが残っております」
タートルジェイドもそうだったが全ての人が街を去ろうとはしないよな……。
「騎士でない私が発言しても構いませんか?」
ハーバートが恐る恐るといった感じで手をあげる。
「もちろん構いません」
「それでは確認なのですが、以前聞かされた作戦ですとダンジョン討伐後はダンジョンから大量の水が出るため、ダンジョン近くから撤退するとお聞きしました」
ダンジョンボスが討伐されると、倒したモンスターや水が放出される。最初は徐々に放出されるため、前兆を把握した時点で騎士団は撤退する。
「間違いありません」
「高低差から水がタートルジェイドに流れ込む量は少ないと予想されるため、タートルジェイド側に逃げ込むとも聞いていたと思います」
「その通りです」
……あれ?
水はどこに行く?
「つまりバンブータイガー共和国側の街に水が大量に流れ込むのでは?」
ルーファス国王陛下と側近の騎士が固まって顔を見合わせる。
「街には高低差があるため全てが水没するわけではありませんが……」
「水没する地区はあるな」
「はい。他より低い川の周辺は確実に水没するのではないでしょうか」
街が消えてしまっては賠償として吸収する以前の話になる。
最悪人が生き残ればどうにでもなるだろうが、亡命者の家がなくなるのはできる限り減らしておきたい。
「ダンジョンから水が溢れるのは止められぬ」
「水を逃すしかないでしょう」
「川の周辺を諦める前提で、可能な限り川に水を流し込むのはどうだ?」
「街全体が流されるよりは被害が少なくなります」
ルーファス国王陛下と側近が地図を見ながら意見を交わし合っている。
次は水を逃すための排水用の水路を掘るのではないだろうか。また穴掘りになりそうだ。
「水路の位置を計算せねばならんか」
「適当に掘っても意味はないと思われます」
陛下が何度か頷く。
「ハーバート、助かった」
「お役に立てて何よりです」
ハーバートがルーファス国王陛下に頭を下げる。
会議は地形を計算するための人だけ残り、解散となった。
天幕から外に出る。
「ハーバート、よく気づいたな」
「実際の地形で弾道計算するのが最近の遊びでして、タートルジェイド周辺の地形は頭に入っています」
「物騒な遊びだな……」
「テラパワーの研究室と違い、研究があまりできませんから暇なのです」
暇なハーバートはまずい。
ハーバートが実験と称して大砲を撃つ前に、仕事回しておかないと……。
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