第74話 水路を作るため、穴掘り
水路の位置が決まり、穴を掘る範囲に杭を打ち込んで印がつけられた。
アダマンタイトで作ったショベルの性能が思ったよりも良かったからか、最初の想定よりも深く掘れるのではないかと5メートルほどまで掘り下げる計画となった。
水路と湖は繋げたまま掘り進めない。あとで繋げられるように水路は湖から少し離れた場所を掘っている。
「クロエ、面白いな」
「お兄様なら気にいると思ったわ」
セレストドラゴン王国の王族が土を楽しそうに掘り返している。
二人は楽しそうに話しながら作業しているが、土を掘り返す速度はとんでもなく早い。地面が土ではなく、砂場なのではないかと思ってしまう。
時々地面から出てくる大きな岩はショベルで切って砕いて処理される。岩程度で作業速度は落ちない。
「童心に戻った気分である」
ルーファス国王陛下までシャベルを持ち、土を掘り返している。
総指揮を取るルーファス国王陛下が穴掘りしていていいのかという疑問はあるが、一人で指揮をとっているわけではない。定期的に指揮を交代しては水路作りを手伝い、穴を掘っている。
ダンジョンから出てくるモンスターは多くないため、ルーファス国王陛下が穴掘りする余裕がある。
「王族が甲冑姿で穴掘りをしている違和感以外は平和だな」
「そうだね」
普段のダンジョン討伐と違って緊張感がない。
パーシーと決められた範囲の土を掘り返す。力が有り余っているため、つい範囲外まで掘ってしまいそうになる。
第二騎士団以外の体力が有り余った手持ち無沙汰な騎士たちまで穴掘りを手伝うため、昼夜関係なしに作業が進む。穴の掘られる速度が早い、早い。
「掘削機も騎士と変わらない速度で掘り進めているしな」
試作の掘削機も師匠が持ってきて、作業に参加している。
試作機であるため当然壊れたりするが、壊れた場所の記録をとって調べた上で修理する。構造をその場で修正できる場合は修正するが、大半は原因を探るために直してもう一度壊して記録を取る。
定期的に壊れるが、掘削機の速度は早い。獣化したモンタギュー卿には負けるが、騎士とはいい勝負。
最近のテラパワーはダンジョン討伐に関連する製品ばかり作っていたが、久しぶりにダンジョン以外でも使えそうな製品ができそうだ。また忙しくなるとかは考えてはいけない。
「ダンジョンは深層を水没させれば討伐できるけど、名前付きのダンジョンは一部屋が大きいのもあって結構な時間がかかるだろうね」
「ヘカトンケイルを倒した部屋は特に広かったからからな」
「何日かかるのやら」
送り込む水の量が増えれば増えるほど討伐が早くなる。
早くダンジョンを討伐するため、穴に水を供給しているポンプも使ってダンジョンに水を送り込みたい。
「早く水路を作らないとね」
「そうだな」
シャベルを使って水路を掘り進める。
一週間かけて水路にする穴が掘られた。
水路は簡単にしか固めていないとはいえ、大規模な工事であるのに驚くほど工事時間が短い。
水路を完成させるには、最後に水路と湖を区切って水を堰き止めている場所を壊す必要がある。
水を堰き止めている場所を壊すと水が一気に水路に流れ込むわけで、水の流れが凄まじい状態になるのは想像ができる。騎士は重たい甲冑を着ているため、泳ぐのは不可能。甲冑を着たまま水に沈めば溺れて死んでしまう。
モンスターが泳げないのもあって、騎士は泳ぎを鍛えていない。濁流の中では泳ぎが得意だとしても溺れる可能性が高い。それに危険がそうないとはいえ、ダンジョン討伐中に甲冑を脱ぐのは憚られる。
魔力を消費してしまうが安全を重視して魔法で壊してしまう。
「エクスプロージョン」
「サンダーボルト」
様々な魔法が飛び交う。
魔法によって水の通る道ができると、堰き止めていた場所が水圧によって削られるようにして消えていく。水が渦を巻き、凄まじい音を立てながら水路に水が流れ込む。
「水路が水で満たされていくな」
「少し怖いな」
「俺たち甲冑を着ていて泳げないからな」
「そうだね」
水路が崩壊してもいいように、全員が退避して離れた位置から水路に水が満たされるのを見守る。
水路の水嵩は上がっていき、湖と変わらない高さにまでなる。
「無事に水路が完成したか」
「良かったよ」
水路に水が予定通りに満たされた安心と共に、大規模な工事を自分の力で成功させられた面白さと充実感に満足する。
錬金術で物を作るほどではないが面白い。
「ダンジョン前へ移動する! 撤収作業を開始せよ」
水路を見ていると、移動指示が出る。
「ダンジョン前へ移動か」
「そうだね。いい加減戦いに参加するのかな?」
「そういえば戦っていないな」
パーシーに言われて今更ながらまだ戦っていないのに気づいた。
ダンジョン討伐に来たとは思えないな。
戦わないダンジョン討伐、学園の時にもなかった。
「僕、護衛と穴しか掘っていないよ?」
「俺は錬金術もしているが、戦ってはいないな」
俺とパーシーは撤収作業を手伝いながら話す。
俺には撤収するための作業はないが、ポンプ車はポンプを止めてホースを回収する必要がある。兵士が慌ただしく動くとポンプ車の蒸気が止まり、膨らんでいたホースが弛む。
湖畔に広げていた全てのものが回収される。
「撤収完了! 移動開始!」
テラパワーの社員を護衛しながら移動が始まる。
湖畔からそう離れていないダンジョン前に到着する。
先ほど回収されたホースが再び伸ばされる。今度は水路とダンジョンにホースが差し込まれた。
「ダンジョン前ものんびりしているね」
モンスターと戦っている騎士がいない。
ダンジョンの前に見張りが立っており、横には大砲が設置されている。
見張りの甲冑は血で汚れておらず、大砲で対処できているのが想像できる。
「あまりモンスターが出てきていないとは聞いていたが……モンスターが顔を覗かせたら大砲が撃ち込まれるのか。そら戦闘が少ないはずだ」
「これは僕らの戦闘もなさそうだね。クロエが以前言っていたけど、嬉しい誤算で暇だよ」
「全くもってその通りだな。暇だと言ったクロエは兄のカール殿下とまだ過ごせそうだな」
ルーファス国王陛下とベアトリクス様の判断でクロエはセレストドラゴン王国の騎士団と動いている。ダンジョン内に侵攻していたら俺たちと行動を共にしていただろうが、穴を掘るという土木作業しかしていないからな。
クロエは楽しそうにカール殿下と過ごしている。スカーレットドラゴン王国もそうだが、セレストドラゴン王国も家族仲は悪くはないようだ。
ダンジョン前の様子を見ていると、ポンプ車のエンジンから蒸気が上がる。
どうやらホースの設置が完了したようだ。
ホースが膨らんでいき、ダンジョンに水が注ぎ込まれる。
ポンプ車に加え、持ち込まれたポンプが稼働して今までの倍以上の速度でダンジョンに水が注ぎ込まれる。
「そういえばダンジョンの入り口とか階段って下り坂だよね」
パーシーが俺を見て尋ねてくる。
「ダンジョンは下に続いているからな」
「大量の水を流されたらモンスターも簡単には上がって来られないんじゃ?」
「ああ、なるほど」
坂に大量の水が流されていれば、人間でも登るのは難しい。
当然であるが思いつかなかった。
「水の量が増えたらモンスターほぼ出て来ないんじゃ?」
「つまり、戦闘はないのか」
「あっても大砲で一撃じゃない?」
「嬉しい誤算で今後も暇が決定したな」
水を注ぎ込めたのが大きいが、必死になって色々と準備した甲斐があったな。
ダンジョンの中に入って討伐していた場合、どれだけの被害が出たか想像もできない。
「僕たちはこのまま待機かな?」
「かもな」
テラパワーで忙しかった分ゆっくりできそうだ。
事前の準備があるだけで、ダンジョン討伐はこうも違うか。
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