第73話 ポンプ稼働
湖まで行くため、装甲車に戻る。
ハーバートがなぜか装甲車から外が見える場所で固まっている。
「ハーバートどうかしたか?」
ハーバートがすごい勢いで振り向く。
「アイザック様が魔力の調整が難しいと言っていた意味がわかりました。膨大な魔力を糸のように細く調整するなど不可能です」
ベアトリクス様が放出した魔力量を見て驚いたのか。
俺は一応覚醒者らしいが、ベアトリクス様、クロエ、パーシーと肩を並べるほど魔力量はない。
「俺は一発魔法が使えるかどうか程度の魔力しかない。元々は一発も無理だった」
「戦闘で使う魔法の一発は錬金術師からするととんでもない量の魔力です。私でも魔力を制御するより押し通した方が楽なのは想像できます」
「錬金術師の方が制御は緻密だが、騎士も魔力を効率的に使うため細かく制御を覚える。力任せが楽なのは間違いないがな」
騎士は見た目からして力任せに見えるからな。
実際のところは錬金術師とはまた違う魔力管理の鍛錬を積んでいる。モンスターを倒せる範囲で大量の魔力を制御する騎士と、少ない魔力を糸のように細く扱う錬金術師は違う。
どちらが優れているかは技術が違うため比べられない。
「遠距離魔法だけではなく、身体強化で土を掘る速度も凄かったです」
「あ、それは身体強化使っていないぞ」
「は?」
ハーバートから未確認の生物を見たかのような視線を向けられる。
魔力の動きで身体強化していないのはわかると思うのだがな。
「ハーバートも騎士と同じ訓練を続ければ数年後には同じように動けるぞ」
「は……?」
ハーバートが困惑する声を上げる中、装甲車が湖に向けて走り出す。
水面が近づいてくる。
湖は想像よりも大きく、澄んだ水を湛えている。
「十分な水量がありそうだ」
モンスターがいないか確認されたところでハーバートを連れて装甲車から降りる。
ハーバートは「あれで魔力を使っていない?」とまだ困惑している様子。獣化してから上がった俺の身体能力知っているはずなのだがな。計測した数値を見るのと実際の動きを見るのでは違うか。
俺もベアトリクス様のベンチプレスを1トンで上げたのを見た時は驚いたからな。今は俺も1トンでベンチプレスができるので成長したな。
湖畔の周囲を見渡すと、装甲車とポンプ車が並ぶ。
本来ならきれいに草でも生えていたであろう湖畔は砲撃によって地面が捲れ上がっている。地面が捲れ上がった上に無限軌道の装甲車が走ったため完全に荒地。
「アイザック」
護衛の騎士を連れた師匠が近づいてくる。
立って歩いている様子を見て安心する。
師匠は別行動で、戦車やポンプ車と行動していた。
「師匠。装甲車の乗り心地はどうでした?」
「大砲で凸凹にされた場所の移動はひどいものだな」
渋い師匠の顔に苦笑が浮かんでいる。
乗り心地がひどいのは俺も同感。
装甲車が上を向いたり下を向いたりして、体が前へ後ろへ右へ左へと忙しかった。ゆっくりと動いていたからいいものの、速度を出していたら酔っていただろうし、体のあちこちを車体にぶつけていただろう。
「しかし、普通の車では進むのが不可能な悪路を装甲車は走ると証明されました」
師匠の苦笑が笑顔にかわる。
「無限駆動の走破性は上々といえる」
師匠は目標としていた無限駆動の装甲車ができて嬉しいようだ。
当初の予定とは違って四輪駆動の装甲車を量産したが、おかげで無限駆動の装甲車の予算や技術を集められた。
しかも無限駆動の装甲車がすぐに量産できたのは四輪駆動の装甲車を開発していたため。装甲車の車体部分に関しては大半の部品が共通になっている。
俺と師匠が喋っている間に騎士団の兵士がポンプにホースを繋ぐ。
ポンプは既存品の他社製品。騎士団に納品されている製品でもあるため、ポンプの扱いは騎士団の兵士が理解している。
ポンプに繋げられたホースが湖と先ほど作った穴に向かって伸ばされる。
「手際がいいな」
「やはりポンプは新規に作るより、既存品を使って正解か」
10台以上のポンプ車からホースが伸びる。
ホースの設置が終わると、エンジンから大量の蒸気が上がる。
動力がポンプへと送られる。
「ポンプが稼働したか」
湖から水が吸い取られ、巨大なホースが膨らむ。
水はポンプを経由して穴へ向けて供給されていく。
「ダンジョンに水を流した後は水路を作るのだったか?」
「そうですね。モンスターがどの程度出てくるかが問題になりますが、後は水を流し込み続けるだけです」
水を流し込めるダンジョンの討伐は楽になりがちではあるが、名前付きのダンジョンでも同じように討伐できるとはな。
「試作した掘削機を持ってくるか?」
「試験も兼ねて持ってきた方が良さそうです」
今回だけで考えるなら、水路は騎士だけで掘り返せる気がしなくもないが、掘削機はダンジョン討伐以外にも工事で使い道はある。
モンスターも数は多くなく、評価試験するだけの余裕がある。
「ならば取りに戻る。無限駆動の修理は他の社員に任せる」
「分かりました。師匠が街に戻るための護衛部隊をベアトリクス様に編成してもらいます」
ベアトリクス様に相談すると、師匠を守るための護衛部隊が編制された。
師匠を護衛する部隊が街へと戻っていく。
モンスターを駆除しながら進んできたため、湖から街に戻るのに危険はそうないだろう。
騎士団とテラパワーの社員が集まって水路をどの位置に作るか話し合っている。
適当に掘れば良さそうに思ってしまうが、下手な場所に水路を作ってしまうと街まで流れる川になってしまう。候補地は選定されていたが、現地であらためて測量して決め直している。
ダンジョンを討伐しても、新しい川ができて街が川に沈みましたでは意味がないからな。
「アイザック」
「カール殿下」
クロエの兄であるカール殿下が近づいてくる。
カール殿下は他国の王族。ダンジョン討伐中に跪く必要はないが、背筋を伸ばして足を揃える。失礼のない姿勢をとる。
「今はダンジョン討伐中、楽にしてくれていい。それにクロエの友人がそこまで畏まる必要はない」
「はい」
足を揃えて立つのをやめ、いつでもすぐに動ける足幅に変える。
「クロエからアイザックが発明したものはすごいと聞いていたが、想像以上に凄まじいな。このまま水の注水がうまくいけば、死者を出さずに名前付きのダンジョンを討伐できる」
カール殿下は湖を見る。
大きな湖は今のところ水位の変化はない。
「自分もこれほど効果があるとは思っていませんでした」
「ダンジョン内に入らずともダンジョンを討伐できる可能性があるとは聞いていたが、まさか戦闘もほとんどしないとは思っていなかった」
「セレストドラゴン王国から援軍に来てくださったのに申し訳ありません」
湖を見ていたカール殿下が俺を見る。
「謝るな。これほど有用な装備を早く知った意味は大きい。セレストドラゴン王国での量産についてダンジョン討伐が落ち着いてから話し合いたい」
「了解いたしました」
こうまでうまくダンジョンを討伐できてしまうと発注数は増えるだろうな。
テラパワーが忙しいのは継続しそうだ。
「それと先ほど穴を掘るのは面白そうであったな」
そういえばシャベルで穴を掘る作業、クロエが気に入っていたな。
カール殿下に面白かったと伝えたか?
「水路を掘る位置が決まってからになりますが、道具は予備がありますので水路を掘るので試してみますか?」
「是非に」
試しにですごい量掘ってしまう気がするため、水路の位置が決まるまで待ってもらう。
水路作りは王族がやるような作業ではない気がするが、ダンジョンでモンスターを倒すのに比べれば違和感はないか。
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